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2018/11/02

核・弾道ミサイルをザックリ解説

「防衛白書」をザックリ解説: ④核・弾道ミサイルを解説(前編)

○ 30年度防衛白書における中国の脅威認識に入る前に、前回までの北朝鮮の脅威を語る際に必ず出てくる「核・弾道ミサイルの脅威」について、何となく分かるものの実は十分に理解していないので解説してくれ、というご意見をいただきました。言葉足らずで済みません。分かりやすく補足説明いたします。

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<核・弾道ミサイルのポイント>
○ まず、結論から申しますと、次の5点がポイントです。
 ①核は極めて爆発力が高い爆弾であり、
  その爆風、熱線、放射能によって
  壊滅的かつ無差別な破壊力を有する大量破壊兵器
 ②核弾頭をのせたウェポンシステムが核兵器であり、
  弾道ミサイル、戦略爆撃機、潜水艦発射弾道弾は
  敵を大量破壊/報復できる手段として抑止力絶大
 ③弾道ミサイルの決め手は
  敵の主要都市を直接狙える射程のミサイルの開発、
  核爆弾を小型化し大気圏再突入しても機能する弾頭の開発
  更に、発射装置の移動可能化及び潜水艦発射化などの残存性
 ④弾道ミサイルには、核弾頭と言わずとも
  化学兵器、生物兵器、高性能爆弾などの弾頭も搭載可能
  弾頭のみならず、推進ロケットの落下飛散の有毒性も脅威
 ⑤守る側は、これを迎撃しうる弾道ミサイル防衛システムが必要
  即ち、発射を探知/識別/追尾する警戒監視体制、
  ミサイルの弾道の各段階で迎撃する広域多重の迎撃ミサイル、
  これらの弾道ミサイル防衛をコントロールする管制システム

<①核兵器の威力>
○ まず、核兵器の何が恐ろしいか、から。
  まず何と言っても、核爆弾の強大な威力が脅威です。
  原子爆弾とは、爆弾の中のウランやプルトニウムなどに、爆薬の爆発によって核分裂を起こさせ、その核分裂の連鎖反応による莫大なエネルギーを生じさせる爆弾、いわゆる「原爆」です。更に、より大きな威力を得るため、原子爆弾を起爆剤として、その熱と圧力によって三重水素に核融合を起こさせ、更なる莫大なエネルギーを生ませる爆弾が水素爆弾、いわゆる「水爆」です。現在の核爆弾のほとんどがこの水爆です。加えて、爆発威力は小さいが中性子の大放出による生物への殺傷効果に特化したものが「中性子爆弾」です。一時期欧州正面で実戦配備されたもものの、今は実戦配備から外れています。これらの総称が核爆弾です。
  核爆弾が通常兵器の爆弾と決定的に違うのはその威力です。いわゆる爆薬、TNT(トリニトロトルエン)で換算して、原爆がキロトン(1000トン)級であり、水爆がメガトン(100万トン)級と言われています。ちなみに、広島・長崎が10kt~20kt、昨年の北朝鮮の核実験(平成29年9月)で北朝鮮は「水爆実験に成功した」と公表していますが、30年度防衛白書では、「6回目となる17(平成29)年の核実験の出力は過去最大規模の約160ktと推定されるところであり、推定出力の大きさを踏まえれば、当該核実験は水爆実験であった可能性も否定できない。」と評価しています。但し、実際の弾頭に載せるには、小型化・弾頭化する上で適切な核弾頭にしますので、核実験の威力のままメガトン級で載せるということはなく、装備の用途と技術的可能性に応じてキロトン級のものまでいろいろです。
  核爆弾の爆発により、その爆風、熱線、放射能という3つの壊滅的かつ無差別な破壊力を発します。1メガトン(Mt)の水爆が爆発したとすれば、爆風で2.4キロ以内のビル街が破壊され、17キロ以内の民間家屋は何らかの被害が。熱線による人体への被害としては、12キロ以内はⅢ度熱傷(皮下組織の深部まで)、15キロ以内はⅡ度熱傷(真皮まで)、19キロ以内はⅠ度熱傷(表皮まで)。やっかいなのが放射能による被害です。2.3キロ以内では致命的障害、2.9キロ以内では何らかの放射線障害を受けると言われています。一次的な放射能被害もありますが、むしろ爆風・熱線による被害の方が生命が危ぶまれます。爆風・熱線と違うのが死の灰のフォールアウトを含め、残留放射能があとあとまで人体に影響を及ぼします。服や表皮についても叩いたり洗えば落ちますが、吸い込みや飲食で体内に被曝すると影響が出ます。

<②核弾頭をのせた運搬手段のウェポンシステムが核兵器>
  いわゆる核兵器とは、核弾頭を載せた運搬手段のウェポンシステムを指し、基本的には戦略核戦力を意味します。というのも、核爆弾を野戦火砲(いわゆる大砲)の砲弾(核砲弾)としたり、魚雷(核魚雷)にしたり、一般の作戦に使うような戦術的な核兵器も開発されたわけですが、冷戦期に主要な対立軸であり核保有国であった米ソが、対立はするものの、相互確証破壊(Mutual Assured Destruction)という相互に「核を使ったらお互い破滅だよね」という暗黙の核の手詰まり状態が長く続いたため、戦術核はお互い使えないよね、というのが常識的になったためです。また、作戦正面というよりは長距離の、射程800km以内の短距離弾道弾(SRBM)、800~2000kmの準中距離弾道弾(MRBM)、2000~6000kmの中距離弾道弾(IRBM)も、核弾頭を載せられる以上、核抑止を前提に考えないわけにいけません。従って、ここでは戦略的な核抑止力を前提にお話しします。つまり、核兵器とは結局のところ、敵に戦場で勝利するための戦うための兵器ではなく、その威力の絶大さゆえに国家間の抑止力としての兵器なのです。
  この「抑止力としての核兵器」を「抑止力」たらしめるのは、相手国に対し大量破壊/報復できる手段を持つこと。すなわち、相手国にとって主要都市が脅かすだけの射程と精度、しかもオプションの柔軟性、更に残存性、言い換えやれば、仮に相手に先制第一撃をされたとしても生き残って報復できるウェポンシステムが必要です。その観点から、相手の主要都市を直接狙える弾道ミサイル、戦略爆撃機、潜水艦発射弾道弾という3本柱の運搬手段(トライアッド:TRIAD)を踏まえたウェポンシステムが抑止力として極めて重要です。とはいえ、それは冷戦期の話で、もはや戦略爆撃機の重要性は低減しつつあります。また、米ソ以外の国々にあっては、3本柱といわずとも、報復力としての核兵器を持てば抑止力たりえるので、英国やフランスは潜水艦発射弾道弾(SLBM)の1本で核武装しています。イスラエルやパキスタンは核の保有自体肯定も否定もしませんが、想定する敵が近隣なこともあり、恐らくミサイルのみ。中国は各種弾道ミサイルも潜水艦発射も、更に航空機発射の巡航ミサイルはあるので一応3本柱ですが、戦略爆撃機はかなり旧式です。事実上の2本立てかもしれません。そして、北朝鮮がどうやら弾道ミサイルと潜水艦発射の2本ですね。
  結局のところ、現代の主要な核兵器は、やはり弾道ミサイルですね。潜水艦発射というのは非常に残存性の高いプラットホームですが、そこから発射されるのは弾道ミサイルですから。

<③弾道ミサイルの要件>
  弾道ミサイルとは、Ballistic Missile = 弾道ミサイル という名称が示すように、遠投されたボールのような放物線を描いて飛んでいくミサイル(飛翔体)です。誘導ミサイルとの違いは、誘導(guided)の度合いです。例えば、空対空ミサイルや対戦車誘導ミサイルのような誘導ミサイルは、目標のエンジンの発する熱を追尾して命中するようにミサイル自らが自らを誘導します。他方、弾道ミサイルは、初期設定をした通りに発射したのちは重力に任せる形になります。発射の際のロケット噴進(加えて、状況により2段目のロケット噴進、等)で放物線の上り坂を上り、そこから先は(ロケットを切り離して)弾頭のみとなり、あとは放物線弾道を描きながら重力に従って落下する形です。これだと、誘導ミサイルの方が精密誘導できる分だけ優秀な装備のように見えますが、誘導ミサイルは目標に自らの軌道を微調整する誘導の所要から、誘導機能やミサイルの飛翔推進機能をミサイルに内蔵したまま、ミサイルが目標に命中するまで飛んでいくこととなり、ミサイルは大きく重くなります。ミサイルを小さくするのなら、当然弾頭も小さくなります。また、スピードに関して言えば「遅い」という特性があります。これに対し弾道ミサイルは、特に大陸間弾道弾(ICBM)などは6000kmを越える距離を大気圏を突破して飛んでいき、頂点に達した後は弾頭だけが大気圏に再突入して超高速で落ちてくるわけです。当然、スピードは「速い」わけです。要するに、弾道ミサイルは迎撃するのが非常に難しいものとなり、核兵器としての脅威度は高いものとなります。 (※誤解のないように補足しますと、誘導ミサイルは目標そのものがピンポイントに敵の車両や建物などのハードターゲットであって、精密誘導が必要なものであって通常弾頭で目的達成できます。他方、核兵器としては、目標が敵の主要都市の人口というソフトターゲット、すなわち、ある程度の精度は要求されるもののピンポイントではない目標ですので、「核弾頭の運搬手段としてはむしろ弾道ミサイルの方が適している」、という意味です。装備として誘導ミサイルが劣っているわけではありません。あしからず。)

  核兵器としての弾道ミサイルの重要な条件は、
* 射程: 敵の主要都市を直接狙える射程があること
* 弾頭化: 核爆弾を小型化し大気圏再突入しても機能する弾頭であること
* 残存性: ミサイル発射装置の移動可能化など残存性が高いこと
  まず第一に、「射程」です。 「敵の主要都市を直接狙える」というのは敵にとってこれほど極めて高い脅威はありません。届かなければ脅威ではないのです。北朝鮮が必死に射程の長いミサイルを開発しているのは、敵である米国の主要都市に届くように、まさにこれが故です。北朝鮮は米国と直接交渉したいのですが、米国が相手にしてくれません。しかし、米国の主要都市に届くミサイルを開発したらしい、ということになって米国も交渉し始めました。仮に届いても、目標とする都市に当たらずに山や海に落下しては意味がないので、当然誘導弾ほどの精密さは出せないにしてもある程度の精度がなければなりません。「弾道」なので前半の噴進するロケットが目標に一定の精度を保って「当たるように」弾頭を飛ばす必要があるわけです。ここまでできて、「射程」がOKになります。

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米軍のICBMピースキーパーの弾頭の再突入の景況

  次いで第二に、「弾頭化」です。ミサイルの弾頭に核爆弾を入れる、というのが大きな技術的な壁なのです。核爆弾を小型化し、なおかつ弾頭は大気圏を再突入して落下する際、大気の摩擦による猛烈な熱や圧力に耐えて爆弾が機能する再突入体を開発しなければなりません。しかも、敵は弾道ミサイル防衛システムによる迎撃ミサイルで対抗してきますので、この迎撃態勢の目をかいくぐって目標に到達するよう工夫する必要があります。冷戦期にMIRV(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle:複数独立目標再突入体?(仮約))というものが開発されました。弾道の頂点を越えて大気圏に再突入する頃の最終段階で、弾頭部分のカバーが外れる際に、カバーの中の複数の弾頭が独立的にそれぞれ別の目標に向かうよう微調整がなされ、それぞれの核弾頭がそれぞれの目標に向け、再突入していく形となりました。それぞれ別の目標といっても、狙った主要都市の中の目標が複数あるといった程度です。しかし、これで迎撃しづらくなるのは間違いありません。更に、最近では、MaRV(Maneuverable Reentry Vehicle:終末誘導機動弾頭(白書約))といって機動型の弾頭が開発されており、敵の迎撃ミサイルを避けて目標に命中するように、弾頭に舵や翼が付けられちょっとした機動ができるようになっている模様です。一説によると終末誘導まで可能なものまで開発されているようです。ちなみに、30年度の白書では、北朝鮮はMaRVを開発した可能性に言及しています。くわばら、くわばらですね。 

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米軍の車載発射装置 Small ICBM Hard Mobile Launcher

  そして第三に、「発射装置の残存性」です。弾道ミサイルの発射装置は、いわゆるロケット発射台のような固定型が定番ですが、これを地中に埋めてサイロ化したとしても、位置を標定されれば先制第一撃でやられてしまう可能性があります。従って、発射装置そのものを、車載型にするとか、ロシアのように線路に載せて移動可能にする等の措置で残存性を高めることが必要になります。北朝鮮も、発射台付き車両(TEL)を開発し実用化しています。また、潜水艦を発射装置にする潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は、潜水艦はいつどこの海中にいるのか不明なため、極めて残存性の高く、核抑止力として決め手となるウェポンシステムといえます。通常の潜水艦は、海面に排気孔を出してエンジンを回して電池に蓄電して潜水するため、その電池が切れる頃には海面に上がらねばなりません。原子力潜水艦は、原子力エンジンのための排気が要らず、相当期間海面に出ずに海中で行動ができます。SLBMを持つ潜水艦を敵国は血眼になって追いますが、これが攻撃型潜水艦や水上艦艇や哨戒機からの対潜哨戒作戦です。ちなみに、日本は対潜哨戒能力が極めて高い、と国際的評価を得ていますね。ここでSLBMを搭載した潜水艦がとろくて、対潜哨戒作戦で捕まるようでは、核抑止力は低減することになります。北朝鮮の場合、SLBMを開発したようではありますが、大陸間弾道弾をSLBM化しているわけでは当然ありませんので、その射程からすると、ある程度米国に近いところまで潜水艦が行動していないと「届かない」ことになります。
  いずれにせよ、発射装置という核兵器のプラットホームを移動可能化して残存性を高め、そのウェポンシステムのオプションの幅を多く持っておく、ということは核抑止力を高める意義があります。

(つづく)
※ ちなみに、上記の内容は全て一般資料(公開資料、論文、市販の本、等)で確認できる内容を基に記述したものであり、現役時代に職務上入手した内部資料等ではありません。

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