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2022/11/12

ロシア軍ヘルソン西岸から後退:今後の焦点はドニプロ川渡河作戦になる

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ロシア軍が後退したへルソン市で解放された歓喜を爆発させる残留住民(2022年11月11日付CNN「Ukrainian troops sweep into key city of Kherson after Russian forces retreat, dealing blow to Putin」より)

遂にロシア軍がへルソン西岸から後退
 先週あたりからメディアが喧伝していたロシア軍の「へルソン撤退」について、2022年11月9日水曜にロシアが正式に発表し、10日木曜には相当数のロシア軍のドニプロ川の渡河・後退が確認されています。ちなみに、メディア報道では「へルソン撤退」(2022年11月11日付朝日新聞「ヘルソン撤退『命のため』プーチン政権、痛手払拭に必死 戦況膠着か」、同日付JIJI.COM記事「「防衛強化」か「敗北」か ロシアがヘルソン撤退決定―ウクライナ情勢、今後に影響」ほか)とか「放棄」(同日付産経新聞記事「ロシアがヘルソン市の放棄を決定」ほか)といった言葉を使っていますが、正確にはロシア軍はヘルソン市の主要部があるドニプロ川西岸からの「後退」をするのであって「(完全)撤退」ではありません。事実は、ドニプロ川の東岸に後退し、東岸の線に構築した塹壕陣地でウクライナの進撃を川の線で止める構えです。(参照:2022年11月12日付ISW記事「RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, NOVEMBER 11」)

 ともあれ、11日金曜の段階で、ウクライナ軍は慎重に前進しつつ、主力部隊をヘルソン市手前で展開させつつ、一部の部隊をへルソン市に投入しました。へルソン市は全くの沈黙、ロシア軍の攻撃はなし。潜んでいたものの、大丈夫そうなので街へ出てきた残留住民が解放された歓喜を爆発させ、市街へ繰り出し始めました。前掲のCNNの報道によれば、街へ繰り出してきた住民にインタビューしたところ、まさに前日までロシア軍の略奪に遭い、男性は拘束・拷問され、女性は強姦(記者が実際にインタビューした15歳の少女の話をレポートしていました)されていた恐怖の日々だったとのこと。歓喜を爆発させるのも理解できるところです。

ドニプロ川の渡河が次の焦点に
 解放を喜ぶ残留住民でごった返すヘルソン市中心部は、今のところかりそめの開放・勝利を喜ぶ状態ですが、喜びもつかの間、すぐ直面するのは「戦争継続中」という現実でしょう。ウクライナ政府や軍首脳が警戒しているロシア軍のへルソン市への攻撃は、まさにいつ始まるかわからない緊張下にあります。へルソン市を市の街に変えるロシア軍の猛烈な砲爆撃、残留住民を装って潜伏するロシア兵によるテロ攻撃、カホウカ水力発電所の巨大ダムの決壊など、考えられるロシア軍の報復攻撃に警戒しつつ、ウクライナ軍は非常に慎重に、じっくりとドニプロ川西岸に布陣し始めています。11月半ばには、ドニプロ川に沿って、カホウカからヘルソン市を経て黒海の河口までの間の250キロに渡って、ウクライナ軍とロシア軍が対峙する形となるでしょう。

 ヘルソン市攻防戦の前半戦は、ウクライナ軍がロシア軍の兵糧攻めをする形で寄り切り、継戦能力の無くなったロシア軍が川で退路が断たれる前に東岸に後退する形となりました。まさにウクライナ軍の「寄り切り」ないし「押し出し」ですね。へルソン市内の血みどろの激戦とならずに静かな勝利となりました。これは、ウクライナ軍の8月から計画的かつ徹底的に実施した兵糧攻めによるものです。ロシア軍へルソン守備隊のはるか後方にあった武器・弾薬庫などの兵站基地、後方補給線のチョークポイントとなる橋などを、西側供与の長射程火砲HIMARSで破壊した結果、ロシア軍は戦闘継続のための武器・弾薬・食料等の備蓄を枯渇させ、かつそれを再補給する補給線をか細くさせたため、継戦能力を断ったのです。加えて、ウクライナ軍の攻撃は、一部の部隊による果敢な突撃などを一切排し、部隊として線を揃えてじわじわと攻撃前進し、前後左右の部隊の鉄壁の相互支援の下で歩を進める形をとった模様です。まさに囲碁の布石ですね。将棋の棒銀戦法のように、一部の部隊で突っ込んで相手をかき回すようなことはせず、あくまで慎重に部隊の線を揃えてじわじわと地域を確保していく攻め方です。この調子でドニプロ川西岸にじわじわと詰めて行くでしょう。

 さて後半戦、ドニプロ川を挟んでの両軍対峙からスタート。勝負はドニプロ川のウクライナ軍の渡河攻撃です。対するロシア軍は、せっかく西岸の部隊を温存して後退させ、東岸陣地線に配備するからには、ドニプロ川の線で努めて長期間防御戦闘を継続して、ウクライナ軍の反撃攻勢の進捗を止めて、時間稼ぎをすることです。プーチンから「ドニプロ川の線を死守せよ」と厳しく厳命されていることでしょう。ドニプロ川は莫大な水量の大河ですから、守るロシア軍にとっては天然の要塞であり、渡河しなければならないウクライナ軍にとっては難攻不落の城の要塞に見えるでしょう。渡河するためには、西岸に川を渡るための拠点を作り易く、川を渡り易く、なおかつ渡った後に東岸に比較的頑強な出城を作り易い「渡渉点」適地を数本設け、同時に渡河作戦を遂行することになります。このため、東岸のロシア陣地に砲弾のどしゃ降りを降らせて頭を上げさせず、この隙に渡河するための架橋(応急の橋の作成)、浮橋(ボートではしけを作ってはしけごと渡河)等の手段で渡河し、渡河した東岸で拠点を設けて、後続の渡河を援護し、後続部隊は東岸で攻撃を継続する、・・・というのが流れです。しかし、今回はその川の線でロシア軍は陣地線を構築しているので、この渡河作戦は間違いなく激戦になります。

ロシアの時間稼ぎに騙されてはいけない
 恐らく、ロシア軍のへルソン守備隊の任務は、ドニプロ川の線でウクライナ軍の新軍を止めて長期持久することです。プーチンとしては数か月ほしいところであり、冬将軍の力も借りて何とか長期持久させたいところでしょう。これは予備役の部分動員で得た補充兵を十分に訓練し、装備も充実させて、晴れて強力な増援部隊として前線に出して、十分な兵力で戦線を巻き返すためです。しかし、今のへルソン守備隊の兵力とか細い補給では長くても1ケ月でしょうね。従って、ロシア軍はこれを何とか持久させるためのあの手この手の策を取ってくるでしょう。例えば、西岸のへルソン市への猛烈な砲爆撃、残留住民を装ったロシア特殊部隊によるへルソン市でのテロ攻撃、ウクライナ軍の残留ロシア兵の掃討を「へルソン住民へのウクライナ軍の残虐行為」と報じる情報戦、潜入させた特殊部隊によるカホウカ・ダムの爆破・決壊、ウクライナの電力などのインフラ攻撃の再興、西側へのLNGガス等の供給停止、ウクライナからの穀物輸出への攻撃、などなど何でもありの妨害工作をするでしょう。また、ヘルソン正面だけの話ではなく東部戦線ドンバス正面を含めたロシアとウクライナの間の両国間の話として、厳寒時期を迎えるこの機に乗して「見せかけの停戦交渉」を仕掛けてくるかもしれません。期間を限定した「停戦」など、ありとあらゆる時間稼ぎをするでしょう。事実、ミリー米軍統合参謀長が「両軍とも相当数の死傷者を出している。(厳冬期を迎えるに当たり)そろそろ停戦交渉をすべき。」との趣旨の発言をし始めました。(参照:2022年11月11日付Republiworld.com記事「Russia-Ukraine War: 100,000 Russian Soldiers Killed & Wounded, Says US Army Gen Milley」)米軍のミリー将軍は善意で言っているのでしょうが、こういう流れに乗って騙されてはいけません。ロシアに取っては、それらは「住民保護」や「停戦」の衣をまとった時間稼ぎに過ぎません。

激戦承知で渡河作戦あるのみ!
 ウクライナ軍にとっての一番の対抗策は、渡河作戦の敢行とヘルソン全域への進撃継続、ひいてはクリミア半島奪回を目指した反撃攻勢の続行です。恐らく、激戦となり多くの血が流れ相当数の兵士が死傷するでしょう。しかし、やらねばならないのです。ロシアに時間稼ぎの機会を与えると、パワーアップしたロシアは各正面で劣勢を挽回してきます。その期間に、か細かった後方補給線も太く回復し強靭化してしまいます。従って、引き続き、へルソン守備隊の後方補給線への攻撃を続けるとともに、ロシア軍のドニプロ川東岸陣地線を早期に渡河・突破すべし!ロシア軍の先手先手を打っていき、ロシアの鼻面を引きずり回しましょう。

頑張れ!もう少しだウクライナ!

(了)

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