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2018/11/03

続 核・弾道ミサイルをザックリ解説

「防衛白書」をザックリ解説: ⑤核・弾道ミサイルを解説(後編)

○ 前回からの続き、後編です。

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弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル発射試験(平成29年2月4日(日本時間) 於:米国ハワイ沖)
( http://www.mod.go.jp/j/approach/defense/bmd/ より ) ※ イージスSM-3ブロックⅡAだと思います

<④弾道ミサイルの脅威: 核以外の大量破壊兵器も弾頭に>
  これまで述べてきたように、弾道ミサイルは敵の主要都市を直接狙えるわけですから、弾頭が核兵器であれば極めて脅威が高いわけですが、当然のように、普通の爆薬の通常弾頭でもいいわけですし、化学兵器、生物兵器、などの大量破壊兵器が弾頭でも搭載可能です。
  弾道ミサイルによる大量破壊兵器の脅威の実例として、湾岸危機・湾岸戦争を見てみましょう。1990年8月のイラクのクウェート侵攻により生起した1990年から翌91年にかけての湾岸危機及び湾岸戦争の際、イラクはこの戦争を「アラブ対親イスラエル」の戦いであるかのように策謀して、湾岸戦争間にイスラエルに対して弾道ミサイルであるスカッドミサイルで攻撃しました。イスラエルがこれに報復してイラクに対しsurgical air-strike(外科手術的航空攻撃)などをした場合、他のアラブ諸国はイラク側に回る可能性も十分ありました。いつものイスラエルなら報復しそうなものでしたが、米国が必死に隠忍持久を説得したこともあって、実際にはイスラエル政府は珍しく我慢しました。イラクのスカッド攻撃は18回にわたり39発撃ちこみ、一部はパトリオットミサイル等により迎撃されましたが、一部はイスラエルの市街に命中、200名を越える負傷者、直撃及び関連で10数名の死傷者が出ました。この時、イラクのスカッドミサイルの弾頭は全て通常爆弾でした。しかし、イラクは自国内のクルド人に対する制圧に化学剤(毒ガス)を使用したことがあったため、イスラエルに対して化学兵器を弾頭にしたガス攻撃をするのではないか、という脅威が取りざたされました。実際にイスラエル政府は国民にガスマスクを配布し、マスクを装着してシェルターへの避難などの訓練も実施していました。当時イラクは核開発が成功していませんので核など持っておらず、核弾頭の可能性はなかったのですが、生物化学兵器は十分可能性がありました。
  弾道ミサイルの脅威というのは、大量破壊兵器を弾頭に載せて攻撃されるかもしれない、という恐怖、脅威感なのでしょうね。核爆弾は勿論ですが、化学剤であっても生物兵器であっても、自国の主要都市がその脅威にさらされているとあれば、パニックになるであろうことは容易に想像できます。化学剤は第一次大戦にて実戦で使用されたことがありました。しかし、凄惨な被害の状況や自国の作戦そのものへの影響もあって、諸国間で条約も作り、諸国間の戦争においてはそれが破られることなく使用されずに現在まで来ています。しかしながら、これが理性ある合理的な状況判断のできそうもない国、いわゆる「ならず者国家」やテロ組織などの非国家主体にあっては、実際に使用した例もあるし、使用しそうな場合もありえます。
更に、数年前の北朝鮮のように、弾道ミサイル開発中で実証実験をしているような場合、その弾道ミサイル自体が計算通りに発射され予定の弾道を描くかどうかも信頼できないわけです。日本をまたいで発射されたこともありました。失敗して堕ちてくるのでは?というのは杞憂ではないかもしれなかったのです。落下した残骸のロケット燃料には、人体に非常に有害な物質が含まれています。北朝鮮のミサイル実験の度に、海空の自衛隊が弾道弾対処で迎撃しうる態勢を取るとともに、陸上自衛隊の特殊武器防護部隊等が落下してきた場合の対処のための待機をしていたこともありました。

<⑤守る側の弾道ミサイル防衛の必要性>
  これまで核・弾道ミサイルについて解説をして参りましたが、守る側の態勢についても語らないと片手落ちになります。弾道ミサイルの脅威に対する防衛とは、これを迎撃する態勢、すなわち弾道ミサイル防衛(BMD: Ballistic Missile Defense)です。撃たせないための事前の外交努力というのは勿論ですが、ここでは弾道ミサイル攻撃のまさに脅威の水際にスポットライトを当て、いかに弾道ミサイルから国民や国土を守るかについて考えたいと思います。この際、防衛白書の自衛隊の弾道ミサイル防衛システムにロックオンせず、一般論としての弾道ミサイルに対する迎撃態勢、弾道ミサイル防衛についてお話しします。

○ 弾道ミサイル防衛の仕組み
  弾道ミサイル防衛は、突き詰めると次のようになります。
  まず、敵の弾道ミサイルの発射情報を早期に補足し見極める。
  次いで、我への攻撃と判断したら努めて早期にこれを迎撃する。
  単純明快な仕組みながら、これを具現化するのは非常に難しいものがあります。しかも、持ち時間の問題が大きく横たわります。何千キロという長距離ならリードタイムも何十分かありますが、北朝鮮の弾道弾攻撃を日本が防衛する、となると10分しかかからずに落ちてくるので、迅速に対応しなければならないのです。
  上記の2点を現実の部隊や装備に具体化すると、次の3つの機能になります。
(1)  発射を探知/識別/追尾する警戒監視体制
(2)  弾道の各段階で迎撃する広域多重の迎撃ミサイル
(3)  弾道ミサイル防衛をコントロールする管制システム
  実際的には、(1)と(3)は分けずに警戒管制としたりしますが、あくまで機能で分けました。

プレゼンテーション1
日本の弾道ミサイル防衛システムの整備・運用のイメージ

○ 迎撃態勢
  では、迎撃態勢の一般的なイメージを説明いたします。
(1)  発射を探知/識別/追尾する早期警戒監視体制
   敵の弾道ミサイルの発射の兆候を見つけ(探知)、それが弾道ミサイルであるのか、概ねどこを目標としているのか等を判定し(識別)、その弾道の軌道を見失わないようにリアルタイムで捕捉する(追尾)することが肝心です。
   いつどこでいかに発射されるか分からない弾道ミサイルを、探知し、識別し、追尾するための早期警戒監視体制を構成する必要があります。対象国の弾道ミサイル発射があるかもしれない広域(海面も含め)をカバーするため、広域多重の警戒監視の目が求められます。
   具体的には、
 * 偵察衛星: 平素から情報収集
 * 早期警戒衛星: 発射されたミサイルを早期に探知
 * 地上レーダー、海上配備レーダー  
 * 早期警戒機
 * これらの早期警戒監視のネットワーク構成
 等で早期警戒監視態勢を取らねばなりません。

(2)  弾道の各段階で迎撃する広域多重の迎撃ミサイル
   早期警戒監視態勢により探知/識別/追尾した結果、この弾道ミサイル発射が我を攻撃目標としていると判断できた場合、直ちにこれを迎撃しなければなりません。このため、予め広域多重に配備した弾道ミサイル迎撃ミサイルにより、弾道ミサイルの弾道の努めて早期の段階でこれを撃ち落とすことが求められます。撃ち落とすなら、まだロケットで重力に逆らってミサイルを推進させている弾道の登坂途上のスピードが遅い初期段階(ブースト段階)が一番のチャンスです。次いで大気圏を突破し(空気抵抗なし、重力小さい)上り切ってロケットを切り離す前の中間段階(ミッドコース段階)。ここまでで迎撃できないと、弾頭のみ、しかも複数に分かれて大気圏を再突入して高速で落下してくる最後の終末段階(ターミナル段階)です。
   迎撃手段としては、
 * ブースト段階: 航空機搭載レーザー
 * ミッドコース段階: 海上配備型迎撃ミサイル(例:イージス艦SM-3)、陸上配備型迎撃ミサイル(例:イージスアショア) 
 * ターミナル段階: 陸上配備型迎撃ミサイル(例: THAAD、ペトリオット等)
ですが、自衛隊の装備では、中間(ミッドコース)段階にイージス艦SM-3、終末(ターミナル)段階でペトリオットPAC-3のみなので、非常に心もとないところがあります。日本はこの持ち駒で戦わなければならないので、中間(ミッドコース)段階で迎撃するイージスアショアは日本の弾道ミサイル防衛の補強としては頼りになることは間違いありません。THAADもあった方がいいかもしれませんが、むしろイージスアショアの方がより頼りになります。THAADはペトリより高高度まで届きますが、いずれにせよ終末(ターミナル)段階で数個に分かれ大気圏に再突入し高速で落下する小さい弾頭が目標なのです。24時間365日、常続的に対応可能な陸上からのイージスにより、海上のイージスと相まって、まだ大気圏外で弾頭を切り離していない的の大きい段階で撃ち落とす方が、地上への影響も局限できます。しかし、ちょっと癪なのが、トランプに買わされる感も否めないところではあり、高い買い物ながら、・・・。背に腹は代えられない、というところでしょうかね。
170px-Patriot_missile_launch_b.jpg
湾岸戦争時のペトリオットの発射の景況
300px-Mda_aegis.jpg
イージス・アショア・サイト

(3)  弾道ミサイル防衛をコントロールする管制システム
   これまで見てきたような警戒監視の目を迎撃手段と、ウェポンシステムとして有機的に機能するように、ネットワークで結んでコントロールしなければいけません。しかも、持ち時間が限られた中で。特に、日本の場合、北朝鮮が発射したミサイルは10分くらいの持ち時間しかないのです。仮に、北朝鮮が米国に対して大陸間弾道弾(ICBM)を撃つとしたら30分のオーダーです。日本には落達まで10分しか時間がないのです。発射直後に米軍からの早期警戒衛星情報を得たとして、識別、追尾、そして我が国への攻撃を見極めて、ネットワークでつないだ迎撃手段を管制して撃ち落とすまで、10分しかないのですよ。くどいようですが、努めて早期に迎撃した方がいいので、更に持ち時間は限られます。勝負は、弾道ミサイル防衛の各端末をネットワークで結んでコントロールするシステム化ですね。
   自衛隊では、弾道ミサイル防衛統合任務部隊指揮官(航空総隊司令官)の指揮のもと、米軍とも密接に連携しながら、自動警戒管制システム(JADGE)、海自イージス艦、空自警戒管制レーダー、空自ペトリオット、(導入すれば陸自イージスアショアも)等をネットワークでリンクし、何とか時間に間に合うようにほぼ自動的に、システマティックに対応するようになっています。

   いかがでしたでしょうか?
   えっ?「迎撃ミサイルって当たるの?」って私に聞いてるの?ウーン、確かに実証実験では当たるようになってきましたが、・・・。
   既述の通り、まず時間がないですね。リードタイムがもっとあればいいんですが。そして撃ち漏らしが怖いこと。初期のブースト段階で撃ち取れればそれが一番ですが、まだ判定できないでしょうね。あ、手段もないのか。中間段階のイージスが頼りですね。ここでイージスが撃ち漏らすと、終末段階では複数の弾頭に分かれて超高速で落ちてくるんですよ。なんぼペトリが頑張っても、何発か撃ち漏らしたら、それが日本の国土に落達するわけですから。怖いですよね。・・・
   でも、そんなことにならないように祈ってますが。

  (了)

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