ウクライナ支援のための武器確保をめぐる西側諸国の奔走:死の商人が暗躍
戦況:ロシアは東部2州の線まで押し戻す攻勢をかけている模様
2023年2月4日現在、目にはさやかに見えねども、ロシアは3月中にロシアが併合したと主張する東部ドンバス戦線のドネツク州、ルハンシク州の東部2州のウクライナに奪回された部分を取り戻すことを目標に現在攻勢をかけている模様です。前回のブログで述べたように、ウクライナは春には西側諸国から提供された戦車、装甲歩兵戦闘車等が戦場に戦力として展開できるようになるため、ロシアとしてはそれ以前の3月中を目途に東部2州の線まで取り戻す攻勢をかけている、と見られます。
ISWの戦況分析では、東部2州の線まで奪回できるに足る戦力をロシアは準備できていません。プーチン大統領は、ロシアの現有戦力を過大評価し、「できる」と踏んで軍に命じている模様です。ロシアにしてみれば大攻勢をかけているのでしょうけど、大攻勢というほどの爆発的な攻撃衝力がないので、見かけ上はこれまで同様の攻撃にしかみえませんが、確かに、ここへ来てロシアの攻撃は激しさを増しています。対するウクライナも一歩も退かず、ドンバス平原の要衝バハムートを巡る激しい戦闘が繰り広げられております。
(参照: 2023年2月2日付Newsweek記事「Putin Has 'Overestimated' Russia's Ability to Capture Donetsk by March: ISW」)
西側諸国はロシアを押し戻すべくウクライナへの武器供与に奔走
かれこれ1年になるロシアのウクライナ侵攻に対するウクライナの支援を通じ、西側諸国の軍事支援をめぐる態勢は大きく変わり、今や「ヨーロッパ」や「NATO」の垣根を越えて、広く西側の諸国は、有形無形でウクライナへの戦争継続や国家・国民の存続のための物心の支援を与えるために奔走しています。特に、武器・弾薬の確保と供与のため、武器・弾薬の供給源をめぐって洋の東西を問わず探求が続いています。
ほとんどの西側諸国、特にウクライナ以西のヨーロッパ諸国は、これまで紛争当事国に武器を供与することはできないというのが長年の政策でしたが、ロシアのウクライナ侵攻がこの前提を大きく変え、今では、ウクライナ以西の欧州諸国がそれぞれの形でウクライナ支援に血道を当てています。特にドイツ、スウェーデン、ノルウェーは、厳しい国内法上の制約を方針変更し、欧州全体の将来のために武器・弾薬の供与の道を開きました。
米国、英国、ドイツ、フランスは言うに及ばず、各国が火砲をはじめ武器・弾薬等を提供し、近々ではウクライナの求めに応じて主力戦車まで提供することになりました。この辺は、ロシア本土を脅かす兵器は差をロシアを過剰に刺激し、紛争が拡大したり、ひいてはロシアにあく兵器使用の口実を与えることになるため、慎重にステップを進めています。
そのような中、ウクライナの主要な武器供給国であるポーランドは、様々な武器・弾薬の供与に加え、自国防衛用の補填として、韓国と58億ドルにも及ぶ契約で戦車、榴弾砲、弾薬などを購入する方向です。ウクライナへの支援を、という同調圧力が西側諸国の共通の課題となり、ウクライナから遠く離れながらも西側の一員として、日本や韓国も例外ではありません。厳しい国内的制約で、国外への軍事支援などもってのほかの日本は、ウクライナに防弾チョッキやヘルメットなどの非殺傷の軍事装備を供与しています。記憶に新しいところでは、今週ストルテンべルグNATO事務総長が韓国・日本を歴訪し、更なる手厚いウクライナ支援、特に軍事支援について両国に念を押して帰りました。
(参照:2023年2月1日付VOA記事「In Search of Ukraine Weapons, NATO Looks East」)

数十両のレオパルドⅠ型戦車の上でドヤ顔の死の商人(Freddy Versluys, the CEO of Belgian defense company OIP Land Systems, stands among dozens of German-made Leopard 1 tanks, in a hangar in Tournais, Belgium, Jan. 31, 2023.)(2023年2月2日付VOA記事「Belgian Arms Trader, Defense Minister Tangle Over Tanks for Ukraine」より)
死の商人が暗躍
こうしてウクライナへの支援のための武器・弾薬の供与でいかに自国は貢献するか、という命題を持った各国は、これまで日陰者だった「死の商人」達に活躍の場を与えています。
上記の写真をご覧あれ。ベルギーの片田舎にある巨大な倉庫に、ドイツのレオパルドⅠ型戦車が数十両並んでおり、その戦車の上で武器商人がドヤ顔をしています。
この戦車上の人物は、ベルギーの武器商社OIPランドシステムズのCEOでフレディ・ヴェルスルイス氏。これらの戦車は、元々ベルギー軍の装備でしたが、新旧装備の交代に伴い、ベルギー国防省がこの業者に売却したものです。この武器商人はこれをストックし、戦車を要する中東やアフリカ、アジアなどの国々に車体ごと売ったりパーツを売ったりしていました。ここへ来て、ベルギーがウクライナ支援のために丸ごと買い戻そうと交渉をしたところ、法外な価格を提示されて揉めているそうです。具体的には、この業者は、これら戦車を元々200万ユーロ(1ユーロ142円として2億8400万円)で買い、今やその戦車を1両につき10万〜100万ユーロ(1420万〜1億4200万円)と吹っかけている模様です。ちなみに、レオナルドⅠ型は旧式戦車ですが、ロシアがウクライナの戦場で使っている旧式戦車が相手なら十分に戦えますし、ウクライナ歩兵の前進/後退に際し、戦車と共に戦闘行動を行うと非常に頑強な戦闘力となります。実際、現在ウクライナ軍が使用している戦車は、ポーランド等の旧東側諸国がウクライナに供与したロシア製の旧式戦車ですから。
(参照:2023年2月2日付VOA記事「Belgian Arms Trader, Defense Minister Tangle Over Tanks for Ukraine 」)
こういう輩を暗躍させるのははなはだ不本意なことです。しかしながら、ロシアが侵攻作戦を続ける以上、通常戦力どうしのぶつかり合いでウクライナに勝ってもらうよう軍事支援する以外、他に手がないことも事実であり悲しい現実です。
できるだけ早期に、こういう輩が「商売上がったり」の平和が当たり前の状況に引き戻さねばなりません。悲しいかな、それまでは仕方ない、としか言えません。
ウクライナ支援の武器確保の奔走はプーチンを「封じ込め」るためには仕方がない
ふと思い出したのは、冷戦の終盤となった1980年代の軍拡競争です。米国はレーガン大統領の治世で「強いアメリカを取り戻す!」という子供じみたスローガンで、米ソ軍拡競争が激しさを増す頃、核戦争の脅威が増す中で、レーガン大統領は「戦略防衛構想(SDI):スターウォーズ計画」なる壮大な子供じみたイニシアチブを打ち出しました。当時、防衛大学学生~初級幹部でしたが、「バカなのか?」という冷めた目でニュースを追っていました。この頃、当のソ連も米国・西側に負けじと、ワルシャワ条約機構の東側諸国の陣頭に立って、東側の軍拡を推し進め、極東アジア情勢にも大きく戦力バランスに影響を与える中距離弾道弾SS-20の極東配備などを推し進めていました。自衛隊に身を置いていたので、日々緊張が増す国際情勢に固唾を飲んだものです。この時期、ソ連の社会主義経済はもはや自転車操業状態で、社会主義国家のシステムそのものにあちらこちらで赤信号がともり、東側諸国の離反も始まっていました。この軍拡競争は、間違いなくソ連の崩壊を招きました。正確に言うと、西側諸国は米国主導で冷戦の始まりからずっとソ連/東側に対して「封じ込め政策」をしてきたわけですが、冷戦末期にその総仕上げとして「軍拡競争」という形で違った形の封じ込めを実施し、当時既にガタが来ていたソ連の政治経済を軍拡競争に奔走させ、その自壊を早めさせた、ということでしょう。
時は変わって、現在のウクライナ戦争。再び同じような状況ですね。要するに、ウクライナ侵攻への対応を契機に、ソ連の再興を目標とするプーチンのロシアを、ウクライナを土俵とした軍拡競争に奔走させることで、その自壊を早めようとしているのではないかと推察します。基本的には「軍拡」はくだらないのですが、「武力侵攻で勝ち取ったら自国領土にできる」という時代錯誤の認識を持つ「プーチンのロシア」という元凶を潰すために、当面は「仕方なく」西側は一致団結して奔走するしかないと思います。そのうち、もはや侵攻を継続する前に自国の経済が破綻する状況に直面し、ロシアは自らプーチンを葬るでしょう。そして、即時停戦へ。その目標の達成まで、戦いの土俵となっているウクライナを支えるのが、国際社会の一員としての責務だと思います。
それでも頑張れ、ウクライナ!
ロシアの攻勢に耐え切れ!勝利の日は近い!
(了)


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2023年2月4日現在、目にはさやかに見えねども、ロシアは3月中にロシアが併合したと主張する東部ドンバス戦線のドネツク州、ルハンシク州の東部2州のウクライナに奪回された部分を取り戻すことを目標に現在攻勢をかけている模様です。前回のブログで述べたように、ウクライナは春には西側諸国から提供された戦車、装甲歩兵戦闘車等が戦場に戦力として展開できるようになるため、ロシアとしてはそれ以前の3月中を目途に東部2州の線まで取り戻す攻勢をかけている、と見られます。
ISWの戦況分析では、東部2州の線まで奪回できるに足る戦力をロシアは準備できていません。プーチン大統領は、ロシアの現有戦力を過大評価し、「できる」と踏んで軍に命じている模様です。ロシアにしてみれば大攻勢をかけているのでしょうけど、大攻勢というほどの爆発的な攻撃衝力がないので、見かけ上はこれまで同様の攻撃にしかみえませんが、確かに、ここへ来てロシアの攻撃は激しさを増しています。対するウクライナも一歩も退かず、ドンバス平原の要衝バハムートを巡る激しい戦闘が繰り広げられております。
(参照: 2023年2月2日付Newsweek記事「Putin Has 'Overestimated' Russia's Ability to Capture Donetsk by March: ISW」)
西側諸国はロシアを押し戻すべくウクライナへの武器供与に奔走
かれこれ1年になるロシアのウクライナ侵攻に対するウクライナの支援を通じ、西側諸国の軍事支援をめぐる態勢は大きく変わり、今や「ヨーロッパ」や「NATO」の垣根を越えて、広く西側の諸国は、有形無形でウクライナへの戦争継続や国家・国民の存続のための物心の支援を与えるために奔走しています。特に、武器・弾薬の確保と供与のため、武器・弾薬の供給源をめぐって洋の東西を問わず探求が続いています。
ほとんどの西側諸国、特にウクライナ以西のヨーロッパ諸国は、これまで紛争当事国に武器を供与することはできないというのが長年の政策でしたが、ロシアのウクライナ侵攻がこの前提を大きく変え、今では、ウクライナ以西の欧州諸国がそれぞれの形でウクライナ支援に血道を当てています。特にドイツ、スウェーデン、ノルウェーは、厳しい国内法上の制約を方針変更し、欧州全体の将来のために武器・弾薬の供与の道を開きました。
米国、英国、ドイツ、フランスは言うに及ばず、各国が火砲をはじめ武器・弾薬等を提供し、近々ではウクライナの求めに応じて主力戦車まで提供することになりました。この辺は、ロシア本土を脅かす兵器は差をロシアを過剰に刺激し、紛争が拡大したり、ひいてはロシアにあく兵器使用の口実を与えることになるため、慎重にステップを進めています。
そのような中、ウクライナの主要な武器供給国であるポーランドは、様々な武器・弾薬の供与に加え、自国防衛用の補填として、韓国と58億ドルにも及ぶ契約で戦車、榴弾砲、弾薬などを購入する方向です。ウクライナへの支援を、という同調圧力が西側諸国の共通の課題となり、ウクライナから遠く離れながらも西側の一員として、日本や韓国も例外ではありません。厳しい国内的制約で、国外への軍事支援などもってのほかの日本は、ウクライナに防弾チョッキやヘルメットなどの非殺傷の軍事装備を供与しています。記憶に新しいところでは、今週ストルテンべルグNATO事務総長が韓国・日本を歴訪し、更なる手厚いウクライナ支援、特に軍事支援について両国に念を押して帰りました。
(参照:2023年2月1日付VOA記事「In Search of Ukraine Weapons, NATO Looks East」)

数十両のレオパルドⅠ型戦車の上でドヤ顔の死の商人(Freddy Versluys, the CEO of Belgian defense company OIP Land Systems, stands among dozens of German-made Leopard 1 tanks, in a hangar in Tournais, Belgium, Jan. 31, 2023.)(2023年2月2日付VOA記事「Belgian Arms Trader, Defense Minister Tangle Over Tanks for Ukraine」より)
死の商人が暗躍
こうしてウクライナへの支援のための武器・弾薬の供与でいかに自国は貢献するか、という命題を持った各国は、これまで日陰者だった「死の商人」達に活躍の場を与えています。
上記の写真をご覧あれ。ベルギーの片田舎にある巨大な倉庫に、ドイツのレオパルドⅠ型戦車が数十両並んでおり、その戦車の上で武器商人がドヤ顔をしています。
この戦車上の人物は、ベルギーの武器商社OIPランドシステムズのCEOでフレディ・ヴェルスルイス氏。これらの戦車は、元々ベルギー軍の装備でしたが、新旧装備の交代に伴い、ベルギー国防省がこの業者に売却したものです。この武器商人はこれをストックし、戦車を要する中東やアフリカ、アジアなどの国々に車体ごと売ったりパーツを売ったりしていました。ここへ来て、ベルギーがウクライナ支援のために丸ごと買い戻そうと交渉をしたところ、法外な価格を提示されて揉めているそうです。具体的には、この業者は、これら戦車を元々200万ユーロ(1ユーロ142円として2億8400万円)で買い、今やその戦車を1両につき10万〜100万ユーロ(1420万〜1億4200万円)と吹っかけている模様です。ちなみに、レオナルドⅠ型は旧式戦車ですが、ロシアがウクライナの戦場で使っている旧式戦車が相手なら十分に戦えますし、ウクライナ歩兵の前進/後退に際し、戦車と共に戦闘行動を行うと非常に頑強な戦闘力となります。実際、現在ウクライナ軍が使用している戦車は、ポーランド等の旧東側諸国がウクライナに供与したロシア製の旧式戦車ですから。
(参照:2023年2月2日付VOA記事「Belgian Arms Trader, Defense Minister Tangle Over Tanks for Ukraine 」)
こういう輩を暗躍させるのははなはだ不本意なことです。しかしながら、ロシアが侵攻作戦を続ける以上、通常戦力どうしのぶつかり合いでウクライナに勝ってもらうよう軍事支援する以外、他に手がないことも事実であり悲しい現実です。
できるだけ早期に、こういう輩が「商売上がったり」の平和が当たり前の状況に引き戻さねばなりません。悲しいかな、それまでは仕方ない、としか言えません。
ウクライナ支援の武器確保の奔走はプーチンを「封じ込め」るためには仕方がない
ふと思い出したのは、冷戦の終盤となった1980年代の軍拡競争です。米国はレーガン大統領の治世で「強いアメリカを取り戻す!」という子供じみたスローガンで、米ソ軍拡競争が激しさを増す頃、核戦争の脅威が増す中で、レーガン大統領は「戦略防衛構想(SDI):スターウォーズ計画」なる壮大な子供じみたイニシアチブを打ち出しました。当時、防衛大学学生~初級幹部でしたが、「バカなのか?」という冷めた目でニュースを追っていました。この頃、当のソ連も米国・西側に負けじと、ワルシャワ条約機構の東側諸国の陣頭に立って、東側の軍拡を推し進め、極東アジア情勢にも大きく戦力バランスに影響を与える中距離弾道弾SS-20の極東配備などを推し進めていました。自衛隊に身を置いていたので、日々緊張が増す国際情勢に固唾を飲んだものです。この時期、ソ連の社会主義経済はもはや自転車操業状態で、社会主義国家のシステムそのものにあちらこちらで赤信号がともり、東側諸国の離反も始まっていました。この軍拡競争は、間違いなくソ連の崩壊を招きました。正確に言うと、西側諸国は米国主導で冷戦の始まりからずっとソ連/東側に対して「封じ込め政策」をしてきたわけですが、冷戦末期にその総仕上げとして「軍拡競争」という形で違った形の封じ込めを実施し、当時既にガタが来ていたソ連の政治経済を軍拡競争に奔走させ、その自壊を早めさせた、ということでしょう。
時は変わって、現在のウクライナ戦争。再び同じような状況ですね。要するに、ウクライナ侵攻への対応を契機に、ソ連の再興を目標とするプーチンのロシアを、ウクライナを土俵とした軍拡競争に奔走させることで、その自壊を早めようとしているのではないかと推察します。基本的には「軍拡」はくだらないのですが、「武力侵攻で勝ち取ったら自国領土にできる」という時代錯誤の認識を持つ「プーチンのロシア」という元凶を潰すために、当面は「仕方なく」西側は一致団結して奔走するしかないと思います。そのうち、もはや侵攻を継続する前に自国の経済が破綻する状況に直面し、ロシアは自らプーチンを葬るでしょう。そして、即時停戦へ。その目標の達成まで、戦いの土俵となっているウクライナを支えるのが、国際社会の一員としての責務だと思います。
それでも頑張れ、ウクライナ!
ロシアの攻勢に耐え切れ!勝利の日は近い!
(了)


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