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2018/11/16

続 「イージスアショア」ボロクソ論に反論します(EMP脅威)

「防衛白書」をザックリ解説: ⑦イージス・アショアの逆襲(後編)

前編に引き続き、「イージスアショア」ボロクソ論に反論します。

<市川元将補のイージスアショア批判のポイント>
  市川元将補のご批判の要旨は次の5点です。①~③までを前半でカバーしました。
 ① 速度と精度の観点から迎撃困難
 ② SM3の射高上迎撃困難
 ③ 北朝鮮のミサイル数による飽和攻撃を踏まえ現実性欠如

 後編では、ここから先の④と⑤の部分をカバーします。
 ④ 高高度核爆発による電磁パルス攻撃で我が弾道ミサイル防衛は無効化
   仮にイージスアショアも含めた弾道ミサイル防衛の体制を整備したとしても、北朝鮮に高度30キロ以上での高高度で核爆発をされたら、遍く電子機器は使用不能に。対象物を導電性の金属で覆うことでシールドする手はあるが、レーダーの機能上さもできず、電磁パルス攻撃から守ることは不可能。
 ⑤ 取得経費に加え、イージスアショア部隊の維持運用、教育訓練等、予算上非現実的
   取得経費は2基で2,679億円。部隊の維持運用と教育訓練費を踏まえ4,664億円。これらは低めの見積であり、故障修理、バージョンアップ費、基地の施設整備費、更に更に、実はミサイル本体は別計算なので更なる高額の予算が必要になろう。
 以上を総じて、核攻撃の企図を持つ北朝鮮に対して、我が方がどれほどお金をかけても「至難の業」とのご指摘です。

<続 反論させていただきます> 
 ④と⑤について反芻しながら考察したいと思います。

 ④ 電磁パルス攻撃に対して対応不能か?
   まず、高高度の核爆発による電磁パルス攻撃とはどんなものか、考えてみたいと思います。
   「電磁パルス」とはElectro-Magnetic Pulse 、「コトバンク」(出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)( https://kotobank.jp/word/%E9%9B%BB%E7%A3%81%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%B9-161564 )によれば、「核爆発による電磁放射。核装置の材質または周囲の媒体中に散乱している光子から出るコンプトン反射の電子と光電子によって引き起こされる。その結果から生じる強力な電場と磁場は,電気的・電子的システムに有害な大電流と大電圧の渦巻きを引き起こし,システム内部の回路網を破壊する。」なんだか難しいですね。ザックリと言えば、核爆発による電磁「嵐」ないし「雷」が瞬間的に広域にわたって落ちる、という感じです。そこにある通信機、PC、TV、スマホ、などの電化製品や電気・電子回路を使用している自動車も含め、ありとあらゆる電気を使った機械は、瞬間的な電磁パルスの雷が通電してしまうので、その瞬間的電撃により破壊され使用不能に陥る、と言われています。また、社会的影響として、大停電が起きることをはじめ、いまや情報通信システムが世の中を動かしている時代ですので、そうした社会インフラが当分の間は使用不能になるため、東京なんかがやられたら、日本全体の動きが「停電」のような状態になるのでは・・・、と言われています。米国の元CIA長官だったウールジー氏は、北朝鮮が米国の上空高高度で核爆発を起こせば、その電磁パルスにより米国の様々な機能は停止し、国民の2/3、最悪9割がたが死亡する旨、議会で証言(2014年)したことがあります。(関連記事 https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20170331-00069358/ )えっ、本当?という驚愕の証言です。しかし、脱線ながら、このウールジーって人はクセ者で、ほかにもケネディ大統領暗殺の真相(?)ネタをはじめ、トランプさんの選挙参謀でしたが追放されるなど、かなり発言が怪しいことで有名です。
   怪しい話はともかく、もう少し、精度の高い説明をします。電磁パルスで怖いのは、高高度核爆発による電磁波ガンマー線の爆発的拡散により、大気中の空気の分子に衝突して猛烈なエネルギーの電子となって大放射します(コンプトン効果)。この遊離した電子たちが光の90%の速さで地上にぶちまかれ、あらゆる電子回路は落雷したような状況になるわけです。
500px-EMP_mechanism.png
   図は、アメリカに対する電磁パルス攻撃を想定したイメージ図です。上のポンチ絵が電磁パルスが生じるしくみです。赤い線は高高度核爆発によるガンマー線の放射、それが大気圏内の20~40km上空の大気(点線)に激突します。地磁気の特性により、磁力線は北極と南極のような高緯度な地域では直下向きになりますが、アメリカあたりの中緯度では青線のように大地と並行するような横たわり方をしつつ湾曲してやや下向きです。この磁力線にガンマー線の束がぶち当たると、磁力線の周りをらせんを描きながら広がって減耗しますが、この際強烈な電磁パルスが発出されます。下の北米大陸の地図の絵をご覧ください。円のまん中あたりの緑の△のすぐ下(南)の黒丸が爆心、北半球のため、緑の黒丸は爆心北側なのに電磁パルス最小エリア、爆心の下(南)に笑っているような南の楕円が最大エリア、その周囲の青い楕円がかなり強力なエリアです。このような景況で電磁パルスの影響が出るであろう、との科学的な計算になります。

   しかしながら、電磁パルスの実際について考えてみると、疑問符がつくのです。電磁パルスの効果というのは、瞬間的、かつ、距離と効果は相反する関係にあります。影響範囲の逆二乗で減耗します。要するに、落雷のような瞬間的な打撃だということ。そして、高高度核爆発ならアメリカ全土や日本全土のような(日本はそれほど大きくないですけど)広域をカバーする電磁パルスの覆域が望めますが、距離とともに効果は薄くなります。他方、低高度で核爆発させた場合、電磁パルスのカバーする地域は限定されますが、強烈な効果が望めるわけです。では、具体的にどのくらいの効果があるのでしょうか? 過去の事実として、過去、米国とソ連(当時)が核実験の中で電磁パルスの影響を確認したことがありますが、かなりの遠隔地まで停電があったりはしましたが、それで「あらゆる電気・電子回路が使用不能になったか?」と言われると、そうでもないのです。例えば、1962年の米国の実験では、太平洋上の高度400kmでメガトン級の水爆を爆発させましたが、数百キロ先のハワイで停電や電話への障害が確認されたくらいで、ハワイの社会インフラが壊滅したわけでもなく、電気もハワイの経済活動もいつものように復旧されました。そう言えば、ハワイに行ったことのある方も多いと思いますが、1962年にこんなことがあったんだ、とか、あの時はハワイは大変だったんだよ、とか現地で見たり聞いたりしたことありますか?ないでしょ? ソ連も核実験において広域にわたる通信の障害が確認されていますが、社会インフラが壊滅したりしていません。(もっともソ連が実験するような不毛の大地だから人間もいない、ということかもしれませんが・・・)その後、部分的核実験禁止条約が結ばれ、それまでのような高層大気圏での核実験はできなくなりましたので、実証データがないのです。わずかに、2008年に電磁パルスの効果を確認する非核の実験で、数十台の車両で実証実験したところ、数両が影響を受けた程度で、これらもエンジンをかけ直したらかかったらしいのです。 えぇ?じゃあ実際の効果ってどうなの??? 科学者のデータ上の理論では大変なことになるというのですが、実は「大変なことになるぞ」という噂の方が勝手に先行している状況であって、実際のところはやってみないと分からないのが実情です。

   更に、日本より電磁パルスについて脅威論派もそうでもない派も喧々諤々の議論をする米国の論調でみてみますと、さっきの元CIA長官ウールジー氏のような脅威論派もいる半面、そうでもない派も元気で、そもそも北朝鮮が高高度核爆発による電磁パルス攻撃なんかしてこないだろう、という論者が多いですね。電磁パルスが目的であっても、米国の上空で核攻撃をしてきた? 次の瞬間、米国は徹底的かつ完膚なきまでの報復攻撃をするでしょうね。そんなくらいなら、真面目な直接的核攻撃をするのではないか、と。むしろ、電磁パルス攻撃の脅威をブラフで焚き付けて、北朝鮮脅威認識を煽り、外交交渉の交渉材料にしたろぅ、って腹ではないのか?といぶかっているわけです。日本でも同様なことが言えると思います。電磁パルス攻撃脅威論を声高に語っても、得をするのは北朝鮮だけかもしれませんね。

   さて、市川元将補のご指摘のポイントに戻ります。北朝鮮が日本に高高度核爆発による電磁パルス攻撃をしてきたら、日本の弾道ミサイル防衛は無効化してしまうではないか、だからイージスアショアなんか導入する意味はないのだ。ウーム・・・市川さんの指摘は理解するんですが、私の考えとしては、これも②と③のところで述べたようなものになりますね。もし、科学者の理論のように、電磁パルス攻撃により日本の政治経済の中枢がストップするし、弾道ミサイル防衛の各アセットが使用不能化してしまう、とすればこれにどう対抗するというのか? と問われるのであれば、 ⇒回答します。そりゃ打つ手はないし、イージスアショアなんか導入しても意味ないですよ。しかし、そもそも高高度核爆発による電磁パルス攻撃って、やはりついに伝家の宝刀の核使用ですよね。北朝鮮が、日本に対して虎の子のロフテッド軌道のミサイルを使って、まず電磁パルス攻撃をし、日本の弾道ミサイル防衛を無効化してから本格核攻撃に移るのですか? そりゃ、そこまで日本だけのために腹をくくって心中するつもりならあり得るかもしれませんが、現実的じゃないんじゃないのでしょうか? その話と全く別に、電磁パルスに対する対抗策・防衛策は考える必要はあると思いますよ。しかし、核カードを切る場合は、北朝鮮と日本だけの話ではすまず、米国が必ず出てきますから。
sm-3-block-iia-test-launch-2039733-768x512_convert_20181116023334.jpg
(SM-3ブロック2Aの発射実験)

 ⑤ 経費問題
   経費の問題については、全くご指摘の通り。否定しません。私も実は、「トランプに買わされるようで、どうにも癪に触るなぁ」と思っています。ただし、北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威がここまでの水準にきたからには、日本は日本としての有効な弾道ミサイル防衛の体制・態勢が必要であり、それが米国にとってもアジア太平洋正面の同盟国として頼りになる存在となり、米国にとっての掛け替えのない戦略的パートナー=同盟国として彼らもコミットしてくれる、ということだと考えます。確かに高いですよ。たまったものではないですよ。しかし、戦車や火砲などの他の装備体系と一線を画し、弾道ミサイル防衛は戦略核抑止の一環なのだ、と考えます。
   私の邪推かも知れませんが・・・、市川さんは本当は弾道ミサイル防衛の重要性やイージスアショアの有用性などは十分承知の上で、陸上自衛隊へのイージスアショア導入による経費上の「痛さ」が痛烈であるがゆえに、わざとボロクソ論をぶち上げて潰しにかかっているのではありませんか?
   陸上自衛隊の予算は海空に比しても冷や飯を食わされており、その中でイージスアショアなんて陸自の装備体系に全くなかったものを任される。予算だって初度的な面倒は省としてみてくれるかもしれないものの、じ後は陸自の財布の中でやっていかねばならない。ただでさえ、「たまに撃つ、たまがないのが、たまにキズ」と自嘲していた陸自にとって、イージスアショア導入は強烈なお荷物ですよね。元武器学校長であった市川さんにしてみれば痛恨でしょう。お気持ち、十分分かります。
   しかし、こと核・弾道ミサイルに関して、実オペレーションを担って対応してきた海空と比べると、陸自はのんびり構えていられたかもしれませんが、これからはそうはいかない。統合運用体制になって10年以上経ち、いよいよ「陸海空あげて核・弾道ミサイルの脅威=国難に対応していく」という観点に立てば、苦しいながら、背に腹は代えられないのではないでしょうか?

(了)

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