激戦バハムート:遂にワグネルが占領か?ウクライナが包囲か?

激戦の末、バハムート市はロシアの傭兵部隊ワグネルに陥落されたか?(2023年5月22日付Aljazeera記事「Russians celebrate reports that ‘fortress Bakhmut’ has fallen」より)
バハムート、遂にワグネルに陥落されたか
1年近く激戦が続いたウクライナの地方都市バハムートが、2023年5月19日に「ロシアの傭兵部隊ワグネルによって遂に陥落!」とのロシア側からの勝利宣言が出ました。巷間のメデイア画像には、ワグネルの兵士がバハムートの主要部と思しきビルの屋上にロシアの国旗をなびかせています。ウクライナ軍のバハムート守備部隊が、反転攻勢準備のため援軍や武器弾薬の補給もか細い中、半ば孤軍奮闘してこの地を守ってきましたが、遂にバハムート市のほぼ9割がたがワグネルの手中に落ちた模様です。西側の研究機関ながら客観性と緻密な分析で定評のあるISW(戦争研究所)の戦況分析も、上記の状況を裏付けています。
ウクライナは「同地を包囲」と主張
前述のように、バハムート市は外見上「陥落」したかのようにロシアのワグネル部隊にほぼ占領された状況です。対するウクライナ軍の見解ですが、「同市の南北の要地を確保して同市のロシア軍部隊に対する包囲作戦を実施している」と主張しています。ウクライナ軍のシルスキー陸軍司令官がSNS投稿にてこのようにコメントしているので、メデイアの推測や分析ではありません。他方、戦況が不利なのでそれを認めたくないための言い訳的コメントとも考えられます。ただし、一部のYoutube映像によれば、バハムート市街から整然と部隊を移動して包囲作戦に向かうと思しき様子であり、ロシアのワグネル部隊に攻められて敗走する状況ではないことは分かります。シルスキー陸軍司令官が言う「迂回作戦」の信憑性は十分「アリ」ですね。
信頼できる戦況分析をしているISWの分析でも、ロシア軍はバハムート市の東側から攻撃し同市市街の西端まで達している模様である一方、ウクライナ軍は同市南北の郊外への攻撃をしている模様、とのことです。
(参照:2023年5月21日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, MAY 21, 2023」、同年同月22日(23:26時)付テレ朝ニュース記事「ウクライナ軍がバフムト包囲作戦展開か」、ほか)
「迂回作戦」とは何か
ウクライナ軍が「包囲作戦」を実施中だと仮定すると、一体「包囲」とは何か?何を狙い、何に気をつけねばならないか、気になるところです。その「包囲」を考察いたします。
「包囲」とは、読んで字の通り「包み込むように取り囲むこと」であり、刑事物のドラマで警察が犯人や容疑者のいる場所に刑事や警察官を配置して猫の子一匹逃げられないように包囲網を構成して取り囲み、「警察だ!おまえはもう包囲されている。」なんてメガホンで通告しますよね。だとすれば、軍事作戦における包囲は少し違います。軍事作戦における包囲は、「敵を戦場に捕捉撃滅するため、敵を正面に拘束しつつ、主力をもってその側背から攻撃して退路を遮断する」作戦行動です。(出典は陸上自衛隊の「新・野外令」ですが、米・NATO、恐らくロシアでも、ほぼ軍事作戦の概念はほぼ同じです。)元々、軍事作戦においては、敵を攻撃するには、正面から攻撃するガップリ四つ相撲の「突破」ではなく、むしろ、「迂回」や「包囲」を追求します。「迂回」は、「敵の準備していない地域で決戦を求めて敵を撃滅するため、敵が十分に準備した地域を避けてその後方に進出する」攻撃機動のことです。「迂回」に次いで、追求すべき攻撃機動が「包囲」です。今回のウクライナの東部戦線において、前線はウクライナ軍とロシア軍が膠着状態でべったり張り付いているため、大きく回り込んで後方に進出しようという「迂回」は実施困難です。バハムートでは、ここを攻撃奪取したがっているロシア軍はワグネル部隊がバハムート市内に貫入する形で入り込んでおり、ロシア正規軍はワグネルの両翼(南北)を守る形でした。ウクライナ軍は、バハムート市内に深く入り込むワグネル部隊をウクライナ軍のバハムート守備隊が防御戦闘によって正面に拘束しつつ、バハムート守備隊の主力部隊をもって両翼を守るロシア正規軍を攻撃して同市南北の緊要な地形(同市が見下ろせる高台になっている地形)を確保した上で、好機を看破してワグネルの退路を遮断してワグネル部隊の後方にフタをし、同市内から逃げられないように戦場に捕捉し、南北の台地からメッタ突きに直接・間接の砲爆撃を食らわす・・・という作戦なのです。
包囲は成功するか
成功すれば我が損害を局限しつつ、敵を捕捉撃滅できる壮大な作戦なので、話を聞くと凄そうなのですが、そもそも「包囲」はハイリスク・ハイリターンなのです。この作戦に成功するには、それに必要な条件があって、①奇襲、②相対的運動力の優越、③正面からの果敢な攻撃による敵の拘束、④優勢な戦闘力、及び⑤各部隊の連携ある行動、を達成することが重要です。①の「奇襲」については、・・・バカだなぁ、シルスキー司令官自体が「これは包囲作戦なんだ」と宣言してしまいましたよね。敵も知ってしまいましたよね。ワグネルは退路を断たれないように手を打ってくるでしょう。これでは奇襲成立せず。続いて②「相対的運動力の優越」と④「優勢な戦闘力」は、西側から提供された戦車・装甲車、野戦砲、長射程砲、対地ミサイル等が間に合えば優越できるでしょうが、まだバハムート守備隊には届いていないと思います。③正面での敵の拘束については、ウクライナ軍は「果敢な正面攻撃」をしていないものの、ワグネルがグングンと市内に貫入して市内全域を占領しようとしていますから、これは半ば達成しています。⑤「各部隊の連携」についてはさすがに各部隊の連携を密接にしていることと推察します。こうして成功の要件を眺めてみると、つくづくシルスキー司令官の「包囲」発言は司令官自らが「奇襲」という成功の道を閉ざしてしまう軽率な発言でしたね。従って、バハムート戦は「包囲」に至らず、「包囲崩れ」の中途半端な攻撃になるでしょう。ただ、もし同市の南北の高台を確保したのだとすれば、その緊要な地形を確保した効果は絶大です。ワグネルの退路を断てなかったとしても、この地域の戦闘に決定的な影響を及ぼす同地の確保により、必ずや戦闘で有利に働くでしょう。もって、一度バハムート市内そのものをワグネル部隊に半ば占拠されたものの、次の段階で再び追い出すことができましょう。南北の台地をバハムート守備隊が確保すればの話ですが。
ワグネル総帥ブリゴージンは、バハムート占領後間もなくロシア軍に同地をその場交代して譲り、ワグネル部隊はバハムートから後方に下がると宣言しています。ウーム、これはブリゴージンの深謀遠慮ですね。ロシア国民の注目の的だったバハムートを攻撃奪取しロシア国旗を立て、ロシア国民に英雄として認めてもらって、どうやら雲行きの怪しい同地をロシア正規軍と交代して,自分はサッサと後方に下がる魂胆です。とんだ食わせ者です。
ここ数日のバハムート市の激戦から目が離せませんね。
それでも頑張れ、ウクライナ!
勝利の日は近い!
(了)


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