ウクライナ攻勢に備えたロシアの周到な防御陣地、恐るべし!
ウクライナ攻勢に備えたロシアの周到な防御陣地
来るべきウクライナの攻勢開始に備えたロシア軍の周到にして強固な防御陣地の概要が、BBCの報道で明らかになりました。1週間あまり前の報道で恐縮ですが、2023年5月22日付BBC記事「Ukraine war: Satellite images reveal Russian defences before major assault」に、衛星画像等を基にした昨年10月以降のウクライナ南部やクリミアにおけるロシアの防御陣地の構築状況が明らかにされています。記事そのものは画像等の紹介が主で、その陣地でどのように防御戦闘をするのかはほとんど触れていませんので、その辺を補足してご紹介いたします。
(※本ブログの以下に貼られた画像は、基本的に前掲のBBC記事に掲載されたものです。一部に筆者の加筆した図があります。)

ロシアの防御陣地強化の全体像から見る弱点・苦痛とする正面: 南部へルソン州やクリミアを分断・孤立化!
ロシアの防御準備の強化の全体像は、上図のような状況になっています。
上図は、ISWを情報源にBBCがまとめたものです。焦点となるサンゴ色の地域は、2014年以前のウクライナの国土で現在はロシア軍の管理下にある地域を指しています。薄黒い小さな〇がロシア軍が防御準備して要塞化しつつある場所です。色が濃いところほど防御準備=陣地の強度が周到化されている地点を指します。概ね、現在ロシア軍がウクライナ軍と押しつ押されつの交戦で接触している「現接触線」に沿って、接触線の後方にここから先は突破されまい、という形で陣地線が築かれています。
このうち、防御準備の周到な黒い色の濃い地域が目につきます。特に、赤丸で①~④と番号が振ってあるのは、来るべきウクライナの攻勢の際に、その攻撃方向となる公算が高い、換言すると、ウクライナにこの正面を突破されるとロシアにとって非常に厳しいと感じる「弱点・苦痛とする正面」ということになります。
その4つの弱点・苦痛とする重要視する正面は、①クリミア半島西岸正面、②トクマク地区正面、③E105高速道正面、④リブノピル地区正面、の4正面です。②③④は、3コ正面に分けていますが、いずれもウクライナの反転攻勢の際の一番公算の高い攻撃方向と言われているウクライナ東部からアゾフ海にブチ抜き、ロシア本土からウクライナ南部~クリミア半島を分断・孤立化する攻撃方向を阻止する正面です。やはり、この攻撃方向が一番蓋然性が高いでしょうね。反転攻勢は長い闘いになると思われますが、まず反転攻勢開始から第一段階となる結節の中間目標として、一番効果的で、達成する可能性が高いのはこの攻撃方向ですよね。現接触線からも、高々100キロ程度でアゾフ海に達します。前述の通り、②③④のいずれかの正面で突破できて、ウクライナ軍がアゾフ海まで達すると、ロシアは現在管理下に置いているウクライナ南部のへルソン州やクリミア半島の地域は完全に分断・孤立化してしまいます。この軍事的な効果は、純軍事的な意義以上に、国際社会に与える「ウクライナ反転攻勢の大成功!」という押せ押せムードを醸成し、米国はじめ西側諸国の対ウクライナ支援を活気づかせ、現在態度を保留していた諸国も「バスに乗り遅れるな」効果で雪崩を打ってウクライナ支援に回り、かつ、現在ロシアといまだ友好関係を保っている国々にさえ、動揺とロシアからの離反を促すシナジー効果を醸し出すことでしょう。ロシアにとっては、それだけは絶対に避けたい、換言すれば、何とか阻止したいわけです。ゆえに、ウクライナをアゾフ海にブチ抜けさせないよう、ザポリージャ州の3コ正面に重点形成をしていることがうかがい知れます。
ちなみに、①の「クリミア半島西岸」というのは、ウクライナにとっての遠大な戦略目標、「2014年以前の領土の回復」に直結する「2014年にロシアに侵攻・奪取されたクリミア半島の奪回」をウクライナが標榜するとすれば、クリミア半島への着上陸も十分考えられます。ロシアにとっては「まさか」という奇襲になります。反転攻勢で、いきなりクリミアへの着上陸侵攻というのは少し蓋然性が低い話ですが、ロシアにとっては、「その弱点への直接配備」という意味ですね。
ロシアの周到な防御準備の一例
そのロシアの防御準備の一例として、前述の①「クリミア半島西岸正面」のウクライナ軍の着上陸を阻止するための対戦車障害と陣地線の例、及び②「トクマク正面」のウクライナ軍の突破を阻止するための重層の陣地構成と各陣地の障害と防御陣地の関係についてご紹介します。
①「クリミア半島西岸正面」の防御陣地
下図をご覧ください。この西岸地区には、数十キロに渡る海岸線があり、クリミア半島への侵攻作戦をする際には一番着上陸しやすい正面に当たります。クリミア半島の無防備な側背の海岸に、黒海から着上陸作戦をされたらひとたまりもありません。ゆえに、「そうはさせじ」と築城・障害の構成を重視した防御陣地を築き、「こっちから来たら痛い目に遭わせるぞ!」と意図的にPRしているものと推察します。
図にある「Bunker」とは、軍事用語で「掩蔽部」といって、塹壕陣地に連接して敵の砲弾に耐える強度の高い退避壕です。敵の砲爆撃がし烈になるとこの中に将兵や武器を退避し、敵の砲爆撃の集中射撃がひと段落すると、Bunkerから出てまた配備につく、というものです。
「Dragon's Teeth」とは、「龍の歯」と名付けられたピラミッド型のコンクリートブロックで、陣地前にこれを並べて設置し敵の戦車等の突破を阻止し、ここで停止した戦車を陣地から狙い撃ちにするものです。
「Trench network」とは、「塹壕陣地を連接した塹壕陣地線」のことです。大地に塹壕を掘って身を隠しつつ、小銃、機関銃、携帯対戦車ロケットや同ミサイルなどの直接照準火器で、陣地正面に来る敵を射撃によって倒します。各自の射撃陣地(位置)は同じ班・小隊の同僚の射撃陣地と徒歩移動用の交通壕で連接されネットワーク状になっています。陣地線がギザギザになっています。これは敵砲弾が壕の外で着弾・破裂しても半地下の塹壕陣地自体が将兵の身体を防護してくれますが、もし壕の中に敵砲弾が直撃した場合は交通壕内に直線で飛び散りますので、意図的に交通壕を一直線に結ばず、ギザギザ状に屈折することで直線部分を短くし、将兵の被害を局限しています。また、陣地直前まで敵の将兵が緊迫してきた際、小銃、機関銃による射撃はこのギザギザの直線部分に合わせて、陣地前に並行して敵の前進を側方から射撃できるよう、射撃陣地を作っています。こうすることで、敵の攻撃方向の正面からは射撃陣地が見えず、敵の前進は側方から撃たれてバタバタと陣地前で倒れる形となります。
「Wood used to reinforce trenches」とは、 これらの塹壕陣地の築城強度を増すために使用する木材等の築城資材のことです。このような防御準備をする際には、こうした木材、FRP(ファイバー強化プラスチック)、コンクリートブロック、鉄条網、土嚢等の築城資材を使用して、掘った塹壕の壁面(ただの土なので木材で補強)やBunker(掩蔽部)や射撃陣地の成型や掩護強度を増します。

(※図の下のポンチ絵は筆者が加筆しました。)
②「トクマク正面」の広域多重の障害と陣地の構成
トクマク正面の陣地の構成は下図の通りです。
下図左側を見れば説明の必要もないかもしれませんが、この地域の地方都市で交通の要衝であるトクマク市街地を守るため、トクマク市を塹壕陣地で覆い、トクマク市に連接する市街も塹壕陣地で覆い、これらを守るために第1線目の強固な防御陣地線、及び、第1線の陣地線の前に敵を阻止して集中射撃により陣前に補足撃滅するための障害と陣地構成しています。更に、第2線目の強固な防御陣地線、等を広域かつ多重に構成しています。
下図左の防御陣地の陣地線をクローズアップすると下図右のようになります。更に下の図に対戦車壕と対戦車障害「龍の歯」の図がありますのでご参照ください。
まず、陣地の前550mの線に対戦車壕(戦車の突進を阻止するため2.5m程度の深さの壕を万里の長城のように掘り、敵の前面に掘った土を小山のように置いて対戦車壕の穴を見せないようにし、壕に気付かずここに上ってさらに前進すると対戦車壕にハマることとなります。後続戦車も小山の上でストップ。そこを防御陣地から携帯対戦車ロケットやミサイルで捕捉・撃破します。更に、陣前300mの線には対戦車障害「龍の歯」が、これまた広域に設置されています。「龍の歯」は図のようにピラミッド状の大きなコンクリートブロックで、戦車といえどもこれを踏み越えられず、押しのけることもできません。結局、対戦車壕も龍の歯も、攻撃前進するためには、ブルドーザー等の施設部隊が出て来て、戦車等が通れるように対戦車壕を埋めるとか、通過できる架橋を設置するとか、龍の歯を横に排除して通路を開ける作業が必要になります。そんな作業こそ、ロシア軍にとって格好の射撃目標ですよね。更にさらに、この対戦車壕や対戦車障害の線の前後には、対戦車地雷の地雷原が広域に構成されていて、この地雷原は目に見えないので、工兵の隊員が施設偵察をして地雷原を見積もり、地雷原の処理=通路の啓開をしなければなりません。ウクライナの攻撃は、こうした多重の障害を、何とか一つ一つ処理して通路を開けていかねばなりません。その障害処理作業もロシアの格好の射撃目標ですし、よしんば通路が1本開いたとしても、その1本の通路を一列に前進する途上、これまたロシア軍の格好の射撃目標になります。・・・・
こうした気が遠くなるような試練がウクライナの攻勢を阻むために仕込まれているのです。
ちなみに、陣前の障害の後方に防御陣地の塹壕のネットワークが組まれ、野戦砲等の陣地が防御陣地の後方に各砲毎に200~250m離隔しながら射撃陣地を構築しています。これも画像では明らかではありませんが、各野戦砲の壕が掘られ、近傍に敵の砲撃があっても半地下の壕で掩護されています。ちなみに、野戦砲なので、敵の前進に伴い、この射撃陣地より更に後方に射撃陣地を後退して、防御陣地直前の戦闘となっても射撃戦闘を継続し、防御陣地を守ります。

上:トクマク正面の防御陣地

上:対戦車壕、 下:対戦車障害「龍の歯」
ウクライナの反転攻勢は西側供与の装備を待つために後ろ倒れ、その分、ロシア軍の防御準備は周到に強化される
ウクライナは、準備周到に乾坤一擲の反転攻勢をスタートするため、西側供与の装備の到着とウクライナ兵による戦力化のための教育訓練にも時間を要するため、結果的にかなり後ろ倒れになってしまっています。これは、ロシア軍に防御準備をより周到にする時間をロシア軍に付与した形になっています。
したがって、ウクライナの反転攻勢の初動において、ロシア軍のこの防御陣地線を突破するには相当の激戦、相当の損耗を覚悟しなければなりません。そうした損耗を承知の上で、失われた領土を奪回し、ロシアに従属させられたウクライナ市民を解放し、避難したウクライナ市民を元の故郷に戻し、元の生活を取り戻すことが国家としての目標です。これを達成するためには、その達成できるまでの辛酸を舐め、仕方のない損耗を甘受しなければなりません。まぁ、戦争ってそういうものですから、仕方がありません。
ロシア軍も相当手強いぞ、ぬかるな、こっちも周到に攻勢を準備しろ!
道は険しいが、必ず嵐は晴れる!
頑張れ、ウクライナ!
(了)


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来るべきウクライナの攻勢開始に備えたロシア軍の周到にして強固な防御陣地の概要が、BBCの報道で明らかになりました。1週間あまり前の報道で恐縮ですが、2023年5月22日付BBC記事「Ukraine war: Satellite images reveal Russian defences before major assault」に、衛星画像等を基にした昨年10月以降のウクライナ南部やクリミアにおけるロシアの防御陣地の構築状況が明らかにされています。記事そのものは画像等の紹介が主で、その陣地でどのように防御戦闘をするのかはほとんど触れていませんので、その辺を補足してご紹介いたします。
(※本ブログの以下に貼られた画像は、基本的に前掲のBBC記事に掲載されたものです。一部に筆者の加筆した図があります。)

ロシアの防御陣地強化の全体像から見る弱点・苦痛とする正面: 南部へルソン州やクリミアを分断・孤立化!
ロシアの防御準備の強化の全体像は、上図のような状況になっています。
上図は、ISWを情報源にBBCがまとめたものです。焦点となるサンゴ色の地域は、2014年以前のウクライナの国土で現在はロシア軍の管理下にある地域を指しています。薄黒い小さな〇がロシア軍が防御準備して要塞化しつつある場所です。色が濃いところほど防御準備=陣地の強度が周到化されている地点を指します。概ね、現在ロシア軍がウクライナ軍と押しつ押されつの交戦で接触している「現接触線」に沿って、接触線の後方にここから先は突破されまい、という形で陣地線が築かれています。
このうち、防御準備の周到な黒い色の濃い地域が目につきます。特に、赤丸で①~④と番号が振ってあるのは、来るべきウクライナの攻勢の際に、その攻撃方向となる公算が高い、換言すると、ウクライナにこの正面を突破されるとロシアにとって非常に厳しいと感じる「弱点・苦痛とする正面」ということになります。
その4つの弱点・苦痛とする重要視する正面は、①クリミア半島西岸正面、②トクマク地区正面、③E105高速道正面、④リブノピル地区正面、の4正面です。②③④は、3コ正面に分けていますが、いずれもウクライナの反転攻勢の際の一番公算の高い攻撃方向と言われているウクライナ東部からアゾフ海にブチ抜き、ロシア本土からウクライナ南部~クリミア半島を分断・孤立化する攻撃方向を阻止する正面です。やはり、この攻撃方向が一番蓋然性が高いでしょうね。反転攻勢は長い闘いになると思われますが、まず反転攻勢開始から第一段階となる結節の中間目標として、一番効果的で、達成する可能性が高いのはこの攻撃方向ですよね。現接触線からも、高々100キロ程度でアゾフ海に達します。前述の通り、②③④のいずれかの正面で突破できて、ウクライナ軍がアゾフ海まで達すると、ロシアは現在管理下に置いているウクライナ南部のへルソン州やクリミア半島の地域は完全に分断・孤立化してしまいます。この軍事的な効果は、純軍事的な意義以上に、国際社会に与える「ウクライナ反転攻勢の大成功!」という押せ押せムードを醸成し、米国はじめ西側諸国の対ウクライナ支援を活気づかせ、現在態度を保留していた諸国も「バスに乗り遅れるな」効果で雪崩を打ってウクライナ支援に回り、かつ、現在ロシアといまだ友好関係を保っている国々にさえ、動揺とロシアからの離反を促すシナジー効果を醸し出すことでしょう。ロシアにとっては、それだけは絶対に避けたい、換言すれば、何とか阻止したいわけです。ゆえに、ウクライナをアゾフ海にブチ抜けさせないよう、ザポリージャ州の3コ正面に重点形成をしていることがうかがい知れます。
ちなみに、①の「クリミア半島西岸」というのは、ウクライナにとっての遠大な戦略目標、「2014年以前の領土の回復」に直結する「2014年にロシアに侵攻・奪取されたクリミア半島の奪回」をウクライナが標榜するとすれば、クリミア半島への着上陸も十分考えられます。ロシアにとっては「まさか」という奇襲になります。反転攻勢で、いきなりクリミアへの着上陸侵攻というのは少し蓋然性が低い話ですが、ロシアにとっては、「その弱点への直接配備」という意味ですね。
ロシアの周到な防御準備の一例
そのロシアの防御準備の一例として、前述の①「クリミア半島西岸正面」のウクライナ軍の着上陸を阻止するための対戦車障害と陣地線の例、及び②「トクマク正面」のウクライナ軍の突破を阻止するための重層の陣地構成と各陣地の障害と防御陣地の関係についてご紹介します。
①「クリミア半島西岸正面」の防御陣地
下図をご覧ください。この西岸地区には、数十キロに渡る海岸線があり、クリミア半島への侵攻作戦をする際には一番着上陸しやすい正面に当たります。クリミア半島の無防備な側背の海岸に、黒海から着上陸作戦をされたらひとたまりもありません。ゆえに、「そうはさせじ」と築城・障害の構成を重視した防御陣地を築き、「こっちから来たら痛い目に遭わせるぞ!」と意図的にPRしているものと推察します。
図にある「Bunker」とは、軍事用語で「掩蔽部」といって、塹壕陣地に連接して敵の砲弾に耐える強度の高い退避壕です。敵の砲爆撃がし烈になるとこの中に将兵や武器を退避し、敵の砲爆撃の集中射撃がひと段落すると、Bunkerから出てまた配備につく、というものです。
「Dragon's Teeth」とは、「龍の歯」と名付けられたピラミッド型のコンクリートブロックで、陣地前にこれを並べて設置し敵の戦車等の突破を阻止し、ここで停止した戦車を陣地から狙い撃ちにするものです。
「Trench network」とは、「塹壕陣地を連接した塹壕陣地線」のことです。大地に塹壕を掘って身を隠しつつ、小銃、機関銃、携帯対戦車ロケットや同ミサイルなどの直接照準火器で、陣地正面に来る敵を射撃によって倒します。各自の射撃陣地(位置)は同じ班・小隊の同僚の射撃陣地と徒歩移動用の交通壕で連接されネットワーク状になっています。陣地線がギザギザになっています。これは敵砲弾が壕の外で着弾・破裂しても半地下の塹壕陣地自体が将兵の身体を防護してくれますが、もし壕の中に敵砲弾が直撃した場合は交通壕内に直線で飛び散りますので、意図的に交通壕を一直線に結ばず、ギザギザ状に屈折することで直線部分を短くし、将兵の被害を局限しています。また、陣地直前まで敵の将兵が緊迫してきた際、小銃、機関銃による射撃はこのギザギザの直線部分に合わせて、陣地前に並行して敵の前進を側方から射撃できるよう、射撃陣地を作っています。こうすることで、敵の攻撃方向の正面からは射撃陣地が見えず、敵の前進は側方から撃たれてバタバタと陣地前で倒れる形となります。
「Wood used to reinforce trenches」とは、 これらの塹壕陣地の築城強度を増すために使用する木材等の築城資材のことです。このような防御準備をする際には、こうした木材、FRP(ファイバー強化プラスチック)、コンクリートブロック、鉄条網、土嚢等の築城資材を使用して、掘った塹壕の壁面(ただの土なので木材で補強)やBunker(掩蔽部)や射撃陣地の成型や掩護強度を増します。

(※図の下のポンチ絵は筆者が加筆しました。)
②「トクマク正面」の広域多重の障害と陣地の構成
トクマク正面の陣地の構成は下図の通りです。
下図左側を見れば説明の必要もないかもしれませんが、この地域の地方都市で交通の要衝であるトクマク市街地を守るため、トクマク市を塹壕陣地で覆い、トクマク市に連接する市街も塹壕陣地で覆い、これらを守るために第1線目の強固な防御陣地線、及び、第1線の陣地線の前に敵を阻止して集中射撃により陣前に補足撃滅するための障害と陣地構成しています。更に、第2線目の強固な防御陣地線、等を広域かつ多重に構成しています。
下図左の防御陣地の陣地線をクローズアップすると下図右のようになります。更に下の図に対戦車壕と対戦車障害「龍の歯」の図がありますのでご参照ください。
まず、陣地の前550mの線に対戦車壕(戦車の突進を阻止するため2.5m程度の深さの壕を万里の長城のように掘り、敵の前面に掘った土を小山のように置いて対戦車壕の穴を見せないようにし、壕に気付かずここに上ってさらに前進すると対戦車壕にハマることとなります。後続戦車も小山の上でストップ。そこを防御陣地から携帯対戦車ロケットやミサイルで捕捉・撃破します。更に、陣前300mの線には対戦車障害「龍の歯」が、これまた広域に設置されています。「龍の歯」は図のようにピラミッド状の大きなコンクリートブロックで、戦車といえどもこれを踏み越えられず、押しのけることもできません。結局、対戦車壕も龍の歯も、攻撃前進するためには、ブルドーザー等の施設部隊が出て来て、戦車等が通れるように対戦車壕を埋めるとか、通過できる架橋を設置するとか、龍の歯を横に排除して通路を開ける作業が必要になります。そんな作業こそ、ロシア軍にとって格好の射撃目標ですよね。更にさらに、この対戦車壕や対戦車障害の線の前後には、対戦車地雷の地雷原が広域に構成されていて、この地雷原は目に見えないので、工兵の隊員が施設偵察をして地雷原を見積もり、地雷原の処理=通路の啓開をしなければなりません。ウクライナの攻撃は、こうした多重の障害を、何とか一つ一つ処理して通路を開けていかねばなりません。その障害処理作業もロシアの格好の射撃目標ですし、よしんば通路が1本開いたとしても、その1本の通路を一列に前進する途上、これまたロシア軍の格好の射撃目標になります。・・・・
こうした気が遠くなるような試練がウクライナの攻勢を阻むために仕込まれているのです。
ちなみに、陣前の障害の後方に防御陣地の塹壕のネットワークが組まれ、野戦砲等の陣地が防御陣地の後方に各砲毎に200~250m離隔しながら射撃陣地を構築しています。これも画像では明らかではありませんが、各野戦砲の壕が掘られ、近傍に敵の砲撃があっても半地下の壕で掩護されています。ちなみに、野戦砲なので、敵の前進に伴い、この射撃陣地より更に後方に射撃陣地を後退して、防御陣地直前の戦闘となっても射撃戦闘を継続し、防御陣地を守ります。

上:トクマク正面の防御陣地

上:対戦車壕、 下:対戦車障害「龍の歯」
ウクライナの反転攻勢は西側供与の装備を待つために後ろ倒れ、その分、ロシア軍の防御準備は周到に強化される
ウクライナは、準備周到に乾坤一擲の反転攻勢をスタートするため、西側供与の装備の到着とウクライナ兵による戦力化のための教育訓練にも時間を要するため、結果的にかなり後ろ倒れになってしまっています。これは、ロシア軍に防御準備をより周到にする時間をロシア軍に付与した形になっています。
したがって、ウクライナの反転攻勢の初動において、ロシア軍のこの防御陣地線を突破するには相当の激戦、相当の損耗を覚悟しなければなりません。そうした損耗を承知の上で、失われた領土を奪回し、ロシアに従属させられたウクライナ市民を解放し、避難したウクライナ市民を元の故郷に戻し、元の生活を取り戻すことが国家としての目標です。これを達成するためには、その達成できるまでの辛酸を舐め、仕方のない損耗を甘受しなければなりません。まぁ、戦争ってそういうものですから、仕方がありません。
ロシア軍も相当手強いぞ、ぬかるな、こっちも周到に攻勢を準備しろ!
道は険しいが、必ず嵐は晴れる!
頑張れ、ウクライナ!
(了)


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