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2023/06/09

ウクライナ反転攻勢が始まった!広域で数軸の攻勢、南部戦線が主攻か

攻勢開始
待ちに待った反転攻勢の開始(Experts believe the focus of Ukraine's long awaited counter-offensive will be in Zaporizhzhia 2023年6月9日付BBC記事「Ukraine army attacks Russian forces in southern Zaporizhzhia region」より)

ウクライナ反転攻勢が始まった!
 いよいよ待望のウクライナの反転攻勢が開始された模様です。
 ウクライナ当局が攻勢に関して一切コメントしない策をとっているため、西側メディアとロシアの報道等の断片的な情報しかありませんが、報じられている内容を総合すると、6月4日日曜から人知れず、東部戦線〜南部戦線の現接触線の広域に渡り、これまでの膠着的な戦況が一転、ウクライナ側がロシア側に対して攻撃を仕掛けている模様です。
 これが「反転攻勢開始」であることを示す論拠としては、広域で行われている攻撃部隊の勢力がトータルすると相当な大規模であり、これまで攻勢の際に運用する部隊として新規に編成、或いは再編成され、西側から供与を受けた装備の訓練をしていたとみられる戦略部隊が今回の攻撃で運用されていること、が挙げられています。
 ロシア側の報道では、ウクライナの猛烈な攻撃に対し、ロシア軍の卓越した電子戦能力が発揮されて、ウクライナ軍に対し大打撃を与え、攻撃は頓挫した、とのことですが、ISWの戦況分析ではさにあらず。戦況は全般的にウクライナ軍側が主導権を握り、戦勢を得ている模様です。ロシア軍の言う「ウクライナに対し大打撃を与えた」というのは、前回の私のブログ、6月3日付「ウクライナ攻勢に備えたロシアの周到な防御陣地、恐るべし!」で述べたように、ロシア軍はウクライナの攻勢開始までの時間的余裕を得て、相当の防御準備をしていましたから、その周到な防御陣地を最大限に活用して、地の利を得た強靭な戦闘をウクライナに対してぶつけてきていると思います。攻撃をかけているウクライナ軍の損耗も相当な苛烈なものになるでしょう。攻撃側も防御側もお互いに多くの将兵が死傷する、これは仕方がありません。
(参照: 2023年6月8日付ISW記事「RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, JUNE 8, 2023」、同日付前掲BBC記事「「Ukraine army attacks Russian forces in southern Zaporizhzhia region」、同日付The New York Times記事「Ukraine Holds the initiatives in most areas amid heavy fighting -- U.K.」、同日付BBC記事「Ukraine dam: What we kknow about Nova Kakhvka incident」、ほか)

広域で数軸の攻勢作戦、南部戦線が主攻か
 ウクライナの攻勢作戦には、現在のところの戦況を見ると、3軸の攻撃方向がある模様です。
 ① 東部戦線バハムート正面での防御からの反転攻撃を軸とする東部2州のコア部分の突破を企図すると思われる攻勢作戦、
 ② 東部と南部の戦線境界ドネツク州とザポリージャ州境界線一帯での攻撃を軸とするアゾフ海のマリウポリ方向にブチ抜いてロシア占領地域を東西に分断孤立化することを企図すると思われる攻勢作戦、 及び
 ③ 南部戦線ザポリージャ州のザポリージャからザポリージャ州南部の後方地域をメリトポリからアゾフ海方向に打通してロシア占領地域を東西に分断孤立化することを企図すると思われる攻勢作戦、
反転攻勢の攻撃軸
ウクライナの反転攻勢の3つの攻撃軸(前掲ISW記事よりウクライナ全般図を借用、青字と青矢印はブログ主が加筆)

 このうち、現在のところの攻撃の烈度の差を勘案すると、③の南部戦線の攻撃軸が主攻撃ではないかと推察されます。
ウクライナ側の州都ザポリージャから、広大なカホウカ貯水池の東側を通ってメリトポリ方向に攻撃前進している模様です。既に先端戦力はオリヒフからトクマクで戦闘している模様です。前述の私の前回のブログ、6月3日付「ウクライナ攻勢に備えたロシアの周到な防御陣地、恐るべし!」で述べたように、やはりロシアもこの正面に周到に防御準備をしていたわけですが、まさにこの正面が焦点になっています。既にトクマクで戦闘が起きている、ということですから、第一線陣地をぶち抜き、第二戦陣地も一部が突破して、先端戦力はトクマク市街地の北側外郭部分まで戦闘が至っている模様です。これはあくまで矢の先端の話ですから、第1線陣地及び第2線陣地をブチ抜かれているロシア側は、当初ぶち抜かれても、その突破口を何とか閉じて、突破したウクライナ部隊の後方を遮断して分断孤立化し、まだ生きている第1線陣地、第2線陣地、及びトクマク市街地の外郭線の障害と陣地による阻止火力を発揮して、ウクライナの先端戦力を陣内で捕捉・撃滅する強靭な戦闘をしている最中でしょう。これに対しウクライナ軍は、折角こじ開けた第1線陣地・第2線陣地の突破口を拡大して、次々と後続部隊をロシアの第1線陣地・第2線陣地の中に突っ込ませる、そのせめぎ合いの激戦を繰り広げていることでしょう。
トクマクの防御陣地
トクマクのロシア軍防御陣地 (2023年5月22日付BBC記事「Ukraine war: Satellite images reveal Russian defences before major assault」より、私のブログ6月3日付「ウクライナ攻勢に備えたロシアの周到な防御陣地、恐るべし!にて掲載」)

ロシア側は南部戦線を主攻撃とみてカホウカ貯水池のノバ・カホウカのダムを破壊、大洪水で攻勢を妨害か
 全く、ロシア軍ってなんてことするんでしょうね。いくら何でもやらないだろうと思ったカホウカ貯水池のダム破壊に及びました。カホウカ貯水池以西のドニエプル川左岸(東側:ロシア側)、右岸(西側:ウクライナ側)の両岸で大洪水が起き、洪水は市街や農地を沈めて、更に被害域は拡大中です。ウクライナの攻勢作戦における、南部戦線のカホウカ貯水池以西の攻撃については渡河作戦になるので、この大洪水が攻勢作戦に及ぼす影響は甚大です。しかし、ロシア軍のこの愚挙は、ロシア軍自身のドニアプル川の南側で周到に陣地防御の準備をしていた地域をも洪水で沈めてしまいました。ロシア軍の同地守備部隊は、慌てて更に南部の後方地域に後退しています。このカホウカ貯水池のダム破壊による大洪水はロシア・ウクライナ双方の軍事作戦に大きな影響がありましたが、ウクライナ軍の攻勢作戦の全般戦況から言えば、主攻撃方向である③の南部戦線の攻撃作戦にはほとんど影響がありません。むしろ、カホウカ貯水池以西に展開していた攻撃戦力を主攻撃方向に振り向けられますから、戦闘力の集中が発揮されます。バカですね、ロシア軍は。当然、ロシア軍もカホウカ貯水池以西で陣地防御させていた部隊の一部を、カホウカ貯水池以東のウクライナ軍の主攻撃方向の防御に加勢できる、と言えます。しかし、防御側にとっての決定的な強みであった周到な防御陣地を自ら捨てて、全く準備をしていなかった正面に、ただの応援勢力として向けられるわけです。他方、攻撃側は、元々攻撃しようとする地域は敵の準備していた地域で、攻撃側は相当の損耗を覚悟で倍くらいの勢力で攻撃を仕掛けます。戦闘力は多ければ多いほど優勢に戦えます。従って、このダム破壊による応援戦力の効果は、攻撃側の方が断然有利といえましょう。
 つくづくバカですね、ロシア軍の指揮官は。恐らく、周到に準備した奇襲的なダム破壊ではなく、ウクライナの攻勢開始と主攻撃方向の判明に伴う、窮余の一策として思いついた「やっちまった」愚挙であろうと推察します。
 
 遂に始まりました、反転攻勢。
 戦況の有利な展開を心から祈ります。
 頑張れ、ウクライナ!
 勝利の日は確実に近づいている!

(了)

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