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2018/11/23

防衛白書は中国をどう見るか?

「防衛白書」をザックリ解説: ⑥中国に対する情勢認識(前編)
防衛白書は中国をどう見るか?


 本年度防衛白書から、第1部「我が国を取り巻く安全保障環境」の主要ポイントである「中国」に対する情勢認識についてザックリとした概説を試みます。
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<「中国」情勢認識のポイント>
 まず結論から言うと以下の3点です。
①核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に軍事力を急速に近代化
 特に、「A2/AD」(接近阻止・領域拒否)能力を強化
②尖閣諸島等わが国周辺での活動の一方的なエスカレーション
 海洋プラットフォームに係る中国の今後の動向に注目
③力を背景とした現状変更の試み
 南沙西沙諸島の埋め立て、軍事拠点化で既成事実化
 米国の「航行の自由作戦」に対抗するも、不測事態回避の取組も
 「一帯一路」構想の下、インド洋・太平洋での活動促進に注目

(※ ちなみに、白書には主要ポイント以外にもいろいろ詳しい記述がありますが、ここ10年くらい巻頭にダイジェストが付けられており、ここにその年の白書の特色がまとめられています。白書の発表の際も、先生方への説明もこのダイジェストを使って説明しておりますし、マスコミ各社もここを見てコメントしています。このブログの主要ポイントも、白書の第Ⅰ部「我が国を取り巻く安全保障環境」のダイジェストを要約しています。)
  
<白書における書きっぷり>
 今年度の白書では、中国情勢について34ぺージという最大の紙面を割いて費やしており、米国に10ページ、北朝鮮に20ページ、韓国・在韓米軍に4ページと比しても、記述すべき情勢認識の気合いの入れようが知れます。しかも、3部構成34ページのうち、全般1.5ページ、軍事25ページ、対外関係8ページと、大半を費やして国防政策や軍事態勢等について丁寧かつ詳しく、囲み記事や図を使いながら説明しています。白書の論調としては、中国国内の社会全般に触れながら、急速な軍事力強化や中国周辺への軍事的脅威の高まりを強調した形です。
 これに対し、中国の外務省に当たる中国外交部の華報道官(よくニュースに出てくる中国政府のスポークスマンのような女性)は、「『拡張』や『野心』というレッテルを中国に貼ることはできない。中国の正常な国防建設と軍事活動に対する白書の非難に言及されたが、中国側の正常な海洋活動に対してとやかく言うのは全く根拠がなく、極めて無責任。(日本は)自らの軍備拡充のために様々な口実を探し求めている。」、とコメント(8月29日)しました。

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では、前述の中国に対する白書の情勢認識の主要ポイント3点について概説します。
<①核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に軍事力を急速に近代化>
○ 核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心とした急速な軍備強化
  特に、「A2/AD」(接近阻止・領域拒否)能力を強化
○ 電子戦・サイバー・宇宙空間等の運用能力も向上
○ 実戦的な運用能力強化を目的とした軍近代化
  中央軍事委員会主席としての習近平氏の強い意向
○ 目標は、2035年までに軍近代化し、21世紀半ばには世界一流の軍隊に。

<②尖閣諸島等わが国周辺での活動の活発化・エスカレーション>
○ 尖閣諸島周辺をはじめ活動範囲を一層拡大
○ 日本近海や太平洋進出を伴う海空戦力の訓練増大
  訓練は質的に向上。実戦的な統合運用能力の構築を企図か
○ 海洋プラットフォームをめぐる動向に要注意

<③南シナ海での力を背景とした現状変更の試み>
○ 南シナ海の利害対立について力を背景とした現状変更を企図
○ 南沙・西沙諸島等で埋め立てや軍事拠点化により既成事実化
  南沙の7地点で急速・大規模な埋め立て、軍事拠点整備を推進
  西沙で爆撃機の離発着訓練等、軍事拠点化を推進。
  南シナ海での海空活動を拡大・活発化  
○ 米国は、中国の行き過ぎた海洋権益の主張を牽制
  南シナ海で「航行の自由作戦」を実施
○ これに対し、中国も海空における不測の事態を回避・防止のため、平成30年5月に「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」の運用開始に合意するなど、一定の努力も見られる
○ 上記に加え、インド洋・太平洋でも「一帯一路」構想の後ろ盾としてシーレーン防衛やインフラ・拠点整備を推進し海空の活動活発化の可能性にも要注意
○ これらを踏まえた白書の中国に関する総括的評価
  「中国の急速な軍事力近代化や運用能力の向上、わが国周辺での活動の一方的なエスカレーションなどは、透明性の不足とあいまって、わが国を含む地域・国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心 を持って注視していく必要がある。」

 次回、後編では白書とは違った観点から中国情勢を斬新にまとめられた「中国人民解放軍の全貌 - 習近平 野望実現の切り札 -」の内容をザックリ紹介させていただこうと思っています。元陸自東部方面総監渡部悦和元陸将が、今年5月に出版された本ですが、同氏が米国のハーバード大学アジアセンターでシニアフェローとして研究をされていた際の、米国内の研究者・専門家の分析や議論、彼らとの意見交換等を通じて考えをまとめられたものなので、大変参考になります。

(つづく)
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