マクナマラの教訓: ②キューバ危機
<映画「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」に学ぶ ②キューバ危機>
①ではマクナマラ氏の11点の教訓を概観しました。
今回の②では、1点目の教訓 「敵に感情移入して考えよ。Empathize with your enemy.」=キューバ危機について反芻してみます。

1962年、米国の偵察機がキューバ国内に米国を射程に収めるソ連のミサイルが持ち込まれようとしている兆候を確認し、事態は一期に核戦争をも辞さない米ソ対決の様相を呈しました。そして、そこにはミサイル基地建設のための更なるソ連からの輸送艦船がまさに前進中という緊迫の中、米側は米海空軍によるキューバの海上封鎖と出入りするソ連船を臨検するという構えを取り、ソ連・キューバの出方次第によってはまさに一触即発のチキンゲームの状況に。結果的には、米ソ首脳間の秘密裏の交渉により相互に矛を収めるという穏便な形に危機管理が成功しました。そんな危機の期間の米側首脳部内のやりとりを同氏は語っています。
米側は、10月14日にキューバのミサイル基地建設中の兆候を示す情報を得て、まだ核弾頭は持ち込まれていないと考えられるものの、今まさにキューバに向かっているポルタバというソ連船には20もの核弾頭が持ち込まれるとCIAは分析。米国はまず18万もの軍を動員し、第一日目にしてキューバに1080出撃もの空爆を準備する一方、対決姿勢は見せるがまだ相互に考える余地を残す形として、ケネディ大統領は海上封鎖と臨検を22日に宣言。ケネディ陣営にもラメイ空軍参謀長等の強硬派がおり、事実ラメイはこの際キューバを一掃すべし(核戦争をも辞さず)と主張。画面には核砲弾の実写シーンが映り、その弾着のきのこ雲の画像が現代の我々にも当時の一触即発の緊張を伝えます。こんな時期があったんですねぇ。
その緊要な局面で、26日の夜と27日にソ連のフルシチョフ書記長から相矛盾する硬軟2つのメッセージが届き当惑するケネディ陣営。一方は、「米がキューバを攻撃しないと約束すればミサイルを撤去する。」、もう一方は、「もし攻撃するのであればソ連は全軍事力で対抗する。」とのこと。ここで悩む大統領に、懐刀ともいうべき前ソ連大使だったトンプソン氏が「前者(柔軟なメッセージ)に対して対応すべし」、則ち、まだ交渉の余地があるのだと進言します。曰く、「(交渉で折り合うことにより)フルシチョフは自分がキューバを救ったのだ、自分が米の侵攻を抑止したのだ、と(キューバやソ連内や東側世界に対して)言えるようになるのです。」と。フルシチョフもこの危機の出口を探して苦悩の中にあるに違いなく、双方が条件に折り合えれば、自国内や関係国に説明できる名目が建てるのであれば交渉で危機は回避できる、フルシチョフは応じるはずだ、と。ケネディ大統領は状況判断し、この線で事が運ばれ、無事にキューバからミサイルは撤去されることになり、危機は回避されました。
これがマクナマラの言う”Emphasize with your enemy.” 「相手に感情移入して考えよ。」という教訓です。マクナマラは言います。
“We must try to put ourselves inside their skin and look at us through their eyes
just to understand the thoughts that lie behind their decisions and their actions.”
「我々は、相手側の肌の中に入り込んで彼らの目を通して我々自身を見ようとしなければいけない。
表面上の彼らの決心や行動の背後にある彼らの考えを理解しなければならないのだ。」
キューバ危機に関しては、グレアム・アリソンの名著「決定の本質-キューバ・ミサイル危機の分析」や大統領実弟にして当時司法長官だったロバート・ケネディ著「13日間-キューバ・ミサイル危機回顧録」、更に映画では「13デイズ」など、勉強対象として参考文献にはことかかないところですが、齢85歳にして饒舌に当時の緊迫を語るマクナマラの映像をぜひ皆様もご一見を。 (了)


にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
①ではマクナマラ氏の11点の教訓を概観しました。
今回の②では、1点目の教訓 「敵に感情移入して考えよ。Empathize with your enemy.」=キューバ危機について反芻してみます。

1962年、米国の偵察機がキューバ国内に米国を射程に収めるソ連のミサイルが持ち込まれようとしている兆候を確認し、事態は一期に核戦争をも辞さない米ソ対決の様相を呈しました。そして、そこにはミサイル基地建設のための更なるソ連からの輸送艦船がまさに前進中という緊迫の中、米側は米海空軍によるキューバの海上封鎖と出入りするソ連船を臨検するという構えを取り、ソ連・キューバの出方次第によってはまさに一触即発のチキンゲームの状況に。結果的には、米ソ首脳間の秘密裏の交渉により相互に矛を収めるという穏便な形に危機管理が成功しました。そんな危機の期間の米側首脳部内のやりとりを同氏は語っています。
米側は、10月14日にキューバのミサイル基地建設中の兆候を示す情報を得て、まだ核弾頭は持ち込まれていないと考えられるものの、今まさにキューバに向かっているポルタバというソ連船には20もの核弾頭が持ち込まれるとCIAは分析。米国はまず18万もの軍を動員し、第一日目にしてキューバに1080出撃もの空爆を準備する一方、対決姿勢は見せるがまだ相互に考える余地を残す形として、ケネディ大統領は海上封鎖と臨検を22日に宣言。ケネディ陣営にもラメイ空軍参謀長等の強硬派がおり、事実ラメイはこの際キューバを一掃すべし(核戦争をも辞さず)と主張。画面には核砲弾の実写シーンが映り、その弾着のきのこ雲の画像が現代の我々にも当時の一触即発の緊張を伝えます。こんな時期があったんですねぇ。
その緊要な局面で、26日の夜と27日にソ連のフルシチョフ書記長から相矛盾する硬軟2つのメッセージが届き当惑するケネディ陣営。一方は、「米がキューバを攻撃しないと約束すればミサイルを撤去する。」、もう一方は、「もし攻撃するのであればソ連は全軍事力で対抗する。」とのこと。ここで悩む大統領に、懐刀ともいうべき前ソ連大使だったトンプソン氏が「前者(柔軟なメッセージ)に対して対応すべし」、則ち、まだ交渉の余地があるのだと進言します。曰く、「(交渉で折り合うことにより)フルシチョフは自分がキューバを救ったのだ、自分が米の侵攻を抑止したのだ、と(キューバやソ連内や東側世界に対して)言えるようになるのです。」と。フルシチョフもこの危機の出口を探して苦悩の中にあるに違いなく、双方が条件に折り合えれば、自国内や関係国に説明できる名目が建てるのであれば交渉で危機は回避できる、フルシチョフは応じるはずだ、と。ケネディ大統領は状況判断し、この線で事が運ばれ、無事にキューバからミサイルは撤去されることになり、危機は回避されました。
これがマクナマラの言う”Emphasize with your enemy.” 「相手に感情移入して考えよ。」という教訓です。マクナマラは言います。
“We must try to put ourselves inside their skin and look at us through their eyes
just to understand the thoughts that lie behind their decisions and their actions.”
「我々は、相手側の肌の中に入り込んで彼らの目を通して我々自身を見ようとしなければいけない。
表面上の彼らの決心や行動の背後にある彼らの考えを理解しなければならないのだ。」
キューバ危機に関しては、グレアム・アリソンの名著「決定の本質-キューバ・ミサイル危機の分析」や大統領実弟にして当時司法長官だったロバート・ケネディ著「13日間-キューバ・ミサイル危機回顧録」、更に映画では「13デイズ」など、勉強対象として参考文献にはことかかないところですが、齢85歳にして饒舌に当時の緊迫を語るマクナマラの映像をぜひ皆様もご一見を。 (了)


にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
スポンサーサイト
コメント