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2023/09/10

ウクライナの劣化ウラン弾使用をロシアが糾弾: 実はクラスター弾問題と同様ロシアも使用

ウクライナの劣化ウラン弾使用をロシアが厳しく糾弾、米国は反論
 2023年9月6日ロシアはテレグラムにて、同日に発表された米国の約10億ドルのウクライナ支援のパッケージの中に、米国のM1エイブラムス戦車の砲弾として劣化ウラン弾が供与されることに強く反発、劣化ウラン弾を「非人道的」、「将来の世代に十字架を課す」、「動く放射性雲を作る」などと非難しました。

 ウクライナ軍の劣化ウラン弾の使用については、実は既に本年3月に英国が主力戦車チャレンジャーを供与した時から、その戦車砲弾として劣化ウラン弾の供与は始まっていて、既に戦場で使用されています。ロシアは、本年3月の時点でも、英国の劣化ウラン弾供与に対して、今回同様に厳しく糾弾しました。ちなみに、英国は比較的冷ややかに供与についての英国の考え方をメディア等を通じて発しており、一定期間でロシアの反発は沈静化しています。

 今回のロシアの反発を受け、米国国防省の報道官は、米国疾病対策センター(CDC)の見解として「劣化ウラン弾に発ガン性を懸念する問題はなく、世界保健機関(WHO)や国際原子力機関(IAEA)の見解でも劣化ウラン弾が使用された過去の戦場地域の住民に白血病等のガンの増加等は見られておらず、健康被害や環境汚染を示す証拠や事実がないこと、などを説明し、反論しています。
(参考: 2023年9月7日付NHKニュース「米政府 ウクライナに劣化ウラン弾の供与を発表 ロシア側は反発」、同日付時事通信記事「ロシア、『非人道的』と批判 米のウクライナに対する劣化ウラン弾供与」、同8日付CNN記事「劣化ウラン弾の健康リスク、米国防総省がロシアに反論」、ほか)

depleted uranium shell
劣化ウラン弾の構造(2023年9月7日付Kyiv Post記事「EXPLAINED: Why Russia is So Upset with Latest Depleted Uranium News」より)

そもそも劣化ウラン弾とは?
 劣化ウラン弾とは、主として戦車砲弾に使用される砲弾なのですが、敵戦車の堅い装甲を貫徹する弾体に比重の重い重金属として劣化ウランを弾の芯として使用しています。陸上戦闘においては、戦車は無敵の乗り物です。第1次世界大戦で戦場に戦車が現れて以降、各国の軍隊は、敵の砲弾や射撃にも耐えうる堅い装甲を研究し、一方、その装甲を何とか貫徹する対戦車砲弾を血眼で研究し、その相克で対戦車戦闘は発展・進化してきました。現在のところ、劣化ウラン弾は戦車砲弾として非常に優れた装甲貫徹力を誇り、世界の軍隊が劣化ウラン弾を普通に使用している状況です。(陸上自衛隊はもっていませんけどね。)ちなみに、劣化ウランでなくても、弾芯に同様に比重の重いタングステンも使われています。しかし、劣化ウランの方が安価で各地の戦場で実績があります。ただし、劣化ウランというわずかながら残る放射性物質の特性上、取り扱いに注意が必要です。

 その仕組みについて、手っ取り早い説明のため、上の画像をご覧ください。こういう砲弾のことをAPFSDS(armor-piercing fin-stabilized discarding sabot)といいます。APFSDSという名称を訳すと、戦車の装甲を貫徹する、ヒレで弾道を安定させた、使い捨ての途中で外れるカバー付きの砲弾、といったところでしょうか。自衛隊的には、「装弾筒付翼安定徹甲弾」と呼ばれています。要するに、比重の重い弾を超高速で発射し敵戦車の堅い装甲を貫くことを狙った戦車砲弾、というわけです。劣化ウランやタングステンなどの超重い比重の弾を焼き鳥の串状(上図黄色、下図黒色)の先端(銀色部分)に長細くつけて弾の芯とし、これに砲弾発射の際に初速を大きくするために飛翔中に外れる軽いカバー(上下図とも黒色)をつけて発射します。これにより、重い弾芯が非常に速い初速で発射され、カバーは途中で外れますが、この重い弾芯だけ(弾道を安定させるためにヒレがついています)が敵戦車めがけて飛んでいき、超高速度で敵戦車の装甲に衝突します。その際、弾芯は敵戦車の堅い装甲にキノコの傘のように(瞬間の話しながら、逐次に)侵徹しながら摩耗していき、焼き鳥の串のように長い弾芯の長さが尽きるまでに装甲を貫徹し、貫徹した後に熱噴流となって貫徹した戦車内を火炎地獄にします。要するに、その弾芯の素材として劣化ウランを使ったのが、問題の「劣化ウラン弾」というわけです。

 ここで問題となるのは、前述の装甲貫徹の際に劣化ウラン弾が、摩耗していく際の微粉末と、熱噴流になったものです。燃焼により酸化ウランに化合された微粉末の混じる空気を戦場に飛散・漂わせてしまうため、戦場の限られた地域ながら、その化学毒性やわずかながら残留するウラン放射性物質を漂わせ、やがて地面に堆積させてしまいます。これが人体や環境に重大な影響があるのでは?と指摘されている問題です。

劣化ウラン弾の人体・環境への危険性は?
 冒頭の節で米国の反論の中にあったように、これまで戦場で実際に使われ、紛争後その地域の住民に健康被害があったと言われる地域があったり、その懸念が国際的に検証がひつようという機運が生じたため、国連機関等が比較的長期にわたって観察・研究をし、結果を発表しています。それによると、概して「特段の問題なし」というものでした。また、国際的な特定の条約等で、劣化ウラン弾の使用を禁止する等の取り組みは全くありません。

 劣化ウラン弾がこれまで実際の戦場で使われたのは、公になっているもので、1991年の湾岸戦争、1999年のコソボ紛争、2003年のイラク戦争でした。特に、国際的な議論になったのは1999年のコソボ紛争にて、紛争を収めるために仲介的に介入した米軍が、ロシア製の最新鋭戦車で押して来る敵対勢力に対して米軍戦車が劣化ウラン弾を使用したため、「ウラン」の名にNATO諸国が敏感に反応しました。同じ欧州上の話なので、残留する放射性物質の環境への体積・悪影響、地域住民への健康被害などへの不安から、米軍に対する反発がありました。国際原子力機関(IAEA)は、天然に存在するウランよりもかなり毒性が低い、と中途半端な言い方をし、ずっと議論がありましたが、2007年に今後健康被害が懸念された地域等で長期的にしっかり観察・研究することを決め、2016年の放射線の影響に関する科学委員会(UNSCEAR)の結果発表では、「重大な中毒被害なし」、とされました。

 しかし、一方で、IAEAは、劣化ウラン弾の軍の取扱者や、地域住民が発見した残骸・破片を取り扱うとには十分な注意を要する旨、指摘しています。また、2022年の国連環境計画(UNEP)の報告では、劣化ウラン弾の残骸等を不用意に手にしたりすることで、皮膚の炎症、腎不全、ガンなどのリスクがある可能性があることを指摘しています。また、2019年に過去劣化ウラン弾の使用された地域を調査した研究で、イラクのナシリヤにおいて、地域住民の先天性欠損症の発生について、劣化ウラン弾使用との関連がある可能性が指摘されています。

結論: 多少の危険性を承知の上で、ウクライナが求め、使用している、という事実を認識すべし
 玉虫色の結論のようで恐縮ですが、私見ながら、多少の危険を承知の上で、ウクライナが米英に求め、自らの国土の奪還のために、自らの国土の上での使用を求めている、というのが現実なので、その現実通りに理解するしかないと思います。
 ただ、勘違いや誤解を避けるために強調いたしますと、「劣化ウラン弾」は決して核砲弾ではないし、国際テロなどで放射性物質をまき散らすことを目的とした放射性物質を爆発物で飛散させ悪影響を生じさせる「汚い爆弾」の類ではありません。純然たる戦車砲弾の一形態ですので、お間違いなく。もともとの由来がウランの低濃縮による原子力発電の核燃料生成の過程で生じた残渣なので、非常に微量ながら放射性物質です。しかし、健康被害・環境悪影響の根源は、放射性物質ゆえではなくて、化学的な毒性です。多くの方々が、まず「ウラン」と聞いた瞬間にアレルギーの触角が立って、これは絶対ダメだという方向にギアを入れるんですが、健康被害や環境悪影響の本質は核物質ではなく化学的毒性の方ですので、お間違いなく。

 似たような話に、ロシア軍が多用する白煙黄燐弾というものがあります。昨年、ウクライナ軍がメリトポリのアゾフスタリ製鉄所の地下要塞に籠城した際に、ロシア軍がアゾフスタリ製鉄所の地上部分を白リン弾や黄リン弾で焼き尽くしました。当然核物質、放射性物質ではありませんが、空気に触れると高熱を発し燃焼する化学物質で、不発弾や燃え残りが地中に埋まると一旦不発となりますが、攻撃後の復旧等で地面をほじくり返した瞬間、また爆発・飛散・焼夷をする始末の悪い砲弾です。特に、これが使用された地域では著しい健康被害・環境悪影響が末永く続きます。こっちの方がよほど始末が悪い。しかし、こっちは問題化せず(アゾフスタリ製鉄所籠城当時、ウクライナは非人道兵器だと非難しましたが、ロシア軍は意に介さず)、ロシア軍はいまだに多用しています。
 また、これも似たような話に、今問題となっていますが、米英軍がウクライナに供与しているクラスター弾があります。クラスター弾とは、砲弾の中に多数の小弾が入っていて、それが広範囲に飛び散る仕組みの砲弾です。問題なのは、飛び散った小弾は、飛散したあちこちで爆発する者なのですが、結構な確率で不発となります。その不発弾が、あとで復旧等で地面をほッくり返したり子供が拾ったりして爆発するなど、地域住民、なかんずく子供に被害が及ぶ可能性があり、これが故に非人道兵器として糾弾されます。今回のウクライナ戦争では、ロシア軍は当初から使用していました。今年の攻勢で、米英がウクライナに供与したため、米英の国内を含め、欧州内でも問題視する議論があります。

 劣化ウラン弾、白リン弾・黄リン弾、クラスター弾、…など、両軍とも使えるものは使うんですよね。これが戦争の「目的達成のためには手段を択ばない」ところですね。毒ガスや核兵器のように、いくら何でもこれは使用するのはやめよう¥ね、というコンセンサスがないので、相手の国が使っている以上、仕方なく使うわけです。

 頑張れ!ウクライナ
 勝利の日まで、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍べ!
 やがて確実に日が昇る時が来る!

(了)

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