ウクライナ攻勢の残り時間は30~45日?:攻勢は泥濘・厳寒期でも続けるだろう

右が米統合参謀本部議長のミリー大将 (2023年9月11日付BBC記事「Ukraine offensive could have only 30 days left - US Army chief」より)
要旨
秋の泥濘期・冬の厳寒期が迫る中、「攻勢作戦はあと30~45日」との認識が広がっていますが、泥濘・厳寒期にあってもウクライナは攻勢の姿勢は崩さず、総合戦闘力は発揮できずとも様々な形で攻勢作戦を続行する、と推察します。
「攻勢の残り時間は30~45日」発言
米統合参謀本部議長ミリー大将は、9月10日日曜のBBCのインタビューに答えて、「ウクライナ軍は今まさに激戦中であり、ロシアの最前線を突き抜けて着実なペースで攻撃前進している。まだ反撃攻勢には妥当な時間的猶予がある。(秋の泥濘による作戦困難な時期が来るまで)作戦戦闘ができる期間が約30〜45日残っている。」と発言しました。(実際の発言: "There's still heavy fighting going on. …progressing at a very steady pace through the Russian front lines. … There's still a reasonable amount of time, probably about 30 to 45 days' worth of fighting weather left, so the Ukrainians aren't done. )ミリー大将が言ったのは「十分妥当な期間として30~45日残っている」という趣旨でしたが、捉えようによっては一部の報道のように「あと30⁻45日しかないと米軍トップが言った」という報道のされ方をしてしまいます。やはり「残り時間は30~45日しかない」というようなキャッチ-な見出しが世の人の目を捉えますからね。
(参照: 2023年9月11日付BBC記事「Ukraine offensive could have only 30 days left - US Army chief」、同年9月10日付Newsweek記事「US General Warns Time Is Running Out for Ukraine’ s Counteroffensive」、ほか)
現在の戦況はいかに
最新のISWの分析にもある通り、主攻撃正面の南部戦線ザポリージャ州西部のロボタイン正面でウクライナ軍の着実な攻撃がじっくり進展するものの、ペースはゆっくりです。一方、助攻撃正面の一つ、東部戦線バハムート正面では一進一退。この正面ではロシアが局地的な攻撃を仕掛けてウクライナにゆさぶりをかけ、あわよくば突破してやろうと、かなりの精鋭部隊をつぎ込んで押してきています。これに対しウクライナ軍は防御する形で阻止していますが、最新の戦況では一部を奪取した、とも。・・・しかし、総じて言うとミリー大将の言葉通り、「激戦中であり、着実なペースで攻撃前進中」と言ったところです。主攻撃正面のロボタイン正面では戦勢を獲得していますが、何せロシアの対戦車障害と防御陣地のコンビネーションによる頑強な抵抗が根強く、攻撃進展のペースがカメの歩み状態です。
(参照: 2023年9月12日付ISW記事「Russian Offensive Campaign Assessment、September 12,2023」)
「攻勢の残り時間はあと30~45日」もなんのその、ウクライナは攻勢を続行する、と見た
ミリー大将の指摘のように、秋の泥濘期になる前に、あと30日~45日間あります。秋の雨季がやって来ると、地表は泥濘化します。装輪車(タイヤで走る車両)は勿論のこと、キャタピラを履いている戦車・装甲車でさえ、泥濘期にはぬかるみにハマって動きづらくなります。よって、泥濘期には戦車・装甲車などの機動打撃力なども駆使した本格的な総合戦闘力を発揮した作戦戦闘が困難になります。さらに冬の厳冬期で戦闘は膠着化するのは仕方のないことです。よって、泥濘期以降は次なる厳寒期も含めて翌年の春になるまでの間、本格的な攻勢作戦は実施困難、というのが常識的な認識です。実際、認識の問題ではなく、物理的にそうならざるを得ない、と私も思います。
作戦行動が困難で膠着戦となる、そんな時期のストーブリーグでは、西側諸国が相当な支援をこれまでつぎ込んできましたが、更に3年目になろうというこの長期戦を引き続き同様にこぞって支援し続けるのか?という各国の個別の事情や足並みの乱れが出てくることになります。米国の2024年の大統領選挙戦もこれに大きく影響を与えます。ここで重要なのが、戦闘が膠着する際のウクライナ軍とロシア軍の接触線のラインがいかなる状況か?ということです。戦況が有利なのか?不利なのか?もし、ウクライナにとって有利な戦況と言えるラインで膠着したのなら、ストーブリーグは西側諸国の支援を続けるか否かの議論はウクライナにとって比較的有利な戦いとなります。他方、膠着した際の接触線のラインがどう見てもウクライナにとって不利=ロシアが有利な状況なら、ストーブリーグはウクライナにとって厳しい闘いになります。来春までに支援戦線から離脱する国、支援規模をガックリ減らす国、などが出てきます。特に、米国の大統領選挙の候補者たちの論戦のネタになります。
であるがゆえに、私見ながら、ウクライナは泥濘期になっても「攻勢はここで一旦停止します」とは言わないだろう、むしろ、攻勢作戦の旗を降ろさず、様々な形で細々と続行するだろう、と推察します。これはウクライナが意固地なのではなく、戦況を見通して残り30~45日でどこまで攻撃進展が進むかを踏まえると、そこで旗を降ろす訳にはいかないからです。
まず何よりも、現在の主攻撃正面を中心とした攻撃の進展が焦点です。ウクライナにとって有利な戦況とは何か?それは欲を言えば主攻撃正面が進展して戦略都市メリトポリまで奪取すること、です。しかし、1ケ月あまりでできる話ではありません。よって、メリトポリの手前の重要拠点であるトクマクを奪取することが現在の攻勢の攻撃目標であろうと推察します。今後とも、ウクライナは必死に主攻撃正面での攻撃進展に取り組むでしょう。しかし、望ましい攻撃目標のメリトポリまでは遠く及ばず、必ず達成すべき攻撃目標であるトクマクまでも届かないかもしれない。「トクマクまで届かなかったが泥濘が始まったので仕方がない」と攻勢の旗を降ろすでしょうか?泥濘期には、戦車・装甲車・装輪車は行動困難ながら、攻撃を続ける他の方法・手段がないかというと、いろいろ手があります。例えば、後方地域で足場を確保した砲兵火力、或いはミサイル・ロケット、更に自爆型ドローンをもって、敵陣地に砲弾の雨を降らしたり、敵の重要な補給拠点などを狙い撃ちで撃破することは十分継続できます。また、そうした砲撃を援護射撃に得て、泥濘でも比較的行動が自由な歩兵による攻撃はできます。特に、ロシアの防御陣地は、龍の歯や対戦車地雷、対戦車壕による対戦車障害を前に置き、地面を掘った塹壕陣地がロシア軍の主陣地となります。歩兵にとって最もその能力を発揮できる迂回・浸透攻撃を駆使できます。更に、電子戦・対電子戦など指揮・通信・データ通信・自己位置標定や目標への誘導について、我が行動の自由を確保しつつ、敵の行動を妨害する戦いは続きます。加えて、戦場における戦闘のみならず、情報作戦やサイバー戦などは当然続きます。要するに、本格的な総合戦闘力を発揮は困難であっても、攻勢を続行する姿勢を崩さず、地味に攻撃を継続してトクマクを目指すのではないか、と推察します。
このため、まず泥濘期の前に残る30~45日の期間で、主攻撃方向に最大限に総合戦闘力を集中発揮してトクマクを目指し、トクマクまで届かずとも努めて近迫するよう、攻撃進展を追求するでしょう。そして、雨季になり泥濘期になっても、行ける限り総合戦闘力を発揮して前進し、戦車・装甲車が動けなくなったら、歩兵を中心とした攻撃に移行して、トクマクを目指して攻撃戦闘を継続するでしょう。勿論、どう考えても、もはや組織的な総合戦闘力発揮は無理で、大規模な攻撃作戦はできません。しかし、ウクライナにとって大事なのは、侵略軍であるロシア軍を国土から排除する攻勢の旗を降ろさない、という攻勢続行の姿勢と、地味な攻撃進展を続けることで西側諸国にウクライナの姿勢と攻勢のモーメンタムをPRすることでしょう。
頑張れ!ウクライナ
あと30~45日、泥濘期になるまで押して押して押しまくれ!
泥濘期に入っても、あらゆる手段・方法で攻撃を続け、トクマクを目指せ!
その攻勢の姿勢、攻撃のモーメンタムは必ずや西側諸国の協賛を得られる、
嵐はやがて晴れ、夜明けは必ず来る!
(了)


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