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2023/09/18

ウクライナがクリミアを奪回する?: 狙いは主攻撃ザポリージャ正面の進展のための兵力転用阻止と兵站基盤の破壊

クリミア攻撃
8月下旬以降のウクライナ軍のクリミアへの主要な攻撃 (2023年9月17日付BBC記事「Ukraine's Crimea attacks seen as key to counter-offensive against Russia」より)

要旨
 ウクライナが8月下旬以降ここ最近、クリミアに対してドローンやミサイル攻撃を激化させており、クリミア奪回?との見方も出ています。ウクライナ軍はクリミア奪回をするつもりなのでしょうか? 私見ながら、ウクライナの狙いは、あくまで当面の最大課題の克服、今夏の攻勢目標、主攻撃であるザポリージャ正面のトクマクの奪取であって、他の全ての正面の攻撃は「主攻撃」を進展させるための「助攻撃」です。他の正面でロシアを揺さぶることにより、他の正面にロシア軍を拘束し、主攻撃方向に対する兵力転用をさせないこと。主攻撃方向の攻撃進展こそが2022年2月の段階のロシア侵攻以前の国土の回復の早道であり、その次の目標である2014年以前の国土の回復につながるのです。

ウクライナは8月下旬以降クリミアを執拗に攻撃
 9月14日付BBC記事「Russian air defense system destroyed in Crimea, Ukraine says」などで報じられているところでは、ウクライナはここ最近クリミア半島に駐留しているロシア軍の防空システムや海軍基地を執拗なまでに叩いています。

スライド1
dry dock
画像上: ミサイル攻撃による爆発・炎上(2023年9月17日付Newsweek記事「Russia Moves Ships From Black Sea Following Strikes: Ukraine Official」より)
画像下: セヴモルザヴォド乾ドック修理施設の現場、黄色線で囲んだ部分に乾ドックで2隻の黒ずんだ艦艇が確認できます(※黄色の○は筆者が加筆、画像は2023年9月17日付BBC記事「Ukraine's Crimea attacks seen as key to counter-offensive against Russia」より)


 特に、今回の攻撃では、巡航ミサイルとドローンを使用してエフパトーリヤのロシア軍防空システムと、セバストポリのロシア海軍黒海艦隊に対し壊滅的打撃を与えています。黒海艦隊は、昨年4月に旗艦モスクワをミサイルで大破させられ、通年攻撃を受けていますが、ここ最近の集中的なミサイルとドローンの攻撃により、今回の攻撃で乾ドック(整備のため、艦艇をドックに入れ、海水を抜いて集中的整備をする施設)を狙われ、揚陸艦と潜水艦が大きな損害を受けた模様です。黒海艦隊は、もはやセバストポリでは艦隊の安全が保たれないため、ロシア本土のノヴォローシスク軍港に本拠地を移動しています。
 また、今回の攻撃で、クリミア半島に所在のロシアの防空システムも壊滅的な打撃を受けています。侵攻開始以来、黒海上に浮かぶ不沈空母のようになっているクリミア半島の戦略的な位置から、ここにロシア軍のS-400 をはじめとする防空システムが機能しているため、黒海上の制海及び制空はロシアが握っていました。黒海におけるウクライナ海軍・空軍の作戦行動及びウクライナからの穀物を積んだ商船の航行などの生殺与奪の権はロシアが握っていたわけです。しかし、今夏以来の集中的なクリミアへのドローンやミサイルの攻撃の成果で、状況が一変しています。8月23日に公表したクリミア半島オレニフカ付近ターカンクート岬におけるロシアの最新鋭地対空ミサイルシステム「S⁻400」やバスティオン対艦ミサイルシステムの破壊の報は、快挙でした。これにより、ロシアの黒海上の制海・制空は一時的にマヒ状態に陥り、その翌日にはクリミア半島のオレニフカ付近にウクライナの特殊部隊が2か所に対して上陸に成功しています。当然、ロシア軍は再び黒海上の制海・制空の睨みを利かすため、迅速にクリミア半島の防空システムを応急復旧していたはずです。それを、先週また攻撃され、壊滅的な打撃を与えました。
(参考: 前掲2023年9月14日付BBC記事に加え、9月17日付Newsweek記事「Russia Moves Ships From Black Sea Following Strikes: Ukraine Official」、ほか)

ウクライナの執拗なクリミア攻撃はクリミア奪取のためのクリミア上陸作戦の序曲か?
 ウクライナ軍のここ最近のクリミア半島への攻撃により、クリミアに既に黒海艦隊なく、黒海の制海と制空ににらみを利かせていた防空システムが機能していない状況です。ゼレンスキー大統領はじめ、国防省や外相らも「必ずクリミアを取り返す!」と発言しています。2023年9月14日付Newsweek記事「How Ukraine Could Take Crimea Back From Russia」、同日付同紙記事「「Ukraine's Crimea Operation Is Going to Plan」など、となると、これはクリミア上陸作戦を実施するつもりか?という見方すら出ています。

 しかし、私見ながら、ウクライナ軍がクリミア半島にノルマンディー上陸作戦のような着上陸作戦を実施する、というのは不可能です。それをするには相当数の揚陸艇、輸送艦艇をはじめ、それを支援する海軍艦艇が必要ですが、ウクライナにはそれがありません。では、陸伝いにクリミア半島へ?、いやいや、それができるためには、ザポリージャ正面やヘルソン正面で対峙する要塞で陣地防御するロシア軍を撃破しないと半島までたどり着けません。しかも半島は島に近いくらいの狭隘な通路で大陸とつながっている状況です。どう考えても、海伝いにせよ陸伝いにせよ、軍事作戦による直接的なクリミア奪還作戦というのは不可能に近い、と言えましょう。

ウクライナのクリミア攻撃の真意は主攻撃への寄与するための助攻撃、+兵站基地の破壊
 私見ながら、ウクライナの狙いは、あくまで当面の最大課題の克服、今夏の攻勢の攻撃目標は、主攻撃であるザポリージャ正面の「トクマクの奪取」が必ず達成すべき目標です。主攻撃以外の正面の攻撃は、「主攻撃」への寄与、すなわち主攻撃を進展させるための「助攻撃」です。他の正面で「この正面で突破しちゃうぞ!」と他の正面でロシア軍を揺さぶることにより、主攻撃以外の正面にロシア軍を拘束し、主攻撃方向に対する兵力転用をさせないことです。
 現在、主攻撃であるザポリージャ正面のロボタインでは、ロシア軍の第一線陣地を突破できましたが、そこに対してこれ以上抜かせまいと、ロシア軍は他の正面から部隊を転用して配備を増強したり、更なる障害や陣地の強化をしています。ウクライナ軍も、折角築いた突破口を塞がれないように、、確保した敵陣地を奪回されないよう、奪取した敵陣地を我が陣地として攻撃築城で陣地強度を増すとともに、この陣地を攻撃の拠点として支援射撃の陣地に使ったり、後続部隊を押し出したりしています。この主攻撃の進展こそが今夏の攻勢の焦点=正念場なのです。
 クリミアに対するウクライナ軍の攻撃により、ロシア軍は更なる警戒態勢を引かざるを得ず、また、損害を受けたゼバストポリの海軍施設の復旧や半島西部の防空システムの復旧などに勢力を裂かねばならなくなります。これにより、ロシア軍はロシアにとって非常に重要な地域であるクリミア正面からザポリージャ正面への兵力転用ができなるどころか、クリミア半島に一定の規模の警戒部隊の配置を増強を余儀なくされるわけです。
 また、クリミアは、ザポリージャ正面やヘルソン正面のロシア軍の第一線部隊の後方地域として、他正面からの転用部隊や新たに招集・徴兵した兵士のための集結・待機地域、あるいは前線で戦った部隊を戦力回復のための待機地域です。また、南部戦線ザポリージャ正面・ヘルソン正面で戦う第一線部隊のため兵站基盤です。ロシア本土から陸伝いに鉄道や輸送車両でケルチ橋を渡って、あるいは海伝いに輸送艦や貨物船等で海路から、物的戦力となる兵站物資を集積し、それぞれの正面に配送する兵站基地になっています。ウクライナ軍がこの「クリミアのロシア軍兵站基地を徹底的に叩く」ということは、ザポリージャ正面やヘルソン正面で戦う第一線部隊の新戦力となる交代要員や転用部隊などに人的損耗を与えて人的戦闘力を減じ、更に、武器・弾薬・食料・医薬品などの補給品や前線で壊れた武器・車両を整備を滞らせることで物的戦闘力を減じる、という相乗効果を生み、もって主攻撃正面であるザポリージャ正面のウクライナの攻撃進展を裏から支えています。

では、クリミアは奪回しないのか?
 恐らく、ウクライナが目指しているのは、クリミア半島に対する着上陸侵攻のような直接的な軍事行動による奪回ではありません。こうしたドローンやミサイルを主とした飛び道具的攻撃を執拗に継続することによって、まずこの地に現在入植しているロシア人をロシア本土に避難させることを促進すること。そして、ザポリージャ正面及びヘルソン正面などの南部戦線の後方地域として、ロシア軍の人的戦闘力、物的戦闘力の兵站基盤としての機能を果たせない状況に破壊し続けること。これらの相乗効果で、もって、南部戦線の後方地域・兵站基盤たり得ない状況にしてしまい、ロシア軍にこの地にいる意義を無くさせ、この地から撤退させることでしょうね。そうした遠大な、間接的な方法でのクリミアの事実上の奪回を目指しているものと推察します。

 頑張れ!ウクライナ、
 クリミアへの執拗な攻撃の効き目が出てるぞ!
 南部厭戦ザポリージャ正面、東部戦線バハムート正面で、またまた戦果が上がっている!
 主攻撃正面ザポリージャ正面で目標であるトクマクを陥落させよ!
 夜明けはもうすぐそこまで来ている!

(了)

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