激戦ウクライナ: 地雷処理の痕跡に見るウクライナの国土回復の執念

(画像: 2023年9月18日付BBC記事「War in Ukraine: Is the counter-offensive making progress?」より)
まずは、上の左右の画像をとくとご覧ください。
左画像が8月21日の状況、右画像がほぼ同じ場所を地雷原の処理を終えた景況となっています。
右画像の草原上のプツプツは地雷は発見した地雷を爆破処理し、クレーター状になった爆破処理の痕跡です。
この画像は、2023年9月18日付BBC記事「War in Ukraine: Is the counter-offensive making progress?」に掲載されていたものです。全般状況の解説記事でしたが、私はこの画像に釘付けになりました。
今回は、この1枚の画像から透かして見える激戦の状況、特にウクライナ軍の国土回復への執念について私見を述べたいと存じます。
地雷処理の痕跡から言えること
重複を厭わず、前掲の画像について所見を述べます。
左図と右図は時期が違えど、ほぼ同じ場所の地面の衛星画像です。場所は、現在ウクライナ軍が主攻撃方向として全力を挙げて攻撃をしている、南部戦線ザポリージャ州ロボタイン正面のヴェルボーブ付近の草原です。左図と比して右図の画像の景況の違いは、地面に開いたクレーターです。要するに、左図も右図も、この地域一帯にはロシア軍が敷設(地雷を仕掛けて埋設することを軍事用語で「敷設(ふせつ)」といいます)した縦深数百メートルx幅数キロに及ぶ広大な地雷原が広がっています。左右の画像の違いは、地雷処理の前後です。すなわち、左図は敷設した地雷が埋まっているが表面上は分からないただの草原に見える状態、右図はウクライナ軍が一つ一つの地雷を見つけ、一つ一つ爆破処理した痕跡がクレーター状になっていて、それが一面に無数に広がる黒い点に見える、というわけです。
この画像を見て、曲がりなりにも陸上自衛隊の幹部として教育・訓練を受けた知見と、PKO等の海外勤務で他国軍と起居を共にした経験等からの所見として、2点ほど強く感じました。①この地雷原を処理したウクライナ軍の国土回復への執念、及び②ロシア軍の無責任な地雷敷設への反感、です。
①この地雷原を処理したウクライナ軍の国土回復への執念
ロシアの防御陣地の構成は下の図のようになっています。

(前掲BBC記事の画像に筆者が加工)
「ウクライナの攻勢の攻撃進展が遅い」とよく指摘されています。この遅れの原因は、上の図のようなロシア軍の堅固な防御陣地に対する攻撃が難航しているためです。ロシア軍は防御陣地の陣前に、数百メートルに及ぶ地雷原、対戦車壕、対戦車障害物を多重に構成しており、ウクライナ軍がその対戦車障害帯を破る処理作業をするのを、ロシア軍は防御陣地から狙い撃ちで強靭な防御戦闘を展開しています。特に厄介なのが、正面幅数キロx縦深数百メートルに及ぶ広大な地雷原への対応です。ロシア軍は1平米当たり2~5個とも言われる密度でヤケクソのように不規則に地雷を埋めているため、この地雷原を克服するため、ウクライナ軍は少しでもロシア兵の目が届かなくなる夜間に、歩兵が暗闇の中を地面を這って地雷を捜索しながら前進し、見つけると1個1個、丁寧に爆破処理している、とBBC記事にありました。
(ちなみに、私の6月3日付ブログにロシア軍の防御陣地について、当時の認識で書いていますので、細部はそちらをご確認ください。(2023/06/03付 「ウクライナ攻勢に備えたロシアの周到な防御陣地、恐るべし!」 http://fogofwar.blog.fc2.com/blog-entry-285.html ))
地雷原の処理は、一般先進諸国軍の場合は、戦車に地雷処理用のローラーや処理鋤(潮干狩りの引っ掻き棒の大きい奴)を付けて、押し出していきながら触雷させ爆発させて処理します。しかし、地雷処理をしている戦車をロシア軍に狙い撃ちされて大破して戦車がそこに止まってしまうと、それ自体が攻撃側にとっては大きな障害物になり、負傷した兵士を後送するにも一苦労です。ウクライナ軍は、その処理法として、いろいろ試した揚げ句に前述のような歩兵による人力で地雷捜索・爆破処理をしている模様です。地雷の処理とは、地雷に手榴弾等の爆発物を添い寝させて、その爆発物を電気式の導火線で爆破させ、地雷を誘爆させるやり方と、射撃によって誘爆させるやり方があります。それを兵士が這って行ってやっているのですから、驚きと尊敬の念を禁じ得ません。這って行く兵士の身になっても見てください。そもそも敵陣地前で狙い撃ちされる場所ですよ。どこに地雷があるか分からない草むらに這って行って、捜索用の棒で地面を斜め前を刺しながら捜索するのです。対戦車地雷は一応100kgくらいの荷重がかからないと触雷・爆発しませんが、ロシアのことですから、禁止されている対人用地雷も混用しているでしょう。これまで何名の歩兵が狙い撃ちや地雷触雷で死傷したことでしょうか。その倒れた兵士を引きずって後方に下げて救護処置をしながら、次なる歩兵が撃たれた兵士を乗り越えて更に地雷の処理を続行しているわけです。こんな危険が待っている草むらへ這って行くのですから、ウクライナ兵士達は見上げたド根性です。この努力の積み重ねで、冒頭の画像のようにあそこまで処理したのですから、全く脱帽です。
これは、我が国土、自分の家族の住む町や村の土地の回復のためだから、かくも危険な作業を丁寧にやっているのでしょうね。同じような作業を訓練で実施したことがあり、PKO等の現場で本物の地雷原で現地住民が触雷して足を飛ばされたりしたのを見ましたから、この地雷処理作業して自分の部隊の攻撃の礎にしているウクライナ兵士の心情は痛いほど身に沁みます。全く、見上げたものです。
②ロシア軍の無責任な地雷敷設への反感
もう一つの所見として、ロシア軍の地雷原敷設に対して、そのあまりの無責任ぶりに強い反感を抱きました。
世界の軍隊の常識として、地雷を敷設する際には、後にその地雷の位置を確認でき、安全に処理できるように、しっかり測量し地雷の位置一つ一つを図上にプロットする記録を残します。日本の自衛隊のように我が国土で戦う前提の軍隊は勿論のこと、米軍のように外地で戦う外征軍であれ、キチンとした軍隊はそうするのが暗黙の紳士協定です。地雷は表面上はどこに埋めたか分からないように敷設するため、戦後の国土の再生、地域住民の安全確保のため、地雷を敷設した軍隊が責任を持って地雷の敷設位置について申し送ることになっています。戦後、その土地が自国の領土になれば敷設した軍隊が自ら地雷を処理しますし、敵国が敷設した地雷であっても、敷設した敵国軍から地雷の位置をプロットした測量データをもらって国軍が地雷を処理します。もし、地雷を敷設した土地が停戦協定にて紛争国間の緩衝地帯とされたら、その地雷原はそのまま残されることになるでしょう。まぁ、今はまだ戦闘の最中ですから、敵に地雷の位置を教えるわけがありませんが、ロシア軍は伝統的に地雷の記録データをとらない模様です。
その観点で言うと、ロシアの地雷の敷設の仕方は一級国の軍が敷設した地雷とは思えないほど雑然とし、地雷密度が濃かったり薄かったり、およそ無手勝流であり、地雷敷設が計画に基づき測量データに記録しているものとは思えません。恐らく、手あたり次第に適当に急場しのぎで埋設したもののようです。要するに無責任な地雷の敷設をし、埋めっぱなし。後でフォローするつもりなんか初めからなし。ロシアは(当時はソ連)、古くはベトナム戦争時の北ベトナムへの地雷敷設の教育訓練にて、後で処理が極めて難しい汚い地雷の敷設の仕方を編み出し、北ベトナム軍に伝授しています。対戦車地雷と対人地雷の混用に、更に汚い工夫を加えて、ワナ線等を用いたり、地図や無線器材など、思わず敵兵が持ち上げてしまう物をトリガーとして誘爆させるものなど、ありとあらゆる汚い手を使う地雷原の構成の仕方を北ベトナムは発展させました。それがベトナム戦争で米軍を泥沼に引きずり込みました。アフガニスタンへの軍事介入時でも同様でしたが、やがてアフガニスタン側がロシア(当時のソ連)に対して反抗し、紛争となり、アフガニスタンから最終的に手を引きますが、紛争間に敷設した地雷はやりっ放しで、前述のような責任を持った対応はしませんでした。全く同様なことが近年介入したシリアなどでも起きています。要するに、ロシアには地雷敷設に当たっての、主権国家として本来果たすべき責任に一切関知しない、自分の土地ではないので極めて無責任な「やりっぱなし」の状態です。
であるがゆえに、ウクライナ軍は地雷処理に苦労しているわけです。
陸上自衛隊の地雷原爆破装置という手が使えれば
ウクライナ軍が歩兵に夜間に地面を這わせて実施している地雷の捜索・処理を、敵の目の前であっても線的に地雷を爆破処理できる装備が自衛隊にあります。これなんか実際の戦場で非常に有効に使えると思うんですけどね。攻撃兵器ではないし殺傷兵器ではないの規則に抵触しなのではないかと思いますが、どうなんでしょう。今、ウクライナ軍が喉から手が出るほど欲しい装備だと思うんですけどね。
陸自の地雷原爆破装置は、欧米の地雷処理と一線を画す方式です。地上発射のロケットに数百メートルもの長いロープがついていて、ロケットの弾道の方向にロープが引っ張られ、ロケットが地面に落ちる寸前に、ビヨヨーンと蛇行しているロープを発射機に括り付けたゴムが引っ張ると、蛇行していたロープがロケットの弾道方向にまっすぐに引っ張られて緊張します。このまま一直線にロープが地面に落ちます。この落ちた瞬間にロープは「爆索(ばくさく)」と言って、ロープ自体が爆破薬になっていてこのロープごと爆発します。このロープの爆破でロープの左右数十センチの幅でもし地雷があったなら、一緒に誘爆します。よって、数十センチの幅の数百メートルに及ぶ一直線の道ができるわけです。70式地雷原爆破装置という歩兵が手搬送できる軽易なものから、92式地雷原処理車という装甲車タイプのものもあり、前者は人員用の数十センチ幅の道ができ、後者はさらに強力なロケットで爆策に加えて26個の爆薬が数珠つなぎでついていて、この爆薬の爆発に伴って戦車が通れる幅の道が一挙にできます。
こういう日本の装備がウクライナの戦場で貢献できるといいのですが、今のところ供与していません。攻撃装備に位置付けられているんでしょうか?こういうところは日本の防衛行政は固いんですよね。
頑張れウクライナ!
ウクライナの国土回復への執念を見させてもらった!
攻勢作戦の進展を心より祈る!
(了)


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