見えてきたイスラエル・ガザ紛争: イスラエルのガザ侵攻 対 親ハマス武装勢力の外郭攻撃とロシアの影
見えてきたイスラエル・ガザ紛争
毎日のニュースで見られるのはイスラエル軍の一方的なガザ侵攻です。
他方、イスラエル・ガザ紛争の真の構図は鳥瞰してみないと全体像が分からず、今後の展望を見失います。すなわち、この紛争の展望を見極めるには、ガザ地区で起きているイスラエル軍の一方的なガザ地区への攻撃の苛烈さや被害を受けるガザ市民という映像のみにとらわれることなく、イスラエル北部国境地域、パレスチナ(ヨルダン川)西岸地区、及びイスラエル周辺国における駐留米軍基地等へのハマスや親ハマス武装勢力の攻撃も同時並行的に視野に入れる必要があります。
下のポンチ絵をご覧ください。米国の研究機関「戦争研究所(ISW)」の2023年11月2日付ISW記事「Iran Update」を参照に、同記事に掲載された状況図に加筆しました。上は全般状況、下がガザ地区の状況です。


イスラエルのガザ侵攻 対 親ハマス武装勢力の外郭攻撃とロシアの影
イスラエルは、最大の懸案「人質問題」に留意しながらも「ハマス憎し、この際、根絶すべし」というガザ地区での掃討作戦を展開、その一方でイスラエル国内へのガザ地区からのロケット攻撃への対応や、レバノン・シリアとの北部国境におけるレバノンの武装勢力ヒズボラの越境攻撃への対応、マイナーながらイエメンの武装勢力フーシ派のイスラエル南部へのドローン攻撃への対応、更にパレスチナ西岸地区内の親ハマス武装勢力によるイスラエル警備隊への攻撃などへの対応、などを同時並行的に両にらみで対応している、というのが全体像です。これに加え、イスラエルが直接の攻撃目標ではないものの、イラク・シリアに展開している駐留米軍基地への親ハマス武装勢力による攻撃が続いており、米軍は警戒レベルを上げています。これらの全体像で注意すべき点は、「イスラエル対ハマスの構図、これにハマスに同情した親ハマス武装勢力があちこちで反イスラエル闘争をしている」という単純な話ではなく、「イスラエルに敵対しているのは実はイランに支援された反イスラエル有志連合軍であり、その背後にロシアがいる」という構図なのです。これがイスラエル・ガザ紛争の本質部分です。
なぜロシアが背後にいるのか?
それはロシアがウクライナ侵攻がうまく行かず、米国はじめ西側諸国がこぞってウクライナ支援を継続しているので、苦境からなかなか抜けられない泥沼状態であるからです。この苦境から抜け出すため、ウクライナ正面とは全く違うディメンジョンの「イスラエルのパレスチナ問題」という禁断のパンドラの箱を、イランと共謀してレバノンのヒズボラやガザのハマスを煽って開けさせたのです。イスラエルのパレスチナ問題は、非常に解決困難な問題で、イスラエルもパレスチナも(特にガザのハマス)相互に絶対に相手に対して妥協しない問題で、なおかつ、この件に関して米国は不可避的にイスラエルの盟友としてイスラエルをかばうのです。この構図は、なんぼ最近は対イスラエル国交が雪解けしてきた中東のアラブ諸国でさえ、国家指導者はともかく、国民レベルで絶対に同じアラブとしての親パレスチナ感情を刺激します。これはアラブ諸国のみならず、イスラエルのガザ侵攻の悲惨な映像がテレビでニュースで流され、「強者イスラエルの弱者ガザ地区のパレスチナ市民に対する一方的かつ苛烈な攻撃」という絵柄を見せられた国際社会として/国際的な世論として、猛反対の渦を作りつつあります。ですから、ロシア・イランのパンドラの箱作戦は、国際世論的に大成功なわけです。これまで、ウクライナ侵攻が国際的な指弾の焦点でしたから、対ロシア反感が席巻していた国際世論を一挙に巻き返して対イスラエル反感にできたわけですし、イスラエルを全力で支えようとする米国バイデン政権に対して効果テキメンの大打撃を与えています。時、あたかも大統領選挙イヤーを迎えようとしています。米大統領選挙戦では、バイデン大統領のイスラエル支援とウクライナ支援の継続という、バイデン大統領にとって非常に部の悪いアジェンダで論戦を強いられ、対イスラエル支援や対ウクライナ支援は、必ずや大打撃を受けることになるでしょう。
展望
11月3日に米国のブリンケン国務長官がイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、「一時停戦」を要請し断られた旨のニュースが流れました。これは約束動作ですね。米国バイデン政権としてはそりゃ一応ダメ元及び外交ポーズとしてそう要請しますよ。結果はムリ筋。そのポーズの裏で、ブリンケン国務長官は「支援するけど、ガザの掃討作戦は長引かすなよ!住民混在で無理な攻撃して大きな住民被害を出すんじゃないぞ!やるならやるで、早く片を付けろ!住民被害は最小限にしろ!」と注文をつけたはずです。そして、そのムリな注文をネタニヤフに約束させる代わりに、イスラエルに対して有力な支援ネタを提供するとともに、中東に展開している米軍の対イラン、対親ハマス武装勢力の抑え込みのための表の作戦、裏の作戦を展開するでしょう。アメリカ人が好きそうな展望としては、「クリスマスまでに解決、やれやれひと段落就いたね、と家族と共にゆっくりクリスマス休暇を楽しむ」という意味で、12月中旬までの掃討戦終了をネタニヤフに約束させたのではないか、と推察します。
まぁ、事実上難しいでしょうね。ハマスは粘るし、ヒズボラや他の親ハマス武装勢力、イラン革命防衛隊は余計な頑張りをするでしょうから、長期戦に持ち込まれる可能性は十分あります。さりとて、ハマス・親ハマス側に勝利の絵姿はないんですよ。イスラエルは、自国の存立がかかっているので総力戦では絶対に負けない。その粘りはハマスや親ハマスの比ではありません。経済的にも比較にならないほどの資金力差があります。イスラエルはガザを占領した気は全くありません。ただ、イスラエルを攻撃する者を根絶したいだけです。イスラエルとしては、反イスラエル主義者が隣に住んでいても、そいつが物理的にイスラエルに攻撃してこない限り、隣人との共存は可能なのです。そこが落としどころであって、イスラエルが嫌いでもとりあえず物理的には攻撃しないパレスチナの西岸地区の形であれば、ガザ地区も共存できるんですけどね。今回の掃討作戦でハマスを弱体化し、一定の成果をもって停戦し、じ後新たなPKOを介在させて、国際的な監視下での共存に持っていければいいと思うんですけどね。
私見ながら、やはり守るべき本丸=主作戦正面はウクライナ戦線です。
支作戦正面のイスラエル・ガザ紛争は一定の線で痛み分けさせて早期に解決させましょう。
そして、ウクライナ戦線において、ロシアの戦線巻き返しの企てを潰し、ウクライナの反転攻勢・失地回復を成就させることこそ果たすべき目標です。
頑張れ!ウクライナ!
(了)


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毎日のニュースで見られるのはイスラエル軍の一方的なガザ侵攻です。
他方、イスラエル・ガザ紛争の真の構図は鳥瞰してみないと全体像が分からず、今後の展望を見失います。すなわち、この紛争の展望を見極めるには、ガザ地区で起きているイスラエル軍の一方的なガザ地区への攻撃の苛烈さや被害を受けるガザ市民という映像のみにとらわれることなく、イスラエル北部国境地域、パレスチナ(ヨルダン川)西岸地区、及びイスラエル周辺国における駐留米軍基地等へのハマスや親ハマス武装勢力の攻撃も同時並行的に視野に入れる必要があります。
下のポンチ絵をご覧ください。米国の研究機関「戦争研究所(ISW)」の2023年11月2日付ISW記事「Iran Update」を参照に、同記事に掲載された状況図に加筆しました。上は全般状況、下がガザ地区の状況です。


イスラエルのガザ侵攻 対 親ハマス武装勢力の外郭攻撃とロシアの影
イスラエルは、最大の懸案「人質問題」に留意しながらも「ハマス憎し、この際、根絶すべし」というガザ地区での掃討作戦を展開、その一方でイスラエル国内へのガザ地区からのロケット攻撃への対応や、レバノン・シリアとの北部国境におけるレバノンの武装勢力ヒズボラの越境攻撃への対応、マイナーながらイエメンの武装勢力フーシ派のイスラエル南部へのドローン攻撃への対応、更にパレスチナ西岸地区内の親ハマス武装勢力によるイスラエル警備隊への攻撃などへの対応、などを同時並行的に両にらみで対応している、というのが全体像です。これに加え、イスラエルが直接の攻撃目標ではないものの、イラク・シリアに展開している駐留米軍基地への親ハマス武装勢力による攻撃が続いており、米軍は警戒レベルを上げています。これらの全体像で注意すべき点は、「イスラエル対ハマスの構図、これにハマスに同情した親ハマス武装勢力があちこちで反イスラエル闘争をしている」という単純な話ではなく、「イスラエルに敵対しているのは実はイランに支援された反イスラエル有志連合軍であり、その背後にロシアがいる」という構図なのです。これがイスラエル・ガザ紛争の本質部分です。
なぜロシアが背後にいるのか?
それはロシアがウクライナ侵攻がうまく行かず、米国はじめ西側諸国がこぞってウクライナ支援を継続しているので、苦境からなかなか抜けられない泥沼状態であるからです。この苦境から抜け出すため、ウクライナ正面とは全く違うディメンジョンの「イスラエルのパレスチナ問題」という禁断のパンドラの箱を、イランと共謀してレバノンのヒズボラやガザのハマスを煽って開けさせたのです。イスラエルのパレスチナ問題は、非常に解決困難な問題で、イスラエルもパレスチナも(特にガザのハマス)相互に絶対に相手に対して妥協しない問題で、なおかつ、この件に関して米国は不可避的にイスラエルの盟友としてイスラエルをかばうのです。この構図は、なんぼ最近は対イスラエル国交が雪解けしてきた中東のアラブ諸国でさえ、国家指導者はともかく、国民レベルで絶対に同じアラブとしての親パレスチナ感情を刺激します。これはアラブ諸国のみならず、イスラエルのガザ侵攻の悲惨な映像がテレビでニュースで流され、「強者イスラエルの弱者ガザ地区のパレスチナ市民に対する一方的かつ苛烈な攻撃」という絵柄を見せられた国際社会として/国際的な世論として、猛反対の渦を作りつつあります。ですから、ロシア・イランのパンドラの箱作戦は、国際世論的に大成功なわけです。これまで、ウクライナ侵攻が国際的な指弾の焦点でしたから、対ロシア反感が席巻していた国際世論を一挙に巻き返して対イスラエル反感にできたわけですし、イスラエルを全力で支えようとする米国バイデン政権に対して効果テキメンの大打撃を与えています。時、あたかも大統領選挙イヤーを迎えようとしています。米大統領選挙戦では、バイデン大統領のイスラエル支援とウクライナ支援の継続という、バイデン大統領にとって非常に部の悪いアジェンダで論戦を強いられ、対イスラエル支援や対ウクライナ支援は、必ずや大打撃を受けることになるでしょう。
展望
11月3日に米国のブリンケン国務長官がイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、「一時停戦」を要請し断られた旨のニュースが流れました。これは約束動作ですね。米国バイデン政権としてはそりゃ一応ダメ元及び外交ポーズとしてそう要請しますよ。結果はムリ筋。そのポーズの裏で、ブリンケン国務長官は「支援するけど、ガザの掃討作戦は長引かすなよ!住民混在で無理な攻撃して大きな住民被害を出すんじゃないぞ!やるならやるで、早く片を付けろ!住民被害は最小限にしろ!」と注文をつけたはずです。そして、そのムリな注文をネタニヤフに約束させる代わりに、イスラエルに対して有力な支援ネタを提供するとともに、中東に展開している米軍の対イラン、対親ハマス武装勢力の抑え込みのための表の作戦、裏の作戦を展開するでしょう。アメリカ人が好きそうな展望としては、「クリスマスまでに解決、やれやれひと段落就いたね、と家族と共にゆっくりクリスマス休暇を楽しむ」という意味で、12月中旬までの掃討戦終了をネタニヤフに約束させたのではないか、と推察します。
まぁ、事実上難しいでしょうね。ハマスは粘るし、ヒズボラや他の親ハマス武装勢力、イラン革命防衛隊は余計な頑張りをするでしょうから、長期戦に持ち込まれる可能性は十分あります。さりとて、ハマス・親ハマス側に勝利の絵姿はないんですよ。イスラエルは、自国の存立がかかっているので総力戦では絶対に負けない。その粘りはハマスや親ハマスの比ではありません。経済的にも比較にならないほどの資金力差があります。イスラエルはガザを占領した気は全くありません。ただ、イスラエルを攻撃する者を根絶したいだけです。イスラエルとしては、反イスラエル主義者が隣に住んでいても、そいつが物理的にイスラエルに攻撃してこない限り、隣人との共存は可能なのです。そこが落としどころであって、イスラエルが嫌いでもとりあえず物理的には攻撃しないパレスチナの西岸地区の形であれば、ガザ地区も共存できるんですけどね。今回の掃討作戦でハマスを弱体化し、一定の成果をもって停戦し、じ後新たなPKOを介在させて、国際的な監視下での共存に持っていければいいと思うんですけどね。
私見ながら、やはり守るべき本丸=主作戦正面はウクライナ戦線です。
支作戦正面のイスラエル・ガザ紛争は一定の線で痛み分けさせて早期に解決させましょう。
そして、ウクライナ戦線において、ロシアの戦線巻き返しの企てを潰し、ウクライナの反転攻勢・失地回復を成就させることこそ果たすべき目標です。
頑張れ!ウクライナ!
(了)


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