ガザ紛争: ガザ掃討は第2段階に突入、長期化不可避か
イスラエル軍のシファ病院掃討の混乱と惨状により批判高まる
イスラエル軍は、国際世論の指弾も何のその、アル・シファ病院への掃討作戦を推進。11月16日に掃討・捜索により「発見した」という、MRI棟建屋内のMRI器材の裏に隠していたという銃器や、その他施設内の随所で発見したという銃器、手榴弾、爆発物やPCや通信機材などをはじめ、「地下トンネル立杭」との説明で地面の穴などをメディアに公開しました。しかし、メディアの反応としては、西側メディアも含めて「ハマスの司令部、重要拠点」と主張していた割には、その証拠がショボ過ぎて、これでは病院を掃討した正当性について説得力がない、という懐疑的なものでした。
その証拠のショボさも手伝って、国際世論としてはイスラエルに対する批判が高まっています。一部のイスラエル支持者を除き、西側諸国を含む世界各地で反イスラエル・親パレスチナの潮流になってきました。(2023年11月16日付日本経済新聞記事「ガザ衝突、世界でデモ拡大 パレスチナ支持8割超」、ほか)
国際世論など意に介さず、イスラエルはガザ掃討作戦を第2段階へ
下の図は、米国の戦争研究所(ISW)の2023年11月16日付「Iran Update, November 16, 2023」を参照し、同記事に掲載された状況図に筆者の私見も含めて加筆・描画しました。上の方がイスラエル周辺を含めた全般状況、下の方がガザ北部における掃討作戦の状況、です。


上図の下の段(ガザ地区の状況)の右側「イスラエル軍の掃討作戦」にもありますように、イスラエルのギャラント国防相は11月16日に「ガザ市西部の占領と掃討を完了し、第2段階を開始する」と発表し、これと軌を一にして、ガザ北部の掃討の住んでいない西側部分、上図の下の段の地図中の赤色「ガザ市街」及び緑色「農耕地区」、に対する掃討を開始した模様です。また、これと同時並行的に、ガザ南部(今回の掃討作戦の南北境界の南側)の一部、ハーン・ユー二ス地区の東側の4つの集落に対してビラを空中から撒き、更に南部へ避難するよう勧告をしています。これは、イスラエル軍の掃討作戦が北部掃討のみならず南部も掃討を開始する予兆です。(参照:前掲ISW記事)
結局のところ、イスラエルのネタニヤフ首相はガザ地区に対する長期にわたる掃討作戦・占領を企図している模様です。これは米国のバイデン大統領から何度も「長期占領はやるなよ」と釘を刺され、「そんな気はない」と答えていたことに対する裏切り行為に当たります。
私見ながら、やり方によって短期間で済ませ、かつガザ地区をイスラエル軍が長期占領しない短期決戦の方策はあったと思っています。北部を短期で掃討し、ハマスを弱体化した上で、アッバース議長率いる現西岸地区のパレスチナ政府に西岸地区とガザ地区をハマス抜きで統治させ、それを米国はじめ西側諸国や穏健派アラブ諸国をうまくかませながら国際的に支援していく、そんな方策だって十分考えられたはずです。しかし、ネタニヤフ首相は、「そんな中途半端な撲滅の仕方ではハマスなどの反イスラエル武装勢力はやがて必ず次なる攻撃をしてくる」との猜疑心のもと、徹底的なハマス等の武装勢力の撲滅を重視したわけです。
イスラエルの、特にネタニヤフのこれまでの政治信条や国民世論からすれば「さもありなん」な話です。イスラエルは、その何世代にもわたる永年の夢で建国した現在のイスラエルというユダヤ国家を守り抜くため、極めて戦闘的な祖国防衛思想を持っていて、何人たりともイスラエルに弓を引いた者は徹底的に撲滅し、弓を引こうとしている者に対しても予防的に奇襲攻撃で撲滅してきました。これはこれまでの現代史の事実です。ミュンヘン五輪でパレスチナゲリラにイスラエル選手団が殺害された事件の後、何十年もかかって犯人を一人一人暗殺した執念深さ、また、2000ヒトケタ年代に起きたイランの極秘核開発の際にはイスラエルによるサイバー攻撃で遠心分離機を暴走させて核開発を壊滅させた予防攻撃、更に、サダムフセイン時代のイラクや父アサド大統領時代のシリアでもイスラエルは核開発施設に対して爆撃機による外科手術的空爆(surgical airstrike)を数回やっています。そこには、じ後の正当性の説明も何もなく、黙して語らず、弓引く者に対して淡々と闇に葬る、それがイスラエルなのです。一人一人のユダヤ人はそんなに攻撃的な奴じゃなくていい奴が多いのですが、こと国防・安全保障・テロに対しては人格が激変して超タカ派になる、そんな国なのです。ですから、今回のハマスの10月7日の突然のイスラエル襲撃及び人質拉致に関して、これを首謀したハマスや武装組織の戦闘員を一人残らず撲殺するでしょう。今、その長い過程の途上なのでしょう。
展望: 南部まで掃討作戦延伸、紛争・占領の長期化か
ですから、今後イスラエルはガザ地区南部に対する掃討作戦も開始し、いよいよ避難する場所がなくなってギューギュー詰めになったパレスチナの民間人被害は益々深刻になるでしょう。私見ながら、国際社会はさすがに一定の強制力を発揮して、恐らくは米国がイスラエルを説得し、人道回廊を設定してガザ近傍のイスラエル国内か或いはエジプト国内に難民キャンプを設定してそこに難民を避難させるのではないか、と推察します。しかし、その人道回廊はイスラエルがいろいろ制約を与えるでしょうから時間的・空間的に限定的となり、住民避難は不完全になるでしょう。また、パレスチナ住民の方も、この流れに乗らず住居に残留するでしょう。結局、住民混在下での市街地掃討戦となり、北部で見てきた形と同様、まだ住民がいる市街地にボコボコ空爆が為され、戦車が蹂躙、兵士が虱潰しに市街を一掃します。これまた、これまで以上の住民への死傷者は増大するでしょう。そして、ガザ全土を掃討し、捜索が完了するまで、相当の長期に渡りイスラエル軍はガザを占領し続けるでしょう。国際非難は高まるばかりでしょうが、イスラエルは一顧だにせす、そんな展望が考えられます。
考察: 米国の強いリーダーシップに期待するしかないか
こうなると、この流れでは米国現政権のバイデン大統領の選挙戦は危ういですね。必ずしもバイデン大統領の責任ではないのですが、情勢がうまく行かない以上、現政権が批判の対象になります。これに乗じるトランプの高笑いが聞こえてくるようです。
そうなると、「風が吹くと、桶屋が儲かる」という例え話のようですが、私見ながら懸念するのはウクライナ情勢。米国はじめ西側諸国のウクライナ支援は滞りがちになることを強く懸念します。そうなるとロシアのウクライナ侵攻はロシアが勢いを巻き返していくでしょう。
よく、「試合に勝って勝負に負ける」といいます。まさにその状況ですね。今のイスラエルはガザ侵攻において軍事的に完全にハマス等武装勢力を圧倒していますが、鳥瞰すると、国際情勢の中では西側全体が不利な方向に向かいそうです。
…そうしてはならない。
この流れを是正することができるのは、事実上、米国大統領の指導力に期待するしかありませんね。バイデン大統領にそれができるのか?といわれそうですが、地位・役割として、悲しいかな、彼しかいません。他の誰にもイスラエルのネタニヤフの首に鈴をつけることはできないのです。願わくばバイデンがネタニヤフの襟首をつかんで腹を割って話して説得し、トサカが熱くなっているネタニヤフを冷静にさせ、長い目で見たパレスチナ政策を国際的に推し進める方向に持っていってもらわないといけません。勿論、これまでもそうであったように、パレスチナ問題はそう簡単に解決するものではありません。しかし、そんなことは分かっているが、現在のイスラエルのガザ掃討でも解決はしませんよ。怨嗟が残るだけです。ハマスが消えても、。パレスチナ人は皆、頭にきていますから、また次の「ネオ・ハマス」勢力が出てきますよ。だったら、国際的な支援の下でパレスチナ国家再建を目指した方が、まだ夢がある。少なくとも、今の方向性に何の夢もありませんよ。

記者に詰め寄られるバイデン大統領(画像:2023年11月18日付BBC記事「Biden facing growing internal dissent over Israel's Gaza campaign」より)
バイデン、お前がリーダーシップを発揮しなくてどうする!
(了)


にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
イスラエル軍は、国際世論の指弾も何のその、アル・シファ病院への掃討作戦を推進。11月16日に掃討・捜索により「発見した」という、MRI棟建屋内のMRI器材の裏に隠していたという銃器や、その他施設内の随所で発見したという銃器、手榴弾、爆発物やPCや通信機材などをはじめ、「地下トンネル立杭」との説明で地面の穴などをメディアに公開しました。しかし、メディアの反応としては、西側メディアも含めて「ハマスの司令部、重要拠点」と主張していた割には、その証拠がショボ過ぎて、これでは病院を掃討した正当性について説得力がない、という懐疑的なものでした。
その証拠のショボさも手伝って、国際世論としてはイスラエルに対する批判が高まっています。一部のイスラエル支持者を除き、西側諸国を含む世界各地で反イスラエル・親パレスチナの潮流になってきました。(2023年11月16日付日本経済新聞記事「ガザ衝突、世界でデモ拡大 パレスチナ支持8割超」、ほか)
国際世論など意に介さず、イスラエルはガザ掃討作戦を第2段階へ
下の図は、米国の戦争研究所(ISW)の2023年11月16日付「Iran Update, November 16, 2023」を参照し、同記事に掲載された状況図に筆者の私見も含めて加筆・描画しました。上の方がイスラエル周辺を含めた全般状況、下の方がガザ北部における掃討作戦の状況、です。


上図の下の段(ガザ地区の状況)の右側「イスラエル軍の掃討作戦」にもありますように、イスラエルのギャラント国防相は11月16日に「ガザ市西部の占領と掃討を完了し、第2段階を開始する」と発表し、これと軌を一にして、ガザ北部の掃討の住んでいない西側部分、上図の下の段の地図中の赤色「ガザ市街」及び緑色「農耕地区」、に対する掃討を開始した模様です。また、これと同時並行的に、ガザ南部(今回の掃討作戦の南北境界の南側)の一部、ハーン・ユー二ス地区の東側の4つの集落に対してビラを空中から撒き、更に南部へ避難するよう勧告をしています。これは、イスラエル軍の掃討作戦が北部掃討のみならず南部も掃討を開始する予兆です。(参照:前掲ISW記事)
結局のところ、イスラエルのネタニヤフ首相はガザ地区に対する長期にわたる掃討作戦・占領を企図している模様です。これは米国のバイデン大統領から何度も「長期占領はやるなよ」と釘を刺され、「そんな気はない」と答えていたことに対する裏切り行為に当たります。
私見ながら、やり方によって短期間で済ませ、かつガザ地区をイスラエル軍が長期占領しない短期決戦の方策はあったと思っています。北部を短期で掃討し、ハマスを弱体化した上で、アッバース議長率いる現西岸地区のパレスチナ政府に西岸地区とガザ地区をハマス抜きで統治させ、それを米国はじめ西側諸国や穏健派アラブ諸国をうまくかませながら国際的に支援していく、そんな方策だって十分考えられたはずです。しかし、ネタニヤフ首相は、「そんな中途半端な撲滅の仕方ではハマスなどの反イスラエル武装勢力はやがて必ず次なる攻撃をしてくる」との猜疑心のもと、徹底的なハマス等の武装勢力の撲滅を重視したわけです。
イスラエルの、特にネタニヤフのこれまでの政治信条や国民世論からすれば「さもありなん」な話です。イスラエルは、その何世代にもわたる永年の夢で建国した現在のイスラエルというユダヤ国家を守り抜くため、極めて戦闘的な祖国防衛思想を持っていて、何人たりともイスラエルに弓を引いた者は徹底的に撲滅し、弓を引こうとしている者に対しても予防的に奇襲攻撃で撲滅してきました。これはこれまでの現代史の事実です。ミュンヘン五輪でパレスチナゲリラにイスラエル選手団が殺害された事件の後、何十年もかかって犯人を一人一人暗殺した執念深さ、また、2000ヒトケタ年代に起きたイランの極秘核開発の際にはイスラエルによるサイバー攻撃で遠心分離機を暴走させて核開発を壊滅させた予防攻撃、更に、サダムフセイン時代のイラクや父アサド大統領時代のシリアでもイスラエルは核開発施設に対して爆撃機による外科手術的空爆(surgical airstrike)を数回やっています。そこには、じ後の正当性の説明も何もなく、黙して語らず、弓引く者に対して淡々と闇に葬る、それがイスラエルなのです。一人一人のユダヤ人はそんなに攻撃的な奴じゃなくていい奴が多いのですが、こと国防・安全保障・テロに対しては人格が激変して超タカ派になる、そんな国なのです。ですから、今回のハマスの10月7日の突然のイスラエル襲撃及び人質拉致に関して、これを首謀したハマスや武装組織の戦闘員を一人残らず撲殺するでしょう。今、その長い過程の途上なのでしょう。
展望: 南部まで掃討作戦延伸、紛争・占領の長期化か
ですから、今後イスラエルはガザ地区南部に対する掃討作戦も開始し、いよいよ避難する場所がなくなってギューギュー詰めになったパレスチナの民間人被害は益々深刻になるでしょう。私見ながら、国際社会はさすがに一定の強制力を発揮して、恐らくは米国がイスラエルを説得し、人道回廊を設定してガザ近傍のイスラエル国内か或いはエジプト国内に難民キャンプを設定してそこに難民を避難させるのではないか、と推察します。しかし、その人道回廊はイスラエルがいろいろ制約を与えるでしょうから時間的・空間的に限定的となり、住民避難は不完全になるでしょう。また、パレスチナ住民の方も、この流れに乗らず住居に残留するでしょう。結局、住民混在下での市街地掃討戦となり、北部で見てきた形と同様、まだ住民がいる市街地にボコボコ空爆が為され、戦車が蹂躙、兵士が虱潰しに市街を一掃します。これまた、これまで以上の住民への死傷者は増大するでしょう。そして、ガザ全土を掃討し、捜索が完了するまで、相当の長期に渡りイスラエル軍はガザを占領し続けるでしょう。国際非難は高まるばかりでしょうが、イスラエルは一顧だにせす、そんな展望が考えられます。
考察: 米国の強いリーダーシップに期待するしかないか
こうなると、この流れでは米国現政権のバイデン大統領の選挙戦は危ういですね。必ずしもバイデン大統領の責任ではないのですが、情勢がうまく行かない以上、現政権が批判の対象になります。これに乗じるトランプの高笑いが聞こえてくるようです。
そうなると、「風が吹くと、桶屋が儲かる」という例え話のようですが、私見ながら懸念するのはウクライナ情勢。米国はじめ西側諸国のウクライナ支援は滞りがちになることを強く懸念します。そうなるとロシアのウクライナ侵攻はロシアが勢いを巻き返していくでしょう。
よく、「試合に勝って勝負に負ける」といいます。まさにその状況ですね。今のイスラエルはガザ侵攻において軍事的に完全にハマス等武装勢力を圧倒していますが、鳥瞰すると、国際情勢の中では西側全体が不利な方向に向かいそうです。
…そうしてはならない。
この流れを是正することができるのは、事実上、米国大統領の指導力に期待するしかありませんね。バイデン大統領にそれができるのか?といわれそうですが、地位・役割として、悲しいかな、彼しかいません。他の誰にもイスラエルのネタニヤフの首に鈴をつけることはできないのです。願わくばバイデンがネタニヤフの襟首をつかんで腹を割って話して説得し、トサカが熱くなっているネタニヤフを冷静にさせ、長い目で見たパレスチナ政策を国際的に推し進める方向に持っていってもらわないといけません。勿論、これまでもそうであったように、パレスチナ問題はそう簡単に解決するものではありません。しかし、そんなことは分かっているが、現在のイスラエルのガザ掃討でも解決はしませんよ。怨嗟が残るだけです。ハマスが消えても、。パレスチナ人は皆、頭にきていますから、また次の「ネオ・ハマス」勢力が出てきますよ。だったら、国際的な支援の下でパレスチナ国家再建を目指した方が、まだ夢がある。少なくとも、今の方向性に何の夢もありませんよ。

記者に詰め寄られるバイデン大統領(画像:2023年11月18日付BBC記事「Biden facing growing internal dissent over Israel's Gaza campaign」より)
バイデン、お前がリーダーシップを発揮しなくてどうする!
(了)


にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
スポンサーサイト
コメント