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2024/02/10

ガザ紛争: イスラエルがハマス提案を拒否、ラファ攻撃準備で人道危機高まる中、ネタニヤフの腹は?

ラファの少年
イスラエル軍のガザ侵攻で家を追われラファに避難したパレスチナ住民の少年、後方に避難民たちのテントの群れ(画像: 2024年2月9日付Aljazeera記事「Israel ramps up deadly attacks on Gaza’s Rafah despite US, UN warnings」より)

ネタニヤフは戦闘停止協議でハマス提案を拒否、ラファ攻撃準備で人道危機の可能性大
 そう来るだろうと思ったのですが、全く案の定、イスラエルのネタニヤフ首相は戦闘停止協議に参加するハマスの提案に対して断固拒否を言明し、戦闘停止協議は会議開始前の段階から暗礁に乗り上げた形となっています。また、ネタニヤフ首相は2月7日(水)に何万人もの避難民が流入しているガザ地区最南端のラファ地区に対する攻撃作戦の準備をイスラエル軍に命じたことを認めました。一部では砲爆撃も始まっており、8日及び9日にはラファに数回の空爆と戦車砲撃を開始し、10数名の死傷者が出ています。国連や米国はイスラエルに対し、避難民で溢れるラファへの攻撃は、避難民に壊滅的な結果をもたらし人道的な危機が起こると警告しています。そんな中、イスラエル軍は着々と部隊を集結、作戦準備をさせ、攻撃準備を進めている状況です。

案の定ネタニヤフ首相がハマスの提案を拒否、難航する戦闘停止協議
 2月7日、イスラエルのネタニヤフ首相は、会見にてハマス側からの提案が話にならないもので拒否する旨言明するとともに、「完全かつ最終的な勝利以外に解決策はない」と、改めてガザ侵攻作戦はハマスの殲滅が達成するまで続けることを強調しました。ネタニヤフ首相のこれまでの主義・主張から、この対応は概ね予想はされていました。しかし、自ら米国、カタール、サウジアラビアらと共にハマス側に戦闘停止協議を呼び掛けたわけですから、それに応じたハマスとの協議がこれから始まる冒頭に、この発言はないですよね。戦闘停止協議の交渉の始まる前に、入り口で寝転がって協議を潰しているわけですから。

 では、拒否されたハマスの提案とはどんなものだったのか?
 ハマスは2月6日、戦闘停止協議に当たり以下のような提案をしました。
① フェーズ 1:  45日間の戦闘を停止。この間に、ハマス側はイスラエル人人質の老人、病人、女性、19歳未満の男性を、イスラエル側は収監しているパレスチナ人女性と子供を、双方が交換解放する。イスラエル軍はガザの人口密集地から撤退する。ガザ地区では、病院や難民キャンプの再建が始まる。
② フェーズ 2: 更に戦闘停止を延長。 ハマス側は残る人質のイスラエル人男性を、イスラエル側は収監しているパレスチナ人捕虜を、双方が交換・解放する。イスラエル軍はガザ地区から完全撤退する。
③ フェーズ 3: 計135日間の戦闘停止の終了までの間で、 双方は遺体を交換する。
 ハマスは、上記の3つのフェーズの間でガザ地区の水・食料・医療その他の援助は供給され、「戦闘停止」ではなく紛争そのものの終結の交渉も終われるであろう、との希望的観測を表明しています。私見ながら、ハマスにしては上出来な、珍しく抑制の効いた穏当な提案だと思います。入れていそうで入れかった条件に、パレスチナ国家の承認とか、西岸地区へのイスラエル人入植者の撤退、とか、エルサレムの半分の領有、とか、イスラエルが絶対にそれを入れたら交渉のテーブルを蹴って立ち去るような条件は入れていません。「これだけは譲れない」と入れた条件が「ガザからのイスラエル軍の完全撤退」でしょうね。まぁ、ネタニヤフはここも逆鱗に触れるポイントでしょうが。

 ネタニヤフが固く拒否したポイントは、やはり、上記の内の「イスラエル軍のガザ地区からの完全撤退」だと推察します。これの意味するところは、イガザ地区はスラエルのコントロールの手を離れて、パレスチナ人の手に再び自治が委ねられる、ということです。そんなことはさせねぇぞ、と反発したのでしょう。ネタニヤフにとっての戦闘停止は、ただただイスラエル人人質の全員解放のため、であって、紛争の終結やガザ自治の再開、いわんやパレスチナ国家の承認なんて「アウトオブ眼中」です。その象徴的存在が、イスラエル軍が引き続き、少なくともハマスを全滅させるまでの当面の間、ガザ地区で掃討作戦を続け、ハマスが全滅したら、慎重に状況を見極めながらの計画的・段階的な撤退となるでしょう。

 ネタニヤフ首相の腹はそういう考えなので、今回の提案なんぞ全く歯牙にもかけない、というところですね。
 極めつけとして、ネタニヤフ首相は会見でこんな言葉を言っています。「ハマスがガザで生き延びられるかどうかは、次の虐殺まで時間の問題だ」と。

 もはや大荒波の中で交渉が始まる戦闘停止協議は、8日木曜くらいからエジプトのカイロでエジプトとカタールが仲介する準備交渉が開始されている模様です。ハマスの高官は、「ネタニヤフ首相の発言は政治的虚勢であり、地域紛争を追求する意向を示している」とコメントし、エジプトの政府関係者は「全ての当事者に対し、合意に達するために必要な冷静で柔軟な姿勢を示すよう求めている」とコメントしています。
(参照: 2024年2月8日付BBC記事「Gaza ceasefire: Israel's PM Benjamin Netanyahu rejects Hamas's proposed terms」、)

ネタニヤフ首相が軍にラファ地区攻撃準備を命じ避難民で溢れるラファ地区に人道危機の懸念高まる
スライド1
ラファ地区の衛星写真、左が2023年10月15日、右が2024年1月14日の状況。右の画像の小さなつぶつぶは避難民のテント (画像: 2024年2月8日付BBC記事「Gaza ceasefire: Israel's PM Benjamin Netanyahu rejects Hamas's proposed terms」より)

 2月7日、ネタニヤフ首相は、イスラエル軍に対しラファ地区での作戦を準備するよう命じました。作戦とは、掃討作戦=攻撃作戦を中心にするものの、人道的観点から国連や米国からラファ攻撃を非難されているので、申し訳のように「避難民対応の活動」という玉虫色の表現でごまかしています。
 
 現在のラファ地区の状況について、ノルウェー難民評議会のエーゲランド代表の言によれば、「ラファは今や世界最大の避難民キャンプとなっており、避難民たちは薄っぺらなビニールシートのテント生活をし、日々。食料配給で隣人と争っており、飲み水もなく、衛生状態は劣悪で伝染病が蔓延している状況だ。ここにイスラエル軍が掃討作戦を仕掛けようとしている。これは人道的な大惨事になるだろう」、とのことです。
 8日、国連のグテーレス事務総長は、ガザ地区のラファ地区への作戦準備をしているイスラエルについて、「我々は、ハマスの恐ろしい行為をはっきりと非難した。それと同様に、イスラエル軍によるガザ地区における国際人道法違反を断固として非難する。紛争がラファにまで拡大すれば、同市ですでに人道的な悪夢となっている事態がさらに悪化する。」、と厳しく非難しました。

 米国政府もイスラエルに対し、ラファへの掃討作戦を適切な計画もなしに行うことは「大惨事」になると警告しています。8日のイスラエル軍のラファへの砲爆撃について、バイデン米大統領は「行き過ぎだ」とコメントしています。米国がラファを懸念している理由の一つには、ラファはガザ地区最南端でエジプトとの国境地帯という点もあります。ここに約150万人ものパレスチナ人がおり、人道的危機の状況の中で生きています。同じアラブの兄弟として、エジプトも事態を憂慮しつつ、その難民がエジプトに流入するのも安全保障上イスラエルとの衝突も懸念され、非常に厄介な問題となっており、米国はそのエジプトへの配慮もあって、イスラエルに自制を求めているところです。ブリンケン国務長官は、「イスラエルが行う軍事作戦は、何よりもまず民間人を優先する必要がある…ラファの場合は特にそうだ。」とイスラエルのテルアビブでの演説で述べ、米国からイスラエルへの軍事支援を受ける国の資格として、無辜の民間人に被害者が出ないよう周到に危害防止を図らねばならない、と明確な警告をしています。ちなみに、米国はイスラエルに対して年間約38億ドルの軍事支援を実施しており、イスラエルは世界最大の米国からの軍事支援受取国となっています。
(参照: 2024年2月9日付BBC記事「Israel-Gaza war: US says it will not back unplanned Rafah offensive」、同日付Aljazeera記事「Israel ramps up deadly attacks on Gaza’s Rafah despite US, UN warnings」、

ラファの人道的大惨事は避けられないのか?:私見ながら「ネタニヤフはウルトラCを狙っている」と見た
 ここ最近のニュース、記事を漁ってみると、前述のような状況です。
 国連や米国から警告をされても意に介さないイスラエル。本来、イスラエルの首に鈴をつけられるはずの米国でさえ、バイデン米大統領がネタニヤフ首相を諫め自制を促しても、ネタニヤフ首相は従おうとはしません。
 では、イスラエルのラファ攻撃作戦が間もなく行われ、多くの民間人犠牲者が出て、世界的な人道危機状態に陥ることは避けられないのでしょうか?
 
 私見ながら、今回の戦闘停止協議や具体的なラファ攻撃について、米国とイスラエルの間の基本的な捉え方/認識に根本的なミスマッチがある、と推察します。
 今回の10月7日のハマスのイスラエル越境攻撃への報復としてのガザ侵攻を、米国は「パレスチナ問題」と大きく捉えて問題解決を図ろうとしています。これに対してイスラエルは、あくまでハマスのイスラエル越境攻撃への報復及び人質拉致監禁への「全員解放」の追求と局所的に小さく捉えています。
 この捉え方の違いが、戦闘停止協議への姿勢に如実に出ます。米国やカタール、エジプト、他の交渉のテーブルを準備した国々は、今回の紛争の解決のためには元々のパレスチナ問題の解決を図ることが必要であり、それなしには、短期間の戦闘停止だけで終わり、引き続き戦闘が再開し、イスラエルとパレスチナとの衝突は未来永劫にわたって続く、と見ています。これはこれで正しいと捉え方なのですけどね。他方で、イスラエルは、あくまで今回の紛争の「人質解放」のためのステップと見ています。いわんやこれがパレスチナ問題解決の突破口にしようとなんぞ考えもしていません。

 その考えの違いの下、全くの私見ながら、ネタニヤフはウルトラCを狙っていると推察します。
 国際社会の求めに応じて「戦闘停止協議」という外交交渉努力を、「お付き合い」として足並みをそろえていますが、この交渉で解決しようとなんぞ思っておらず、政治・外交的ポーズのみです。ネタニヤフの腹は、あくまでガザ侵攻の総仕上げとして、在ガザのハマス残党の殲滅を果たそうとしています。特に、在ガザのハマス指導者シンワル氏を殺害すること、がその目標達成の中の必成目標だと考えられます。片方の手で外交努力を継続するポーズを見せつつ、他方の手で、というより全力でガザ地区のハマスを殲滅することに最大限の力を費やし、殲滅したらイスラエル国内で高らかに「ガザのハマスとの闘争の完全勝利宣言」をするでしょう。これがネタニヤフの腹です。ここで、ウルトラCと言ったのは、実は在ガザのハマスの一番のボスである指導者シンワル氏は、まだハーン・ユニスの市街地内の地下に潜んでいて、もう少しで居場所が掴めるところまで来ている模様です。世界的に注目を浴びる戦闘停止協議とラファ地区への掃討作戦準備ですが、国際的な目をそっちに注目させといて、ハマスさえ油断させて、この間にハーンユニスの掃討作戦を徹底してシンワル氏をはじめハマス残党の首を取り、高らかに「勝利宣言」をして、ガザ作戦を撤収フェイズに移行させて、世界を煙に巻くつもりなんだろうと推察します。戦闘停止協議もラファ掃討作戦も中途で放棄するでしょう。初めから本気で交渉するつもりも、ラファにハマスの小物が逃げ込んでいたとしても、それはれとして、勝利宣言して撤収ファイズに入れば、世界の注目はフェイドアウトしていきます。世界のメディアの関心も日々に疎し、TVのニュース映像も逐次に他に関心事に移っていくものです。他方で、イスラエル国内では、危機管理をうまく果たした英雄ですよ。憎きハマスを殲滅した、ガザを大人しくさせた、ガザ地区や西岸地区への完全コントロール下での限定的自治は、他国から責められても全く意に介さず、あくまでイスラエルがグリップを握り続ける形で維持した、.......そんなネタニヤフ首相は、イスラエル国民から見れば近代稀に見る「英雄」ですよ。ネタニヤフはこの後イスラエルの総選挙で続投は難しいかもしれないですが、イスラエルの歴史に残る危機管理を果たした首相として、イスラエルの歴史に残る成果を上げられるわけです。これがネタニヤフの起死回生の「ウルトラC」。

 ………というのが、私の読みです。戦闘停止協議もラファ攻撃も、イスラエルにとって良い成果は絶対に得られません。他方で、シンワルは元々根拠地のあったハーンユニスから脱出できていないらしい。当然、ラファ攻撃をブラフで使って、世界の関心を集中させ、実際には全力でハーンユニス掃討を急ぐものと思われます。

 さぁ、どうなるでしょうか。

(了)

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