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2019/01/26

米陸軍がトランプに警鐘鳴らす?!

米陸軍がトランプに警鐘鳴らす?!

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 戦友の死を悼む米軍兵士

1 序言
  1月18日付の米軍ご用達紙スターズ&ストライプス(※)は、米陸軍戦争大学によって発表された「イラク戦争における米軍」という研究について非常に示唆に富むコメンタリーを出しています。私が着目したのは、イラク戦争の教訓の分析ながら、現在のトランプ大統領のシリアからの米軍の撤退の方針発表に警鐘を鳴らしていることです。
  この研究では、イラク戦争を経験した米軍人達が反省教訓事項をまとめたものですが、目を引くのは次の内容です。イラク戦争当時、大統領選挙の頃からオバマ大統領が提唱していたイラクからの早期撤収について、少し治安状況に改善が見られた時点でろくに現地の状況も掌握せずに過早に撤退方針の発表をしたことで、じ後にISISの台頭・影響力拡大という大きな混乱の禍根を残しました。研究では、単にその件を指摘しているだけであって、現トランプ大統領のシリアからの撤収方針の発表について全く言及していません。しかし、発表のタイミングから言っても、これはまさに戦場の現実を知る軍人たちのささやかな警鐘ではないか、と思うのです。軍人ですから現行政府の方針に基本的には柔順に従うのみですが、それでも現大統領の決定について控えめながらも「それではイラク戦争の時のオバマ大統領と誤判断と同じ轍を踏襲するのではありませんか?」と指摘しているのではないかと思います。
(※ ”Army Releases Long-Awaited History of War in Iraq” : https://www.military.com/daily-news/2019/01/18/army-releases-long-awaited-history-war-iraq.html )

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  では肝心の研究の内容について概略まとめます。
2 研究が示すイラク戦争における米軍の反省教訓事項
   この研究は、2013年に当時陸軍戦略大学校長であったレイモンド・オディエルノ将軍がこの研究開始を命じ、自身も数回のイラク派遣を経ていたが、同様にイラク戦争を経験した将校たちによって編集され、1000ページにも及ぶ大作となったようです。10年を越えるイラク戦争で、米陸軍は4,000人以上の将兵の命を失いました。失敗と試行錯誤を繰り返しながら、ようやく治安の安定をみていますが、イラクには現在も引き続き基幹要員(2018年8月の段階で5200名)が駐留しています。その反省教訓事項の集大成がこの研究です。
  ポイントは以下の通りです。
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 ① イラク国内のイスラム教宗派間対立、社会的及び政治的な対立軸について、軍指導部がその重要性を十分認識していなかったこと
 ② 政策の範囲での任務遂行に固執するあまり、現地駐留米軍の中に既成概念に捕われない卓越した革新的指導者達が存在していたが、彼らを「処罰」をもって排してしまったこと、(2005~2006年頃の反乱防止作戦(COIN: Counter Insergency Operations)に従事していた旅団レベル・大隊レベルの将校達の中に、将兵達が命を張って作戦を遂行する現場の必要性から、柔軟で革新的に作戦を指導して成果を上げた卓越したリーダーがいた。しかし、軍指導部はこれを「逸脱」と見なし淘汰した。本質的な問題や解決すべき課題に蓋をして、あくまで「政策」の範囲内で淡々と遂行することを是とした。)
 ③ イラクの治安機関や軍隊を再建するための教育訓練支援を実施したが、結果的に機能不十分であり、米軍への依存体質を助長してしまい、この勢力が米国に依存することこそあれ、自国の治安を守る信頼できるに足る存在に育たなかったこと
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 ④ 軍指導部の状況判断は、その当時は合意に基づく合理的判断に思えても、結果的には判断を誤ることが多かったこと、(誤判断に至ったプロセスや背景、組織的・体系的な問題があったのかについて明らかにすることが今後の課題)
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 ⑤ 2007年頃から米軍を増派し、反乱防止に徹底して取り組んだことが逐次に成果を上げ治安が改善しつつあったが、オバマ大統領が突如2011年秋に米軍を撤退する発表をしたことで、結果的に反政府グループ・イスラム過激派を喜ばせ、これまで米軍と連携協調してきた現地の友人たちを見捨て/裏切ることになり、これがISISの勢力拡大を招いたこと、(当時のイラク政府の首班であったマリキ首相の政策が、徒にスンニ派とシーア派の宗派間対立を助長したことも一因となり、イラクは内戦状態に陥り、2014年頃にはISISが主要な勢力にのし上がり、モスルを含む相当規模の支配地域を掌握することを許した。)

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3 オバマ大統領とトランプ大統領の「撤退」発表のアナロジー
  上記の⑤について、私見を少々。
  2011年のオバマ大統領の判断と2018年末のトランプ大統領の判断は、その状況判断に至る背景や理念、及びこれに対する現地の状況がよく似ています。
  まず両大統領とも、本人の元々の理念として、そもそも米国が海外で世界の警察官的な役割を果たすことに対して反対派。この米軍派遣を間違った政策であると信じ、早期の撤退が当然であると確信しています。そして、現地の状況は彼らが知る限り、表面上はかなり治安が回復してきており、当面の敵であった勢力はかなり弱体化している、と認識。国防長官や軍首脳、国務長官や大統領補佐官らと十分な相談はしていないが、彼らに打診したら反対され説得にかかってくることを慮り、敢えてサプライズで自分の考え=早期撤退の方向性を発表してしまう。あたかも勝利宣言。マスコミや世論へのアピール度は高い。一言で言えば「パフォーマンス」。サプライズで大胆なことを発表することの、世間へのインパクトの魅力に取り付かれたのでしょう。
  しかし、・・・しかしながら、それを聞いた現地の派遣部隊はさぞかし驚愕したでしょう。現場はこれまでの現地派遣部隊の日々の努力で安定しつつあっても、現地の治安機関や軍はまだ自立に至らず。「米軍が撤退する」との報に、これまで連携してきた現地の治安機関や軍は落胆し、協力者は命を脅かされ、米国の裏切りに対し義憤に駆られ怨嗟を残し、弱体化しつつあった敵は息を吹き返し、・・・結果的に内戦状態に後戻り、これまでの努力は水泡に帰す。
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  そんなデジャブーが見られることがないように祈ります。
  だからといって、オバマ大統領やトランプ大統領が派遣米軍の早期撤退を望むことが間違っているということではありません。元々、米国の外交・安保・対外政策思想には、建国以来の「isolationism=孤立主義」というのがあります。米国は元々が英国の植民地から始まり、英本国からの税や政策などの束縛を嫌って分離・独立を求め、独立戦争によって血と力で勝ち取った建国でした。当時から、米国はヨーロッパの政治に関わらず、むしろ「孤立」を望む政治風土があります。ただ、その後国力が増し、第一次世界大戦終了時には世界のリーダー的存在となっていました。もはや、孤立ではいられず「世界の警察官」たろうとする考え方と、やはり孤立でよいとする考え方とがありました。大統領という立場では、以前私のブログの「マクナマラの教訓⑲:ジョンソン大統領をどう見るか?(後編)」の中で「Two Presidency Theory」という話を書きましたように、大統領の政治姿勢に二つの系譜があって、内政に力を入れる考え方と、外交・安保に力を入れる考え方があります。前者は孤立主義が淵源であり、後者は大国としての責任から「世界の警察官」たろうとする考え方です。オバマ・トランプ両大統領は、世界のリーダーとしての責任は理解するものの、だからといって遠く離れた見知らぬ国で米国の青年達が無為に犠牲になって行くのは「もう沢山」、もう介入政策を転換すべし、という考え方と言えましょう。ガチガチの「孤立主義」ではないものの、「世界の警察官」政策から転換する時期だ、という考え方と言った方が正確かも知れません。ただし、アメリカ第一主義を標榜するトランプ大統領の場合は、「米国の青年達の犠牲」よりは「米国民の税金の使い道」を「もう沢山」と考えているのでしょうけど。
  撤退にはタイミングがありますから、現地政府、現地派遣軍、国防長官、国務長官、補佐官等、十分に現地の状況、今後の見積もり・計画を検討するプロセスが必要でした。両大統領はそこを経ずに、まず自分の信念で結論を過早に公表したことが問題です。

  サイは既に投げられました。
  シリアをはじめ中東情勢に注視して行きたいと思います。
   (了)
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