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2024/02/25

ガザ紛争: 3月10日までに人質全員解放されなければラファ攻撃開始、ハマス主要幹部を捕殺へ

イスラエルは表向きは人質全員解放、本名はハマス主要幹部の捕殺の武力解決を追及
 ガザの状況は、相変わらずの地獄絵です。イスラエル軍はハーンユニス地区での掃討作戦の最終段階。いよいよハマスの最後の逃げ場と目されるラファ地区への掃討作戦の準備中です。ガザ地区のアチコチにイスラエル軍の砲弾が落下し、今日もまた、何名ものパレスチナ住民が死傷しています。水や食料、医療が限界状況の中、避難住民の苦悩の日々が続きます。そんな中、イスラエル政府は、ガザ地区のハマス及びパレスチナ住民に向けて、3月10日までの人質全員の解放を要求し、さもなくばラファ掃討を開始する、と迫っている模様です。

 この作戦目的は2つあって、表向きは当然「人質解放」で、裏の本音の目的はハマスの主要幹部の捕殺です。イスラエルの政府の主張やコメントと、その軍事行動には大きなギャップがあって、人質解放とハマスの掃討・幹部の捕殺は、政府見解上は「人質解放」を最優先しつつ、その軍事行動上は明らかに「ハマス掃討の最優先」に見えます。これにはネタニヤフ首相の執拗なこだわりが関わっていて、同首相はハマスを根絶やしにするためには、イスラエルはイスラエルを敵とする作戦の指令を与える組織の中枢の人間を確実に殺すのだぞ、とパレスチナ人の脳に刷り込むことがイスラエルの安全保障の基盤だと考えており、これを執拗に追及しています。恐らく、ハーンユニス掃討作戦の終了の後にはまだ掃討の住んでいないラファ地区を掃討し、ハマス主要幹部の首を挙げて(捕殺して)、高らかに勝利宣言することを追求しており、その過程で人質を救出できれば本望。人質に犠牲が生じてしまっても、それは仕方のない人的コスト、と割り切っているようにしか見えません。

 一方のハマスは、在ガザのハマス指導部は包囲されたガザ地区に留まり、というよりもはやガザの外への逃げ場を失い、ひたすらトンネルにこもって、イスラエルとの戦争を玉砕覚悟で続けるつもり、とハマス高官はニューズウィーク誌にコメントしています。 (参照: 2024年2月23日付Newsweek記事「Cornered in Gaza, 3 Key Hamas Leaders Plan to Fight to the End」)
ハマス政治局議長のヤヒヤ・シンワル氏(左)、アル・カッサム旅団最高司令官のモハメド・デイフ氏(右)、副議長のマルワン・イッサ氏
ハマス政治局議長のヤヒヤ・シンワル氏(左)、アル・カッサム旅団最高司令官のモハメド・デイフ氏(右)、副議長のマルワン・イッサ氏(中央の○)

 イスラエルが標的としている在ガザのハマス主要幹部とは、ズバリ、上の画像の3名です。ハマス政治局議長のヤヒヤ・シンワル氏(左)、アル・カッサム旅団最高司令官のモハメド・デイフ氏(右)、同副司令官・副議長のマルワン・イッサ氏(中央の○)です。3名ともガザで生まれ、ハマスの構成員として幾多の対イスラエルのテロ攻撃などに参画してアラブ内では名を挙げ、他方でイスラエル当局からはマークされ、イスラエル軍に囚われ数年抑留された後にハマスがとらえたイスラエル兵との人質交換・解放にて釈放された経験を持っています。今や、在ガザのハマス最高幹部になっており、先般10月6日のハマスの越境攻撃作戦(「アル・アクサ洪水」作戦)の立案・指揮を執ってお入り、イスラエル軍の捕殺目標リストの最上位にいる状況ですから、本人たちは家族を含めてトンネルに籠っています。分散しているとは思いますが、今やハーンユニス地下、もしくはそこから通じて?、ラファの地下のトンネル網内で移動しながらの生活の模様です。幾多のテロ攻撃に名を挙げ、イスラエル当局に命を狙われて以来、ずっと公の席には姿を現さず、命令は大方は録音で実施し、常に隠遁して行方を秘匿しています。既にこの隠棲生活の過程で何度か九死に一生を得て生き延びており、実の家族もイスラエル軍の攻撃で犠牲になっています。

 他方、ネタニヤフ首相が執拗に追及するハマス主要幹部の捕殺が本当にハマス組織の殲滅に繋がるかというと、私見ながら、幹部の捕殺ではハマスの殲滅には繋がらないでしょう。もはや、「ハマス」という組織名はともかく、ガザのパレスチナ人の、否、西岸地区やアラブ社会のアチコチに分散したパレスチナ人を含め、更にパレスチナ人を兄弟のように援助を惜しまないアラブ・イスラム社会全体に、「反イスラエル」の思想がネタニヤフの「刷り込み指向」と逆説的にパレスチナ人・アラブ・イスラム社会に刷り込まれているでしょう。よって、幹部が捕殺されたところで、第2・第3の後継者が補任されるだけであって、仮にハマスが潰れたとしても、新たなハマスのような反イスラエル・イスラム過激派組織ができるだけでしょうね。
 (参照、上のハマス主要幹部の出典も: 2024年2月23日付Newsweek記事「Cornered in Gaza, 3 Key Hamas Leaders Plan to Fight to the End」)

米国のバイデン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相を説得できず
 ガザ紛争の不毛な状況を止められるのは米国大統領をもって他にないのですが、米国のバイデン大統領の対イスラエル説得交渉は、今のところ暖簾に腕押し状態です。
 それこそ度々、国連安保理で対イスラエルの決議案が出ると、米国は拒否権で潰してきましたし、イスラエルの代弁もしてきました。イスラエルに様々な手厚い支援も提供しています。にもかかわらず、米国のイスラエルへの「思いやり」は当のイスラエルには全く効き目なし。一切米国の助言・諫言に耳を貸しません。これには米国のバイデン政権のスタッフたちもいい加減我慢の限界が来ているようです。

 これはバイデン大統領のまとも過ぎるくらいまともな正攻法の思考と外交交渉のスタンスが、ネタニヤフ首相の純イスラエル(というよりは超国家主義的な思考)的な安全保障観とは全く噛み合っていないことが原因であり、その根本にはネタニヤフ首相が米国の支援は当然として受け止める一方、米国からの口出しは一切耳を貸さない、傲慢な基本姿勢にあります。
 米国のバイデン大統領やブリンケン国務長官は、ガザ地区及び西岸地区を含めたパレスチナ自治地区の正当な政府組織は現行の「パレスチナ自治政府」が担うべきであるし最も論理的な存在である、と考えています。他方、イスラエルのネタニヤフ首相は、まずハマスは絶滅させ、その上でパレスチナ地区の自治をパレスチナ自治政府に任せるつもりは全く持っていません。あくまでイスラエルの安全保障上の必要性から、当面はイスラエルが直接的に統治・統制・管理するつもりでいます。この違いが故に、交渉は全く嚙み合いません。
 
 米国のイスラエルへの「支援」と、その一方の「口出し」が機能しないのかというと、過去もありましたが、決してそんなことはありません。イスラエルのレバノン侵攻が問題になった1980年代、時のレーガン米大統領は大胆・果敢なトップ会談でイスラエルのベギン首相を強硬に説得しました。もって、イスラエルは当時実施中のレバノンの首都ベイルートへの空爆を即刻中止し、レバノン南部への侵攻もストップさせ、後に撤退させています。レーガンは、要するに「アメとムチ」をベギン首相に迫ったわけです。「アメ」は、米国は相当な対イスラエル支援(米国の最新鋭兵器を含む毎年30億ドル以上の軍事援助、など)をしていますし、イスラエルに関わる問題で国連安保理事会でもめた場合は常に「拒否権」を発動して側面から支援し、イスラエルの立場を米国としう強い立場で国際社会に代弁する役割を果たしてイスラエルを支えています。簡単に言えば、「このアメを失うぞ!」というのがムチです。これが功を奏してイスラエルのベギン首相をワケです。
 ですから、バイデン大統領も大胆・果敢な対イスラエル政策をかませるはずなんですが、バイデンさんもブリンケンさんも、いかんせん真っ正直で真面目過ぎる。トランプぐらいの「脅し」をかませばネタニヤフにも効き目があるのでしょうが、ネタニヤフもトランプ並みに頑固なタヌキですから。ムチが効かないのでしょう。

エジプトはラファ攻撃の最悪の事態に備えて難民収容施設を急ピッチで準備
 エジプトは、ガザのラファ地区との国境に隣接する地域に、イスラエルのラファ攻撃が始まり、大量の難民が逃げ惑うような最悪の事態に一時的に難民を収容するためと思われる大規模な収容施設用地を建設中であり、概ね地域の全容が明らかになりつつあります。
壁建設中 図収容施設
  図中の下に接するエジプト領内の赤点線の薄緑の地域(BBCの画像に筆者が加筆しました)がここ10数日くらいの間に、急遽造成・建設が始まったエリア。四角いエリアの一角はガザ地区とエジプトとのラファ検問所です。紫斜線のエリアがイスラエルの掃討作戦が実施中の地域。朱色のエリアがイスラエルがガザ地区の住民に避難を勧告している地域。濃い灰色のエリアは難民キャンプがある地域。薄紫色の海岸のエリアはイスラエルが避難先として推奨している「アル・マワシ人道地域」。(画像出典: 2024年2月16日付BBC記事「Israel Gaza: Netanyahu vows to press ahead with Rafah offensive」より)

 BBCの衛星写真検証チームはガザ紛争やウクライナ侵攻など、懸案となっている地域の変化を丹念に検証し、その概要を報道しています。2023年2月23日付BBC記事「Walled site grows at Egypt border near Gaza」(以前にも2024年2月16日付BBC記事「Israel Gaza: Netanyahu vows to press ahead with Rafah offensive」にて、エジプト~ガザ地区ラファ地域との国境すぐそばのこの施設について、以下数点の画像を添えて検証結果を報告しています。
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写真は1コ上の図とは南北が逆ですのでご留意を。この地域の造成は2月初旬から始まり、以来10数日で急ピッチに進められました。
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上の画像のように、周囲を高い壁で囲う作業が数か所同時並行的に行われています。既に立てられた壁、クレーンで壁を立てている作業(建設中)、などの様子が分かります。
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 2コ前の施設全景の画像の菱形の最右翼の角の部分を拡大したものが上の画像です。画像中央の交差点に隣接した駐車場のような地域に何百台かのトラックが駐車され、更に交差点の右上に向かう道路上にもトラックが止まっています。

 エジプト政府は、明白に建設中のこの施設について、「パレスチナ難民収容用ではない」と言明しています。エジプト政府の説明では、あくまでガザへの支援物資の集積・仕分け等の施設である、とのこと。しかし、そうであるならこれほどの土地は必要ありません。また、国連の人道支援物資担当者も人道支援物資の支援基盤ではないと否定しています。要するに、エジプト政府としてはラファ攻撃が始まれば、イスラエルのラファ市外への砲爆撃や戦車を扇動した地上部隊の掃討作戦が展開され、ほぼ間違いなくパレスチナの難民が逃げ場を失って逃げ惑う最悪の状況になります。そうした際に、最後の手段として、ラファの検問所から難民を逐次に受け入れて、この広大な地域に避難させるのではないかと推察されます。あくまで人道的措置として。

 エジプトとしても、アラブ友邦国に対してエジプト国民に対しても、「エジプト政府はイスラエルと協調して、パレスチナ人の大規模な強制退去に加担している」などとは思われたくないわけですし、パレスチナ難民をエジプトが受け入れてしまうと、エジプトの経済や安全保障上大きな懸念が生じますので、それは避けたいはずです。2月15日ギャラント国防相は、「イスラエル国家はパレスチナの民間人をエジプトに避難させるつもりはない。我々は、地域の安定の礎であり重要なパートナーであるエジプトとの和平合意を尊重し、大切にしている。イスラエルは、パレスチナ人を自分たちの土地から追い出そうとしていると見られるわけにはいかないが、他方、パレスチナ人がガザを立ち去りたければ、それを阻止するつもりはない。」とコメントしています。要するに、ラファ地上侵攻目前のパレスチナ避難住民の窮状に対し、見るに見かねたエジプトが、最悪の場合はラスト・リゾート(最後の手段)として避難民の収容の一部を賄う用意だけをしている、ということのようです。イスラエルは自らエジプト政府に依頼してはいないものの、エジプト政府が受け入れるというのであれば、一部の難民についてエジプトに出国することを黙認する、いや、黙認はせず「厳しいチェックの上)でしょうけど、ということではないか、と推察します。前述のThe Wall Street Journal紙記事によれば、建設中の地域はせいぜい10万人+αの収容力のようですから、150万人もの避難民全てではなく、あくまで一部を収容、ということでしょう。
(参照: 2024年2月16日付BBC記事「Israel Gaza war: Satellite images show construction on Egypt's border」、2月15日付Wallstreet Journal記事「Egypt Builds Walled Enclosure on Border as Israeli Offensive Looms」、ほか)

そして、ラファ掃討作戦開始、...我慢比べへ
 と、いうわけで、当面は事態の推移を見守るしかありませんね。
 そして、3月10日の期限に動きが出ます。
 恐らくは、人質解放はなく、それまでの主要幹部捕殺もできず、ラファ地上侵攻の開始、となりましょう。
 始まってしまえば、ラファ地区は阿鼻叫喚の地獄絵。人道的に黙視できない国際社会の喧々諤々の議論の中、イスラエルは国際非難など一切無視して作戦を続行、ガザの避難住民は逃げ惑い、その地獄絵図は国際社会の画面に映されるでしょう。そして、エジプトは仕方なく難民の一部を受け入れるでしょう。
 国際非難轟轟の中、ハマス主要幹部の捕殺、人質の救出を追求した作戦が、なかなか成果が出ない中、相当期間続くでしょう。
 ここは我慢比べです。
 ハマスも隠棲し続け、イスラエルの国際非難の中で掃討をし続け、国際社会は様々なアプローチで戦闘停止をイスラエルに諮る……どこが折れるか、その我慢比べとなるでしょう。

(了)

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