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2019/02/23

サウジへ原発を売るトランプの危うさ

サウジへ原発を売るトランプの危うさ

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サウジのムハンマド皇太子とトランプ大統領(2018年3月) 
(ウォールストリートジャーナル 2018 年 3 月 21 日 15:28 JST より) 

○ 2月19日、米議会下院で「トランプ政権の法手続きを経ずにサウジアラビヤに原子力発電を売り込んでいる疑惑あり」との報告書が提出されました。トランプ大統領と対立する民主党議員団による告発なので、政争の行方はともかくとして、私見ながら、この話題に関わるトランプ政権の危うさについて指摘したいと思います。
参照報道: 「米政権のサウジ原発輸出計画、違法の疑い 下院が報告書」(2019.2.20 20:59 産経新聞) ( https://www.sankei.com/world/news/190220/wor1902200026-n1.html ), 「米政権、サウジに原発輸出強行か 議会審査受けず 下院が報告書」 (
2019/2/20付日本経済新聞 夕刊) ( https://www.nikkei.com/article/DGKKZO4149365020022019EAF000/ )

<ポイント>
① トランプ大統領は、政権発足当初からフリン大統領補佐官等によりサウジに原発を売り込み推進
② 原発の輸出は、米国では核不拡散の前提から厳しい法手続きが必要だが、これを経ていないとの指摘あり
③ トランプ大統領は、サウジのカショーギ氏暗殺事件でサウジ王室を擁護したが、その一因がこの原発セールスの推進との憶測も
④ 私見ながら、最大の懸念はサウジが原発を欲しがる理由が発電ではなく、イランに対抗する核兵器保有と推察されること、即ち核兵器技術の移転・拡散につながること。これは新たな中東情勢混迷の火種となろう。

1 トランプ政権のサウジに対する原発セールス
  2017年頃から、サウジが原子力発電事業の輸入を所望し、これに米、仏、韓、露、中ら各国が熾烈な売り込み競争を展開した。ギガワット級の原発を2基、数百億ドルの儲け話し。この際、トランプ大統領はフリン大統領補佐官に命じ、同補佐官が主導的役割を果たして売り込みに参入。フリン補佐官の降任後はエネルギー長官ペリー氏がひき継ぐ。しかし、本来は法規定に従い、議会に諮りながら進めるべきところ、秘密外交的な売り込みをかけていた。これを側近の法律アドバイザーから再三にわたり改めるよう指摘を受けたにもかかわらず従わなかった。

2 したたかなサウジ
  サウジの原発プロジェクトの責任者と見られるのは同国エネルギー大臣ファリハ氏。このファリハ氏のバックについているのがサウジの実権を握るムハンマド皇太子だ。トランプ大統領がカショーギ氏暗殺の件で擁護したのも頷ける。ファリハ氏は、プロジェクトの進捗状況についてコメントを発し、これを国営メディアのアル・アラビアを使って観測気球を上げたり競争を煽っている。昨年7月には、米仏韓露中五カ国に絞ることを発表し、米国すら手玉にとって譲歩を引き出させている模様。石油輸出国のサウジが原発を事業化するのは、ファリハ氏によれば、原発により発電エネルギーを多角化し、石油をセイブすることで石油の輸出に回せる、という論理らしい。しかし、効率的な資源活用論は口実で、本音はウラン濃縮技術などの原発技術とともに核開発を目論むものと推察される。そこまでトランプがバカではないと信じたいが、過当競争で目論む譲歩が核技術だとしたら、儲け話しとはいえ乗るべき話しではない。事実、ロシアは明確に潜水艦などの新鋭兵器の供与をエサにチラつかせている。こうした譲歩を競争させているサウジは随分としたたかといえよう。

3 ソロバン勘定に執心し核兵器拡散を軽視するトランプ
  昨年3月中旬にムハンマド皇太子が渡米し、トランプ大統領にウラン濃縮技術のための協力を要請している。ちなみに、皇太子との間で他の儲け話し(THAADや作戦機、艦艇など、125億ドルの購入話し)も進んだ。トランプ大統領にとっていいお得意様であることは間違いない。 未だ米国は原発受注レースの一員に過ぎない形にはなっているが、一馬身も二馬身もリードしている。受注が決まれば米国経済が沸くことは間違いない。原発ビジネスにおいて、米国は今や韓国にすら遅れをとっていることを皆さんはご承知だろうか。対UAEの原発売り込み競争では、日米連合で固め打ちにかかったのに、米国自身の核拡散防止のための厳しい規定(特に、「ウラン濃縮と核燃料再処理を認めない」)をUAEに課そうとしたこと、及び韓国の安売り商法で韓国に敗れた。今回の競争では負けられない。それもお客様は相性の良いサウジ。米国の原発売り込み会社は経営破綻のウェスティングハウス社(一昔前には世界の原発の先進リーディング企業だったが今や東芝没落の一因にもなった)。この会社が立ち直るキッカケを作り、多くの雇用を生むビックビジネスなのだから、トランプ大統領としても鼻息が荒かろう。
  今回の下院での報告書で、法手続きを経ずに原発セールスを推進している大統領に対し、民主党やマスコミは喧伝し、アンチトランプの人々はアンチ大合唱になろう。としても、トランプ大統領は大統領のトップセールスで大きな儲け話しが獲得でき、経済が潤えば支持者はトランプの2期目を後押しする。時期的特質として、来年2020年は大統領選挙イヤー。ここ最近、民主党も対抗馬が続々と立候補に名乗りを上げているが、受注のニュースがあれば、共和党もトランプ大統領の二期目にgoをかけ、好景気は現職大統領の背中を押す。今回の報告書で責められようが、そらく大統領は馬耳東風であろう。儲けりゃいいんだろ、とタカをくくっているのだろう。
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核拡散のプロセス (ウォールストリートジャーナル 2018 年 2 月 21 日 03:13 JST より) 

  しかし考えていただきたい。問題は「法手続きを無視したか?」ではなくて、儲け話しの裏で「核の拡散に手を貸すことになっていないか?」である。トランプ大統領にとって、「核開発は売っていない、あくまで原発事業だ。細かい米国内規定を課すから以前お得意様を取られたじゃないか。今回は負けらてないんだよ!」という論理で割り切っているのだろう。しかしながら、だからこそ法手続き通りの議会への諮問が必要だったのだ。本来、議会が審議するのは政争のためではなく、原発技術というセンシティブな技術移転を核の拡散にならないように慎重の上にも慎重を期すことである。トランプ大統領がここを軽視しているのは間違いない。

4 サウジに核兵器を持たせると何が危ないか
  最大の懸念は、サウジが原発を欲しがる理由が発電ではなく、イランに対抗する核兵器保有と推察され、核兵器技術の移転・拡散につながること。サウジは穏健派と見られたが、カショーギ氏暗殺でも分かるように、必要とあらば凡ゆる手段を使う国。対イラン、対イエメンの抗争で一歩も退かない強気な姿勢を示すサウジが、原発技術から核兵器開発に移行した場合、周辺国に対し短慮の余り限定的核使用をちらつかせるなどの核恫喝をすることも十分考えられる。また、サウジの核保有をめぐり、その開発疑惑の段階でイスラエルやイランが疑惑の開発拠点を外科手術的航空攻撃することも十分考えられる。(事実、イスラエルは過去イランの核開発拠点に対し航空攻撃をかけている。) また、米国はこれまでイランの核開発疑惑を懸念し、執拗に糾弾し経済制裁を課してきたことから、イランは米国のダブルスタンダードを指摘して猛烈に反発するだろうし、西側諸国も米国のダブルスタンダードを責めるだろう。更に、サウジがいいのなら、とばかり周辺アラブ諸国の核拡散熱を助長するかもしれない。
  トランプの進める儲け話しが、新たな中東情勢混迷の火種となろう。

(了)

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経済事件で不可解なことがある場合、新聞のストーリーは読まずに自分でその関連を考えるようにしています。最近では、東芝の粉飾決算とウェスティンハウスの関係、日産のゴーン会長への報酬虚偽記載、日立の英国原発からの撤退、などです。
米国の国策とは何か、と思ってしまいます。