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2019/03/17

米軍事予算の目玉マルチドメインオペレーションとは

米軍事予算の目玉マルチドメインオペレーションとは

 2019年3月11日に米国の2020年度の予算教書が発表され、翌12日に国防省がブリーフィングを開き国防予算案が明らかにされました。この予算教書にはそこかしこに米国の財政問題が滲み出ており、今後米議会内で喧々諤々の議論を呼ぶ波乱含みのもののようです。しかしながら、ここでは国防予算案の重視ポイントにのみ注目し、その中でも目玉となったMulti-Domain Operationsに焦点を当てたいと思います。(予算教書の細部の分析は、ウォールストリートジャーナル紙2019年3月14日付に詳しい記述があります。 参照:Diamond onlineから https://diamond.jp/articles/-/196866 )

<ポイント>
① 2020年度の米国防予算案が明らかに
  今回の国防予算は、トランプ大統領の大盤振る舞いで国防予算は7500億ドル。これは、前年度7160億ドルの5%増。破格の優遇予算編成となった。まぁ、民主党が強い米議会では大もめすること間違いなし。ひょっとしたら、トランプお得意のハッタリかまして議会でもめた時のキリシロにするつもりかも。
② 国防予算の重視ポイントは3つ
  今回の国防予算案の重視ポイントは3つ。軍事大国との競争、宇宙とサイバー、そしてマルチドメインオペレーション。目を引くのは宇宙とサイバーの重視だが、その何がしたいかと言うと「マルチドメインオペレーション」。これが中心課題となろう。
③ マルチドメインオペレーションとは
  陸海空のこれまでの戦いの領域(ドメイン)に加え、宇宙空間、サイバー空間も戦いの領域に想定し、全領域を通じて作戦を展開し勝利を獲得する、というもの。ポイントは、宇宙とサイバーをも戦闘の領域として考え、むしろ大気圏外や宇宙空間の活用や、サイバー攻撃とサイバー防護により、ロシアや中国の作戦を敵に先んじて潰し、陸海空の作戦環境を我が有利に展開するというもの。
④ 日本の新防衛計画の大綱の多次元統合防衛力との関係
  昨年末に日本の新防衛大綱が閣議決定されたが、ここで新たに打ち出した「多次元統合防衛力」とは米国のマルチドメインオペレーションの日本版。しかし、日本は国内法制・政治的制約から、宇宙とサイバーにおいては攻撃はせずに専ら防御能力の向上に努めるだろう。しかし、米国との相互運用性を確保して日米共同作戦で負けない戦いをするしかない。

1 2020年度の米国防予算案
  国防予算は、2期8年のオバマ政権下で長期にわたり縮減に耐えてきましたが、その反動とも言うべき大盤振る舞いをトランプ大統領から受けている。2020年度の国防予算は7500億ドル。これは、前年度7160億ドルの5%増。トランプ大統領は、国防予算以外はどの省庁も5%カットで予算編成させたというのだから、国防予算に対する優遇ぶりが伺い知れる。細部は、2項の重視ポイントの説明の中で国防予算案の内容を述べる。

2 2020年度の米国防予算案の重視ポイント
  今回の国防予算案の重視ポイントは3つ。 ①軍事大国との競争、②宇宙とサイバー、そして③マルチドメインオペレーション。
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US Army TRADOC "US Army Multi-Domain Battle" 

① 軍事大国との競争に勝つこと
  軍事大国(Great-Power)とは紛れもなくロシアと中国を指す。米国は、長期に及んだテロとの戦いの中、オバマ政権下で国防費を押さえ込まれたため、テロとの戦いで枯渇しつつある弾薬の在庫補充や部隊の即応性維持に対して軍事資源の多くを費やしてきた。この間、ロシアや中国は米国を凌駕する新装備システムを開発してきた。最新の精密誘導打撃ミサイル、統合防空システム、巡航及び弾道ミサイル、サイバー戦能力、対人工衛星能力、など米国の既存のウェポンシステムでは対抗しえないのではないか、との深刻な懸念を抱えている。これは2018年のNational Defense Strategyにも「米国は今や軍事大国化したロシアや中国に対抗する軍事的先端優位性を失いつつあるリスクに瀕している」と表現していることでも読み取れる。
  今回の国防予算案では、この軍事大国との競争に負ける訳には行かない、勝たねばならない、との意識を改めて強調していると言えよう。早い話が、軍事産業とタイアップして米国の軍事先端優位性を維持するぞ(もって純国内の需要拡大、雇用拡大、経済成長につながる)、というトランプ大統領の意志なのだろう。

② 宇宙とサイバーに焦点を当てる
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(Pars Today 2017年11月19日付 アメリカ前国防長官、「アメリカは、サイバー戦争に対処しきれない」 より ( http://parstoday.com/ja/news/world-i36823 ))

  上記とも関連して、具体的な重視事項として名指ししているのが「宇宙」と「サイバー」の領域であり、「宇宙」に141億ドル(昨年度比10%増)、「サイバー」に96億ドル(昨年度比15%増)を配分している。
  「宇宙」では、宇宙軍創設、宇宙での通信システム、宇宙ベースの警報システム、宇宙への打ち上げ能力、GPS、ナビ等の施策が盛り込まれている。「宇宙」の予算項目に入れていないが、前述のとおりロシアや中国が「最新の精密誘導打撃ミサイル、統合防空システム、巡航及び弾道ミサイル、サイバー戦能力、対人工衛星能力」等を開発しているため、これに対抗する米国の新装備等の開発にも資源配分される。ちなみに、トランプ大統領はマチス前国防長官の反対を押し切って「宇宙軍Space Force」という新たな軍種を作ると表明している。陸軍・海軍・空軍・海兵隊に加えて宇宙軍としたいらしい。(但し、海兵隊が海軍省の下にいるように、あくまで空軍省の下の組織という形)というのも、中国はいわゆる対人工衛星キラー衛星やキラー兵器を開発・実験してきており、いざと言う時に米軍のウェポンシステムの自己位置評定やナビ機能を麻痺させる準備を着々と実施。また、月の裏側に基地を作る準備をし、宇宙空間を作戦の一部にしつつある。これに後れを取ってはならない、との意志であろう。
  「サイバー」では、攻撃・防御両面のサイバースペース運用、サイバーセキュリティ機能の強化、国防省のネットワーク・システム・情報へのリスク軽減、国防省の汎用クラウド環境の近代化、などの施策が盛り込まれている。誤解のないように補足すると、これは一般企業の「情報セキュリティ」とは次元の違うものであり、米国や世界に展開している米軍に対するサイバー攻撃やサイバーテロに対する防御のみならず、米軍が作戦をする際には米軍の作戦の一翼にサイバー攻撃も実施する、というものである。明示的には記載されていないが、いわゆる電磁波Electro-magnetic攻撃・防御も含まれているものと思われる。「サイバー」を重視しているのは、これまたロシア・中国の軍事先端優位性が関連する。クリミヤ危機の際、ロシアはウクライナにサイバー攻撃をかけ、サイバー空間を通じたスパイ、偽情報、情報錯綜、システムの分断・破壊を作為してウクライナの軍事作戦を麻痺させ、ロシア軍が優勢に作戦を遂行した。中国は、正規軍内にサイバー部隊を擁するほか、愛国的ハッカーの組織的運用を行って、恒常的に米国、西欧諸国、日本などに対するサイバー攻撃やサイバー空間でのスパイ活動を仕掛けている。サイバー攻撃に関しては、物理的被害が目に見えづらいこと、犯人が特定しづらいことも手伝って、やったもん勝ちの攻め手市場になっている。もはや、サイバー領域は軍事作戦の一分野になっていると言っても過言ではない。米国はサイバー正面で元々底力のある国であり、市民ハッカーの層の厚さ、幅広さ、深さは他を圧倒しているが、ロシアや中国は国家が意図を持って主体的に攻撃防御両面で駆使してくる点で、米国は先端優位性を失いつつあると言える。従って、負けてはならないとの意志が表明されたもの。

③ マルチドメインオペレーション
  これまで陸、海、空それぞれの戦いから陸海空の統合へと作戦概念が進化発展してきた。この更なる発展形態として位置づけられたのが「マルチドメインオペレーション」である。これは、将来の戦いは陸上、海上、空中、宇宙そしてサイバー空間で戦われ、敵を倒すためこの5つの領域全てにわたって統合した作戦を展開して勝利する、というもの。前述の宇宙やサイバーを重視する項で述べたような「宇宙やサイバー」の作戦の重要性も、これまでの陸海空の統合作戦に加味した総合的な作戦概念である。これは、予算要求の個別的な項目を見ても理解できるものではなく、米軍4軍種の統一した作戦概念として合意された新たな考え方「マルチドメインオペレーション」の腹の部分を読み解かないと理解できないと思う。日本の昨年末(2018年12月)に閣議決定された「多次元統合防衛力」はマルチドメインオペレーションの日本バージョンであり、日米の相互運用性(interoperavility)の観点からも当然の流れといえる。作戦概念の細部、特にその「腹の部分」は後述する。

3 マルチドメインオペレーションとは
ダウンロード (4)
薬師寺克行「今月の外交ニュースの読み方」2018.11.9 vol.32 「サイバー攻撃、ドローン…戦争が「目に見えない」時代に突入した」より ( https://courrier.jp/columns/141929/ )

 マルチドメインオペレーションとは、陸・海・空・宇宙・サイバーの全ての領域(domain)において、同時並行かつ一斉に作戦展開する概念であり、全ての領域で敵の先手を打って敵に対応の暇を与えず、我が優勢なうちに敵に劣勢なまま敵の鼻ずらを引きずり回し、戦勝を獲得することを目指すもの。何を言っているのか分かりづらいかもしれないので、ザックリ言うと、これまで同様に陸海空の作戦を我が優勢に進めるため、宇宙やサイバー空間での先制攻撃により、作戦環境を我が優位な状況に作為する、ということ。具体的には、宇宙空間では、敵の軍事衛星やキラー衛星・キラー兵器の破壊、我が軍事衛星の防護、宇宙空間(大気圏外)も使った軌道のミサイルなどを駆使した作戦を展開。サイバー空間では、平素のうちにサイバー戦により敵のシステム中にバックドアを作っておき、いざ作戦開始すればバックドアからサイバー攻撃を開始し、敵の軍事インフラ、指揮通信システム、各種ネットワーク、ウェポンシステム等の妨害・誤動作・無効化・破壊、加えて敵国の政治経済中枢や国民生活基盤インフラを麻痺させる。映画で見たことがあるかもしれないこれらの攻撃は、既にロシアや中国が現実化しているのだ。実は米国も既に実際に運用している。
  (この辺が非常に恐ろしい部分で、またの機会にこの辺の話を書きます。)
   (※参考まで 米陸軍のTRADOCの MultiDomainBattle: Evolution of Combined Arms for the 21st Century というyoutubeのビデオクリップがヴィジュアルに解説しています。勿論、腹の部分の話なんてしていませんけど。( https://youtu.be/nfOgPayfATo ))

4 日本の多次元統合防衛力について
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防衛大綱・多次元統合防衛力のイメージ (時事ドットコムニュース 【図解・行政】防衛大綱・多次元統合防衛力のイメージ(2018年12月)より ( https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-anpoboei20181218j-01-w510 )

  前述したように、日本の新防衛大綱で謳っている「多次元統合防衛力」とは、米国のマルチドメインオペレーションの日本バージョンである。しかし・・・・。残念ながら、日本に米国のようなマルチドメインオペレーションを遂行する力はなく、また憲法はじめ国内法上の制約や国民的理解が得られない等の法律的・政治的課題から、日本が実施する多次元的統合防衛力とは、米軍のマルチドメインオペレーションのうちの攻撃的部分を禁じ手とした防御的なものにならざるを得ないだろう。だって、そうでしょ?日本がサイバー攻撃で、相手国の政経中枢や国民生活インフラを破壊できますか?やるとしても相手国の軍事施設に限定かな。いや、それすら「ダメだ!」と国会で大もめするだろうな。結局は防御的な手段方法のみになるのだろう。ただし、既にマスコミが報じているように、護衛艦いずもをF35B(垂直離発着化:VSTOL)の空母化改修をすること、主力戦闘機としてF35Aを導入することなど、この辺もこの「多次元統合防衛力」の一環である。
  私見ながら、多次元統合防衛力の採用、F35の導入やいずもの空母化など、この辺については、米軍との相互運用性の重視であって、日本の自衛隊単独の作戦としてではなく、いざと言う時の米軍の攻撃的手段を期待しての作戦構想ではないかと推察する。日米共同作戦をする上で、米軍と同様の作戦が遂行できる陸海空宇宙サイバーのアセットを持ち、米軍との共同作戦遂行の基盤とする。他方、役割分担として、自衛隊のできない攻撃的部分は米軍の攻撃手段に依存する。結構高い買い物を米国からすることになるが、保険金なのだろう。

○ 結言
  前項の最後に述べた日本の多次元統合防衛の腹の部分、これを非難しなじる方々もいると思いますよ。しかし、現実的には賢い自己防衛策ではないか、と私は思います。現代の作戦環境は、ここまで科学技術が発展、特にサイバー攻撃などがここまで進化すると、こうでもしないと日本は守れないのです。そんなところに来てしまったんだな、と痛感しています。私らが自衛官の時分に、核兵器はともかくとして、陸海空のアセットで戦う通常戦争の世界で「エイ、ヤー」と訓練していた当時はまだまだ平和なもんだったと思いますよ。今の時代は、サイバー戦だって?なんだそりゃ?ですよね。しかし、現実問題、次にどこかでロシア・中国・米国などが絡む戦争・紛争があるとしたら、確実にサイバーから始まるでしょう。(インド・パキスタン紛争では起きませんが・・)開戦劈頭で、相手国はシステムダウン。何がどうなっているかわからないうちにsurgical airstrike外科手術的航空攻撃を受けて自国の攻撃手段は壊滅状態にされるでしょうね。
  次回から、サイバー戦について勉強したいと思います。読んでいただける皆さんと、ぜひサイバーの恐ろしさを共有させていただきたいと思っています。

 了」


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