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2019/03/31

電磁スペクトラム戦能力を早急に向上せよ!

クリミアの二の舞を避けよ! 電磁スペクトラム戦能力を早急に向上せよ!

CBS news Ukraine mobilizes as Russian troops control Crimea
「Ukraine mobilizes as Russian troops control Crimea」CBS News より
( https://www.cbsnews.com/video/ukraine-mobilizes-as-russian-troops-control-crimea/ )


 前回のサイバー戦の脅威とこれへの対応の話の続編として、今回は電磁スペクトラムの脅威について考えてみたいと思います。以前は「電子戦」と呼ばれ、主として敵の通信機器に電波障害を起こさせる攻防でしたが、今や通信機にとどまらず各種装備が高度にシステム化・ネットワーク化するとともにUAVやら人工衛星まで広範多岐に亘る時代。電磁スペクトル戦とは、電子戦のみならず、それらの装備を無効化してしまう幅広い電磁波の幅域を駆使した作戦です。いわゆる電磁パルス(EMP)も電磁スペクトラム戦の一部です。今やこの電磁スペクトラム戦が脅威になってきました。しかも、電磁スペクトラム戦がサイバー戦とコンビで駆使されれば、開戦劈頭にして我の指揮通信やシステム化・ネットワーク化した装備がダウンしてしまう悪夢のようなブラックアウトが正夢になるかもしれません。

<ポイント>
① ロシアは電磁スペクトラム戦とサイバー戦でクリミアを無血併合
② ロシアの電磁スペクトラム戦能力の高さに米国が劣勢を自覚
③ 対応策は急務。サイバーや他の陸海空宇宙の領域と合わせて一本で対抗すべし。これがマルチドメインオペレーション。

1 ロシアは電磁スペクトラム戦とサイバー戦でクリミアを無血併合
  2014年、ウクライナのクリミアをめぐる不穏な情勢に世界の耳目が集中した。前年、親ロ派のヤヌコヴィッチ大統領が親西欧の国民の支持が得られず。親西欧の暫定政府ができ、ヤヌコヴィッチはロシアに逃亡。しかし、ロシア系住民の多いウクライナ東部やクリミアでは、元々ロシアへの併合を望む市民も多く、クリミア自治州はロシアに支援された民兵が州を閉鎖して、州議会でウクライナからの独立した共和国を宣言。ロシアは支援を表明。他方、ウクライナ暫定政権はこれを認めず。世界的な非難と注目がクリミアに集まった。リトルグリーンメンと名乗る民兵集団もロシア正規軍ではないかとの疑念もあり、ウクライナ国軍との衝突も懸念された。特に、クリミアは黒海の不凍の軍港としてロシアにとって死活的国益。歴史的にも、ロシアは容易にクリミアを手放さない。

  2月下旬、クリミアでついに軍事行動。この際、勢力で劣勢の親ロ民兵は優勢なウクライナ国軍に対し、企図を秘匿した迅速な行動と敵に対する正確な砲兵射撃により、軍事的には電撃的圧勝。ウクライナ軍の指揮通信が妨害され統制の取れた行動が取れず、敵の行動に対する情報収集は偽情報に混乱され、他方ウクライナ軍の行動は全て敵に掌握され、正確な砲兵射撃が襲ってくる状況だった。

  これを可能にしたのが、ロシア軍の電磁スペクトラム戦とサイバー戦のバックアップだった。ロシア軍は、ウクライナ軍の指揮通信システムやネットワークを狙い撃ちで電波妨害、米軍からウクライナ軍に供与された高度にシステム化・ネットワーク化された装備を役立たずにせしめた。ウクライナ軍の情報収集手段、UAV、レーダー、センサー、ミサイル誘導や衛星からのGPSなどを機能させず、ハッキングにより乗っ取るなど、ウクライナ軍に親ロシア民兵側の情報を取られずにむしろ偽情報で撹乱し、砲兵射撃やミサイルも誤作動や誤目標に弾着させた。他方、親ロ民兵やロシア軍の行動は秘匿しつつ、ウクライナ軍の行動はロシアから供与されたUAVが正確に位置を把握して効果甚大な射撃をした。これにより、敵味方ともに少ない損害で電撃的な勝利を得たのだ。ウクライナ東部でも同様の戦闘を展開。東部戦線では損害がかなり出た模様だが、軍事的には親ロ民兵側が勝利。結果的に、世界から非難される中、プーチンは不退転の意志を示し、既成事実としてクリミア及びウクライナ東部をロシアに併合した。(経緯はかなりザックリとまとめたので、あまり正確でない。ご容赦を。)

 ちなみに、前述したようなロシアの電磁スペクトラム戦(電子戦)の装備の細部の性能などは割愛するが、次の記事にロシアが発表したベスト5の装備が紹介されているので参考にされたい。 「Blind & conquer: Top 5 Russian radio electronic warfare systems」Russia Beyond 2015年2月16日付 ( https://www.rbth.com/economics/2015/02/16/blind_and_conquer_top_5_russian_radio_electronic_warfare_systems_41393#__scoop_post=31803c40-b63f-11e4-93b2-842b2b775358&__scoop_topic=3973209 )
スクリーンショット (2)
Krasukha-2(クラスカ-2)(Source: Press Photo 「Blind & conquer: Top 5 Russian radio electronic warfare systems」Russia Beyond 2015年2月16日付 より)

2 ロシアの電磁スペクトラム戦能力の高さに米国が劣勢を自覚
  クリミア及び東部の戦闘後も両者は睨み合いを続けたが、ウクライナ軍も戦闘の細部を分析検討し、米軍と情報共有した。そこで米軍が学んだことは、ロシア軍の電磁スペクトラム戦の分野におけるソフト・ハード両面の先進性は米軍を遥かに凌駕しており、もし両軍戦わば、米軍ですらウクライナ軍と同様に、ロシアの電磁スペクトラム戦とサイバー戦という非物理的攻撃及び物理的攻撃もハイテクからローテクまでハイローミックスでチャンポン攻撃をしかけてくることには、なすすべなく圧倒される、という現実だった。一つには、米軍はこの十数年の間、正規軍の強敵と対峙していないので、自軍の装備のシステムやネットワークに自信を持ちすぎて、よもや調子が悪いとか妨害で機能しないとか、そんな状況下を経験したり訓練したりしてこなかったために「対応ができない」、という状況なのだ。在欧州米陸軍司令官ホッジス中将は、このロシアの電磁スペクトラム分野の先進性を「涙が出る(eye-watering)」と表現したという。(ご参考まで 「Electronic Warfare: What US Army Can Learn From Ukraine (By: Joe Gould)」Defense News 2015年8月2日付( https://www.defensenews.com/home/2015/08/02/electronic-warfare-what-us-army-can-learn-from-ukraine/ ))

  米軍は、10数年に及ぶイラク・アフガン戦争やISIS等との非対象戦を戦ったがゆえに、強力な正規軍との戦闘を念頭に置いた装備体系、特に電磁スペクトラムのような分野は軍事予算の制約から後回しになった。当時、米軍兵の命を脅かせていた路上の即製爆弾IEDへの対応が目の前の問題であったため、対IEDの妨害電波発信機などは充実した。しかし、この空白の10数年の差は甚大だった。ロシアはこの間に、電磁スペクトラム戦分野で世界最高峰を独走し、サイバー戦とのコンビネーションの分野でも大きく水を開けられた。オバマ政権下では国防予算が厳しく制約されたが、トランプ政権になってやっと危機感を聞き入れてくれるようになったらしく、マルチドメインオペレーションの名の下に、今後急速に差を縮める努力をするであろう。その意味では、トランプ政権を少しだけ評価する。

3 日本も対応策を!(サイバーなど他の分野とともに多次元統合防衛力で挽回を!)
  これは決して他人事ではない。ロシア同様、中国の電磁スペクトラム戦分野での先進性も日本にとって脅威。この分野では、自衛隊は未だ従来の「電子戦」の域を出ていない。勿論、列国の軍事的趨勢を踏まえてキャッチアップすべく整備しているが、電磁スペクトラムのフルな幅域を駆使した電磁スペクトラム戦という観点では、ロシアや中国の充実ぶりに比して大きく後れを取っている。しかも、敵はサイバー戦とのコンビネーションでえげつない攻撃をしてくると思われる。自衛隊も今やシステム化・ネットワーク化している上に、既述の米軍の立ち遅れの話と同様、隊員たちは電子戦下の対応に習熟する訓練をしていない。いざ有事となれば、無線による指示信号を妨害されたり、無線やサイバー攻撃で自衛隊のシステムに入り込まれてダウンさせられたり、・・・ウクライナ軍の二の舞いは十分に想定しておかねばならない。よって、努めて早期にこの差を挽回しなければならない。
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陸自のネットワーク電子戦システム

  現在陸上幕僚監部の指揮通信システム・情報部長 廣恵将補は通信学校長時代から「電磁スペクトラム戦は喫緊の課題である」との問題意識を熱心に発信しており、筆者も注目していた。さぞや頭の固い陸幕防衛部や防衛省内局にもPRしたことと思う。結果的に、多次元統合防衛力の概念の説明や図の中に、明確に電磁スペクトラムを盛り込んでいるのを見て、よくぞ盛り込んだ!と驚きを禁じ得ない。米軍すらマルチドメインオペレーションの概念図に電磁スペクトラムは入れていない。米軍は、Cyber and Electro-Magnetic Activities (CEMA)という作戦概念なのでサイバーの領域(ドメイン)に含めていると考えられる。陸海空という従来の軍事作戦の領域、宇宙という新領域、これら物質的領域に加え非物質的なサイバーと電磁スペクトラムの領域、という理解のようだ。米軍は電磁スペクトラムは明示的に強調していないので、これの日本版を新概念として説明する際に、ともすればサイバーしか語らない形も十分あり得た。それを明示的に、「電磁スペクトラム」をわざわざサイバーと別の領域という形で強調したのだ。これは画期的と言える。地味な玄人ネタながら、筆者としてはこれを高く評価したい。
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  電磁スペクトラム戦を新防衛計画の大綱や中期防衛力整備計画に入れ込むことができたが、さてこれからが勝負。これから中期的に整備されるであろう電磁スペクトラム戦の装備はただのハードウェアであって、今後これら装備を駆使して、他の陸海空宇宙等の領域(ドメイン)と統合作戦により防衛力として「使える」ものにしていくソフトウェアも整備していかねばならない。現役諸兄の健闘に期待する。
  その際にネックとなるのが、またしても専守防衛の呪縛であろう。防御的な作戦行動は問題ないが、攻撃的となると・・・。恐らく電磁スペクトラムの領域においても、物質的損害を相手に与えるものでないが、サイバーと同様に問題になるのではなかろうか。
  結局のところ、前回のサイバー戦で述べたように、まず自ら防御はガッチリと固めた基盤の下、米軍との相互運用性を発揮した密接な日米共同作戦で「共同対処」する中で、攻撃部分は米軍に期待する、ということではなかろうか。当然、自衛隊が自らすべき部分、できる部分は頑強に責任を果たし、かつ、米軍の作戦を容易たらしめる支援をするのは言うまでもない。その上で、ロシア・中国を凌駕するまで能力を向上させた米軍に、サイバー戦と電磁スペクトラム戦をフルにコンビネーションを発揮してもらう。恐らく、少なからず「他力本願ではないか!」とお叱りを受けると思うが、筆者は賢明な策だと信じて止まない。

 了」

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