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2018/08/28

マクナマラの教訓: ④日本本土空襲 カーティス・ラメイ大佐のリーダーシップ

<映画「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」に学ぶ ④日本本土空襲: カーティス・ラメイ大佐のリーダーシップ>

 マクナマラの教訓について、前回までキューバ・ミサイル危機に焦点を置いて反芻してきました。今回と次回は、第2次世界大戦中の日本本土空襲をテーマにしながらマクナマラの教訓3~5までをカバーしたいと思います。

 まず、3番目の教訓「自分自身を越えた何ものかがある。There's something beyond one’s self. (<原文ママ>)」ですが、ここは他の教訓と違って、「なるほど」というものがなく、イマイチ意味が不明確で、場面の前後の発言から察するしかありません。
 キューバ危機のような出来事ではなく、マクナマラ氏の大学時代の回顧の話です。1930年代の米国社会は大恐慌のどん底の経済状態であり、同氏は本当はスタンフォード大学を志望していたものの経済的に無理なためバークレー校に進学、大学の成績もよく奨学金も得て、ハーバード大学院のMBAに進学する機会を得ます。そこで教養科目として取らねばならなかった哲学の授業で、彼が専攻しているビジネスアドミニストレーション的な事業や政策等の成功のための知識や手法や効率性の追求とは全く異質の「哲学」に出会い、非常に興味を持って学んだようです。自分を超越する何か価値あるもの、神の意志、社会や国家への貢献などといった、これまで同氏が学んだことのない領域に授業の強調が置かれ、興味を持って学んだ。という、ただそれだけの話です。この話の直後の話題が、奥様との馴れ初めや新婚時代、子供の誕生等について語っているので、同氏が基本的に統計学的手法で最良と思われる施策を徹底的に進める人生を歩んだ中で、唯一効率効果性の追求ではない「自分自身を越えた何か大事なもの」の存在を学んだのだ、ということをエロール・モリス監督が編集の際に教訓として位置付けたのではないかと思います。

 4番目の教訓「効率性を最大限に高めよ。Maximize efficiency. 」は、前項のような社会や経済は恐慌だったものの個人的・家庭的には幸福だった時代から戦時中へと話題が変わります。教訓の主体は、彼が第2次大戦中に仕えた上司、カーティス・ラメイ大佐であり、内容的にはその冷徹な効率最大限化による戦勝の追求というリーダーシップ発揮の話です。
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 マクナマラ氏は、ハーバード大に助教授として年棒4000ドルで職を得たものの、戦争で大学に学生もいないことから、ハーバード大は政府と契約し協力体制をとり、同氏は陸軍航空隊に対し統計管理の分野で協力するメンバーとなりました。当初は統計管理教育に携わり、じ後は対日戦正面の戦略爆撃の効率効果の低さに着目し、調査しデータを収集整理して統計学的手法から問題点を是正する作業に携わりました。爆撃に出撃した航空機が途中で引き返してくるabortion rate(出撃中断率)が20%にも及ぶ理由を追求したところ、実際の撃墜率は4%程度だったが撃墜される恐怖によるものと分析。これを聞いたB-24爆撃隊の隊長であったラメイ大佐は激怒し、自分が出撃隊の陣頭に立ち、「途中で引き返した奴は軍法会議にかける」と宣言し、出撃中断はパッタリと激減したといいます。じ後、マクナマラ氏は新たに開発されたB-29爆撃機を擁する58航空団に配属となり、米カンザス~インド~中国~日本本土という経路でのB-29爆撃隊を担当したものの、中国成都の劣悪な飛行場の立地と中国人労働者の非効率性から成果が出ず。これを一変し、爆撃拠点を大きく変えて太平洋のマリアナに変更したのがこれまたラメイ大佐でした。
 他の航空隊指揮官が爆撃回数や投下爆弾数を競った中で、ラメイ大佐だけはtarget destruction=目標の破壊を徹底的に追求しました。ラメイ大佐の目標破壊の徹底に、マクナマラ氏もさぞや統計学的分析手法で効率効果の最大限化に幕僚として貢献したことと思いますが、ラメイ大佐の凄いのは、その部下への企図の徹底ぶりです。当時のマクナマラ氏の分析で、B-29は高射砲や日本の迎撃機から逃れるために高度7000mから爆撃できるように作られ損失率は低いものの、肝心の爆撃精度そのものが低い旨報告したところ、ラメイ大佐は目標破壊の徹底的追求の観点から、爆撃高度を1500mまで下げさせ、爆弾は木造家屋ばかりの日本の市街地を前提に焼夷弾に変えさせ、徹底的に日本の各都市を破壊することを部下に追求させました。日本人としては忘れられない3月10日の東京大空襲で、ラメイ大佐の部隊が一夜にして東京を焼け野原にしたわけですが、その日の出撃後の聞き取り調査において、部下の不満が爆発、「B-29は高高度から爆撃できる最新鋭機なのに、一体どこの馬鹿野郎が1500mまで高度を下げさせたんだ!僚機が撃墜されたじゃないか!」とある大尉が発言。すると、ラメイ大佐が立ち上がり、以下のように言いました。

  ”Why we are here?
  You lost your wingman. It hurts me as much as it does you.
  I sent him there. And I’ve been there, I know what it is.
  But you lost one wingman and we destroyed Tokyo.
  150 square miles of Tokyo were burned.
  Tokyo was a wooden city, and when we dropped these firebombs, it just burned it.”
  「俺たちはなぜここにいるんだ?
  確かに貴官は僚機を失った。貴官と同様、俺も心を痛めている。
  命令したのは俺だ。俺が貴官らを東京上空に行かせた。
  俺もどういう場所か分かっているし、(高度を下げたことで)危険も承知の上だ。
  しかし、一機の損失があった一方、我々は東京を壊滅させた。
  50平方マイル(130平方キロ)を焼け野原にした。
  東京は木造の街なので、焼夷弾を投下することで瞬く間に東京を焼け野原にしてしまったのだ。」

 ラメイ大佐は、爆撃の効率・効果の最大限化のために爆撃機の飛行高度を下げ、対空砲火や迎撃機で撃墜される可能性が高まろうとも、爆撃精度の向上=目標都市の破壊を追求させ、批判を承知で効率性を最大限化したのです。
 恐らく、若きマクナマラ氏の目にこの強烈な指揮官の姿が功罪合わせて焼き付いたことでしょう。同氏は幕僚として、得意の統計学的分析手法で様々な分析や報告で貢献したかもしれませんが、その分析や報告に基づき、企図を確立し、それを徹底的に部下に実行させたのは、このラメイ大佐というリーダーの冷徹にして強烈なまでのリーダーシップだったわけです。同氏にとって、この教訓が血肉となり、やがて自分自身が米国防長官となった時、自分自身が効率性の徹底的な追求の権化となるのですから、何とも人生とは皮肉なものですね。
 (了)


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