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2019/07/10

イラン問題で欧州が緊急会議

 核合意から離脱し厳しい経済制裁を課して一歩も退かない米国、核合意の基準を意図的に破って「何とかしろよ!欧州!」と欧州に下駄を回すイラン。 ジブラルタル海峡ではイランの密輸タンカーが英国に拿捕され、報復にイランはペルシャ湾の西側タンカーを脅かす・・・。 緊迫するイランをめぐる情勢は益々混迷を深めています。
 「何とかしろよ!」とイランに無茶振りされた欧州が、何とかしようとしている努力について、VOAの記事2019年7月9日付「European Leaders Call for Urgent Meeting on Iran」を軸にお話しします。
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ホルムズ海峡 (VOA記事 2019年6月16日付「US Guarantees Hormuz Shipping Passage」より)

<記事のポイント>
① 7月9日(火)に、イラン核合意締結国の英仏独とEUは、前日の国連の原子力機関(IAEA)のイランの核合意違反の確認を受けて、緊急の会議を開催。 会議は「イランの核合意からの数点の逸脱に対し、深刻に憂慮する」との共同声明を発出。欧州の指導者たちに対してイランは、遅滞なく核合意の枠内に復帰したいが、核合意の枠組み自体が元の完全な規定の遵守の体制に復帰しなければならないことを強調した。

② 欧州の指導者の中でも、マクロン仏大統領の外交努力は顕著。テヘランに大統領の外交スタッフを派遣するとともに、自らはイランのロウハニ大統領と電話で交渉し、7月15日までの間に核濃縮問題について解決を目指すことについて同意を得た。

③ 7月8日(月)IAEAは、イランが核合意のウラン濃縮3.67%までという基準を超えたことを確認したと発表。同日、イランの原子力エネルギー機関のスポークスマンは、上限値3.67%を超え4.5%程度にまで濃縮度を上げたこと、更なる20%以上の高濃縮の可能性にも言及した。米国の核合意離脱以降、イランは既に部分的に核合意違反をしているが、核合意締結国が米国の離脱や制裁の埋め合わせの支援をイランにしない場合は、更なる深刻な核合意違反に至る可能性を示唆して恫喝している。

④ 今回のイランの濃縮ウランの保管量増と高濃縮化の動きの脅威度については、2つの見方がある。オバマ政権時の交渉チームの一員でもあったコロンビア大学の研究者リチャード・ネヒュー氏は、今回の動きはイランの核開発の意図を示しており、数%の高濃縮化により核開発への道のりの数日から数週間の短期化を目指しているものの、核兵器保有に至るまではまだ一年ほどの期間がかかる、との楽観的認識。他方、保守ヘリテイジ財団の米海兵隊元中佐のダコタ・ウッド氏は、イラン核合意では既設の各施設の廃棄を課していなかったため、イランが300kg超の量と4.5%の濃縮ウランを宣言したからには、20%へ、そして更に90%への核兵器開発への道へひた走る実行可能性を示している、と深刻に認識。 両者とも見解が一致しているのは、イランは核合意違反という手段を、西側からの外交的譲歩を引き出すテコ入れに使っている、ということ。

<私見ながら>
○ トランプ米大統領に同意したくはありませんが、確かにイランが今していることは「危ない火遊び」です。トランプ米大統領が「気を付けるべきだ」というコメントをtwitterで発したのは親切心ではなくして、「コラッ!調子に乗っていると親軍事行動に出るぞ!」と言う恫喝です。

○ イランの身になって考えてみますと・・・。核合意を守っていたのに、昨年、米国からいわれのない中傷を受け、更に勝手に核合意から離脱され、厳しい経済制裁を受けました。特に、イランから原油を買わないように各国に呼びかけ、制裁やぶりをするなら米国市場から締め出すぞ、という恫喝までセットになっています。死活的国益である原油を各国に輸出できないイランは、1年経ってかなり制裁が効いて経済がひっ迫してきました。同じ核合意の締結国である英仏独中ロに「何とかしてよ!」と呼びかけます。これに対し、中国・ロシアは、米国の一方的離脱について米国を批判しています。実質的に中国は原油の密輸でイランを助けています。ロシアは戦略的沈黙を保っています。ゆえに、頼みの綱は大口輸出国でもあった英仏独と、加えてEUに対し、「何とかしてよ欧州さん!」と経済的支援を求めました。欧州はINSTEXという枠組みで、バーターなど米国ドルを介さずに欧州企業がイランと取引できるようにしました。しかし、原油が売れない損失の補填には程遠い状況。しかも、欧州企業は米国の制裁やぶりの企業への報復が怖くて腰が引けています。ついに、イランも堪忍袋の緒が切れて、伝家の宝刀「核開発に走っちゃうぞ」作戦に出ました。効き目は確かにあります。欧州も対応の目の色が変わりました。しかしながら、イランもレッドラインは守っているのではないかと考えられます。これ以上は、本当に米国が軍事行動に出る、そのラインは越えないようにしているのではないでしょうか。先日、米国のUAVを撃墜しましたが、あれは本当に空域に入ったのか不明ながら、緊迫した海空域にはよくある偶発的錯誤だと思います。しかし、あれが有人機だったら、イランももっと慎重だったのではないでしょうか。今回のウラン濃縮の高濃度化の件、3.67%越えとか4.5%とかはまだまだ十分に線を越えていません。さすがに今は可能性に言及している程度の20%に本当に達したら、それはラインを越えているでしょうね。結論、イランは、今はまだ欧州に頼みをつないでいるのでしょう。可愛げのない頼り方ですけどね。

○ 欧州の努力はどうでしょうか。欧州、と言っても各国それぞれの思惑は違うでしょうが、英仏独あたりの身になってみましょう。「おいおい、止めろよ。核合意に戻れって・・・」というのが正直なところで、さぞ憂慮しているでしょう。仕方ないので、欧州で知恵を絞ってINSTEXというあまり決定打ではないものの、何とかイランにも必需品が市場からなくならない程度の貿易枠組みを提示し、「我慢してくれ、大人しくしろって・・・」と心配しているところに、今回のイランの核合意破り宣言。これまた仕方がないので、欧州で集まって対応策を協議。しかし手詰まり・・・。何も決定打、イランへの効果的支援策がない。協議をしましたが、結局何ら具体的な対応策なし。それぞれの国を見てみても、英国もドイツももはや首相は任期も影響力も終末段階。フランスのマクロンさんくらいしか動ける人はいないのでしょうね。フランスとイランは以前から関係が深いこともあり、また、マクロン大統領のトランプ米大統領との関係も、言うべきことは言う姿勢を崩していないので、イランにとって「話せる相手」でしょう。しかし、それにしても決定打にならない・・。何よりの決定打は、トランプ米大統領に意見をして核合意に復帰させるとか、少なくとも各国にイランの原油を輸入することを禁ずるという制裁を止めることでしょうが、それは無理ですね。欧州はどうしたらいいのでしょうか?
  そんな折も折、7月4日(木)ジブラルタル海峡でイランの超大型タンカーがシリアへの密輸の疑いで英国の海兵隊に拿捕されました。英領ジブラルタル政府は14日間の差し押さえを認める決定をし、当然イランは猛抗議。タンカーの密輸について全面否定するとともに、「そう来るならホルムズ海峡で同様にお前らの船を拿捕するぞ!」とイランは恫喝。実際に、英国船籍のタンカーが一時拘束されたり、ホルムズ海峡を通れずに引き返すタンカーが出たりしています。原油を中東に依存する欧州にとっても、イラン情勢が正常化しないと、欧州の経済すら不安定化する状況なのです。

○ 私見ながら、当面の展望ですが、米国、イラン、欧州の首脳陣の合理的判断の観点では、まだレッドラインを越えていません。当面は緊張したまま推移するのではないでしょうか。他方で、経済的にきついのはイランですから、瀬戸際戦略をとる一方、アンダーで握る妥協案を模索し始めるでしょう。仲介は仏か日本か。仏の方が一歩先んじています。日本だって資格はあるのですが。選挙終わってからですかね。日本外交久々のヒットに期待しています。1980年代に安倍さんのお父さんが外相時代にイラン・イラク戦争の際に効果は左程でもないものの仲介しました。安倍さんは絶対意識していると思います。
  他方、怖いのは緊張下のホルムズ海峡での偶発的軍事衝突、或いは過激派のテロ。先日の英国タンカー一時拘束の際も、あれが米国タンカーだったら米国は特殊部隊による奇襲的奪還をするでしょうね。そしてそれは米国が限定的な作戦のつもりでも、イランにとっては宣戦布告になってしまいます。それが怖い。
  北朝鮮情勢より、今はこっちの正面の方が怖い正面です。

 (了)

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