ホルムズ有志連合に参加すべきか?
ホルムズ有志連合に参加すべきか?
<風雲急を告げるホルムズ情勢: ポイント>
① 2019年7月19日(金)に英国籍タンカーがイラン革命防衛隊に拿捕された。イラン側は同タンカーが漁船と衝突し、漁船からの無線に応えず逃走したためとしているが、英国側は「国家的海賊行為」と反発。
② その数時間後の同日、米国が米主導の有志連合海軍部隊の構想について説明会を実施し、日本を含む約60カ国が参集した模様。日本政府は現在検討中。
③ 同月22日(月)に英国ハント外相が英国議会にて、米主導ではない欧州海軍部隊によるホルムズ海峡の航路の安全確保を提唱。BBCによれば、既にハント外相は独仏の外相から基本合意を得ているとのこと。

Embassy of the Republic of Yemen in JapanのHPより「中東地図」 (http://www.yemen.jp/about_j.php)
<私見ながら>
◯ 湾岸情勢波高し
今ホルムズ海峡で起きていることは、4月〜6月の頃から比べると明らかに変調が見られるようになりました。あの頃は、正体不明の商船へのテロ的攻撃でした。7月現在の脅威は、正体不明の攻撃ではなく、明確にイラン革命防衛隊による商船の拿捕です。多分に、ジブラルタルでの英軍によるイラン籍タンカーの拿捕を契機とした、イラン革命防衛隊による主として英国籍商船に対する報復拿捕という脅威です。あれ?正体不明の攻撃って誰が犯人だったの?米国の言うようにイラン革命防衛隊だったのでしょうか?真相は闇の中となりました。ホルムズ海峡の現在の緊迫からすれば、当然かもしれません。米海軍、イラン革命防衛隊、英国海軍らが警戒態勢をとっていますので正体不明の攻撃はさすがに困難でしょうね。よって、ホルムズ海峡ではイラン革命防衛隊が脅威対象となっています。
他方、実は脅威があって情勢が緊迫しているのはホルムズ海峡だけではないのです。アラビア半島を右(東)向きの長靴に例えるとすれば、長靴の前側の足から甲の部分とイランに挟まれた袋小路の海域がペルシャ湾、そこからグッとチョークポイントになるつま先の尖った部分とイランに「へ」の字型に挟まれた海域がホルムズ海峡、そこから先の太平洋への出口にあたる海域がオマーン湾。まず、このペルシャ湾筋の海域全体が第一の緊迫の海域。次いで、長靴の後ろ側の足からかかとの部分とアフリカに挟まれた海域が紅海、かかとの部分とアフリカの角の付け根に「L」字型に挟まれたチョークポイントになる海域がバブエルマンデブ海峡、長靴の底とアフリカの角に挟まれた海域がアデン湾。この地中海〜スエズ運河を通って紅海筋の海域が第二の緊迫の海域です。勿論、双方ともチョークポイントの海峡が緊迫の焦点です。日本のマスコミがあまり報じないことですが、ペルシャ湾筋のホルムズ海峡のみならず、紅海筋のバブエルマンデブ海峡も非常に緊迫しています。前者はイラン革命防衛隊が脅威。後者はイエメンの反政府武装組織フーシ派です。サウジや米国は、フーシ派はイランが背後で操っていると見ています。サウジは紅海筋からの原油輸出タンカーが、このフーシ派の攻撃に晒されており、現在は出航していない状態で、サウジは日額35億ドルもの損失が続いています。
今世界の経済が直面している事態は、この二つのチョークポイント海峡が脅威に晒され、タンカーを中心とする商船の船主達が攻撃や拿捕を恐れて船を出すのに腰が引けるという状態なのです。
◯ 日本は米国主導の有志連合に加わるべきか?
結論から言うと「否」ですね。まず正論をかますと、米国主導では「反イラン」同盟とイランから目され、イランとの軍事的緊張は必ずや高まります。日本にとって、有力な原油輸入元であるイランとの関係を損ねるのは、避けたい。他方、米国との強固な同盟関係にある関係上、現実路線としては米国の呼びかけを無碍には袖に出来ないかもしれません。その場合は、今既に実施中の海賊対処行動の枠組みの範囲で可能な、バブエルマンデブ海峡の海域上空の哨戒機による警戒監視の情報を共有することで参加可能です。海自として特別な哨戒機の艤装等も必要なく、特措法等の必要もなく、現行の海賊対処行動の任務の一環として直ぐに実行できるものです。日本は、バブエルマンデブ海峡とは目と鼻の先のジブチに海賊対処行動の拠点を持っていますから。米軍もジブチにキャンプ・レモニエ基地があり、日米間の密接な連携も可能です。地域的にホルムズ海峡とは隔絶しており、イランと直接対峙することもなく、イランへの刺激も最低限でしょう。
◯ むしろ英国提唱の欧州海軍部隊に参加すべし!
むしろ参加すべきは、英国が提唱した欧州海軍部隊によるホルムズ海峡の安全確保でしょう。私見ながら、日本が言い出しっぺになった方が丸く収まったと思います。だって、英国はイランと相互にタンカー拿捕問題を抱えている状況ですから。加えて、英国政権がメイ首相からボリス・ジョンソン新首相に移行します。こいつは英国版トランプで、奇行や暴言・失言で有名な政治家であり、EU離脱の急先鋒なのでまずEU離脱は時間の問題。外交手腕も先行き不安なところがあります。イランからの見え方は、米国と一心同体ではないかと訝られ、英国が中立を守って海域の安全確保するようには映らないでしょうね。しかしながら、英国の問題はあるものの、イランにとって、この欧州海軍部隊構想と米国の有志連合海軍部隊とでは決定的な違いがあります。それは、イランにとって、前者は「核合意体制への復帰」を願う国々、後者は「核合意の否定/イランの危険性の除去」を主張する米国に同調する国々、となることです。イランの思いも前者です。後者に与する国々は、イランにとっては敵に見えるでしょう。
◯ 結論: 「英国提唱のホルムズ海峡安全確保に参加」を主とし、「米国主導有志連合に海賊対処の哨戒機による情報提供にて協力」を従とすべし。
正論を主とし、現実路線を従とする。これでいかがでしょうか。既に10年近い実績のある海賊対処行動は、極めて中立的で実効性のある実施中の作戦です。この海賊対処作戦を通じ、海上自衛隊は欧州海軍部隊とも非常に密接な協調関係を築いています。英国提唱の作戦により、イランも一定の尊重を示す中で、徐々に海域の緊張を緩和していくべきです。そしてそれこそが海域を航行する商船の安心に繋がります。米国主導の有志連合では逆に緊張を高め、一触即発状態になるでしょう。
国民の皆さん、海自は大丈夫!欧州部隊と密接に連携しつつ、海域の安定に寄与してくれますよ。
政府さん、選挙終わったんだから、待った無しですよ!
(了)


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<風雲急を告げるホルムズ情勢: ポイント>
① 2019年7月19日(金)に英国籍タンカーがイラン革命防衛隊に拿捕された。イラン側は同タンカーが漁船と衝突し、漁船からの無線に応えず逃走したためとしているが、英国側は「国家的海賊行為」と反発。
② その数時間後の同日、米国が米主導の有志連合海軍部隊の構想について説明会を実施し、日本を含む約60カ国が参集した模様。日本政府は現在検討中。
③ 同月22日(月)に英国ハント外相が英国議会にて、米主導ではない欧州海軍部隊によるホルムズ海峡の航路の安全確保を提唱。BBCによれば、既にハント外相は独仏の外相から基本合意を得ているとのこと。

Embassy of the Republic of Yemen in JapanのHPより「中東地図」 (http://www.yemen.jp/about_j.php)
<私見ながら>
◯ 湾岸情勢波高し
今ホルムズ海峡で起きていることは、4月〜6月の頃から比べると明らかに変調が見られるようになりました。あの頃は、正体不明の商船へのテロ的攻撃でした。7月現在の脅威は、正体不明の攻撃ではなく、明確にイラン革命防衛隊による商船の拿捕です。多分に、ジブラルタルでの英軍によるイラン籍タンカーの拿捕を契機とした、イラン革命防衛隊による主として英国籍商船に対する報復拿捕という脅威です。あれ?正体不明の攻撃って誰が犯人だったの?米国の言うようにイラン革命防衛隊だったのでしょうか?真相は闇の中となりました。ホルムズ海峡の現在の緊迫からすれば、当然かもしれません。米海軍、イラン革命防衛隊、英国海軍らが警戒態勢をとっていますので正体不明の攻撃はさすがに困難でしょうね。よって、ホルムズ海峡ではイラン革命防衛隊が脅威対象となっています。
他方、実は脅威があって情勢が緊迫しているのはホルムズ海峡だけではないのです。アラビア半島を右(東)向きの長靴に例えるとすれば、長靴の前側の足から甲の部分とイランに挟まれた袋小路の海域がペルシャ湾、そこからグッとチョークポイントになるつま先の尖った部分とイランに「へ」の字型に挟まれた海域がホルムズ海峡、そこから先の太平洋への出口にあたる海域がオマーン湾。まず、このペルシャ湾筋の海域全体が第一の緊迫の海域。次いで、長靴の後ろ側の足からかかとの部分とアフリカに挟まれた海域が紅海、かかとの部分とアフリカの角の付け根に「L」字型に挟まれたチョークポイントになる海域がバブエルマンデブ海峡、長靴の底とアフリカの角に挟まれた海域がアデン湾。この地中海〜スエズ運河を通って紅海筋の海域が第二の緊迫の海域です。勿論、双方ともチョークポイントの海峡が緊迫の焦点です。日本のマスコミがあまり報じないことですが、ペルシャ湾筋のホルムズ海峡のみならず、紅海筋のバブエルマンデブ海峡も非常に緊迫しています。前者はイラン革命防衛隊が脅威。後者はイエメンの反政府武装組織フーシ派です。サウジや米国は、フーシ派はイランが背後で操っていると見ています。サウジは紅海筋からの原油輸出タンカーが、このフーシ派の攻撃に晒されており、現在は出航していない状態で、サウジは日額35億ドルもの損失が続いています。
今世界の経済が直面している事態は、この二つのチョークポイント海峡が脅威に晒され、タンカーを中心とする商船の船主達が攻撃や拿捕を恐れて船を出すのに腰が引けるという状態なのです。
◯ 日本は米国主導の有志連合に加わるべきか?
結論から言うと「否」ですね。まず正論をかますと、米国主導では「反イラン」同盟とイランから目され、イランとの軍事的緊張は必ずや高まります。日本にとって、有力な原油輸入元であるイランとの関係を損ねるのは、避けたい。他方、米国との強固な同盟関係にある関係上、現実路線としては米国の呼びかけを無碍には袖に出来ないかもしれません。その場合は、今既に実施中の海賊対処行動の枠組みの範囲で可能な、バブエルマンデブ海峡の海域上空の哨戒機による警戒監視の情報を共有することで参加可能です。海自として特別な哨戒機の艤装等も必要なく、特措法等の必要もなく、現行の海賊対処行動の任務の一環として直ぐに実行できるものです。日本は、バブエルマンデブ海峡とは目と鼻の先のジブチに海賊対処行動の拠点を持っていますから。米軍もジブチにキャンプ・レモニエ基地があり、日米間の密接な連携も可能です。地域的にホルムズ海峡とは隔絶しており、イランと直接対峙することもなく、イランへの刺激も最低限でしょう。
◯ むしろ英国提唱の欧州海軍部隊に参加すべし!
むしろ参加すべきは、英国が提唱した欧州海軍部隊によるホルムズ海峡の安全確保でしょう。私見ながら、日本が言い出しっぺになった方が丸く収まったと思います。だって、英国はイランと相互にタンカー拿捕問題を抱えている状況ですから。加えて、英国政権がメイ首相からボリス・ジョンソン新首相に移行します。こいつは英国版トランプで、奇行や暴言・失言で有名な政治家であり、EU離脱の急先鋒なのでまずEU離脱は時間の問題。外交手腕も先行き不安なところがあります。イランからの見え方は、米国と一心同体ではないかと訝られ、英国が中立を守って海域の安全確保するようには映らないでしょうね。しかしながら、英国の問題はあるものの、イランにとって、この欧州海軍部隊構想と米国の有志連合海軍部隊とでは決定的な違いがあります。それは、イランにとって、前者は「核合意体制への復帰」を願う国々、後者は「核合意の否定/イランの危険性の除去」を主張する米国に同調する国々、となることです。イランの思いも前者です。後者に与する国々は、イランにとっては敵に見えるでしょう。
◯ 結論: 「英国提唱のホルムズ海峡安全確保に参加」を主とし、「米国主導有志連合に海賊対処の哨戒機による情報提供にて協力」を従とすべし。
正論を主とし、現実路線を従とする。これでいかがでしょうか。既に10年近い実績のある海賊対処行動は、極めて中立的で実効性のある実施中の作戦です。この海賊対処作戦を通じ、海上自衛隊は欧州海軍部隊とも非常に密接な協調関係を築いています。英国提唱の作戦により、イランも一定の尊重を示す中で、徐々に海域の緊張を緩和していくべきです。そしてそれこそが海域を航行する商船の安心に繋がります。米国主導の有志連合では逆に緊張を高め、一触即発状態になるでしょう。
国民の皆さん、海自は大丈夫!欧州部隊と密接に連携しつつ、海域の安定に寄与してくれますよ。
政府さん、選挙終わったんだから、待った無しですよ!
(了)


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