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2018/08/31

マクナマラの教訓: ⑥フォード社を立て直したウィズキッズ


<映画「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」に学ぶ ⑥フォード社を立て直したWhiz Kids(ウィズキッズ)>

 映画では、第2次大戦中の日本本土空襲の話の後、インタビューアーでもあるモリス監督は、いよいよマクナマラ氏に尋ねたかった本丸のベトナム戦争について切り込みます。しかし、マクナマラ氏は「その話をするのは、冷戦の文脈の中でアプローチする必要がある。まず終戦のところから話させてくれ。そこからベトナム戦争の件に入ろう。」と言い、戦後に入社したフォード社でのエピソードに入ります。同社の立て直しに尽力した頃のマクナマラ氏とその仲間達の話を軸に、6番目の教訓「数値的データに基づいて考えよ。Get the data. 」について反芻してみたいと思います。

 大戦間、ハーバード大学院の助教授だったマクナマラ氏をはじめとする英才達は統計管理局に属し、統計学的分析手法で様々な問題解決に寄与する仕事をしており、陸軍航空隊(のちの空軍)の戦略爆撃に寄与してきました。チームワークの良かったこの仲間たち10名は、戦後まとまってフォード社に自分たちを売り込み、結果的に幹部要員として採用されます。当時フォード社は戦時中の軍需(特需)が無くなり経営が傾き、また、創業家の同族経営で社内の組織、経営方針、人事等も閉塞感があり、危機的状況になりつつありました。大企業フォード社の1000名もの重役達のうち大学卒業しているのは10名ほどしかおらず、自分たちの仕事のやり方を必要としているに違いない、と考えた彼らは自ら売り込んだといいます。後にWhiz Kids(ウィズキッズ)と呼ばれたこの英才10名は、統計管理局時代のIBMコンピューターを駆使した卓越した作業効率と統計学的分析手法で軍からも高く評価されていたため、傾きかけたフォード社の社運を賭けた新人幹部要員となりました。写真はフォード社に入社したウィズキッズ達(最前列10名。最右翼がマクナマラ氏です。)です。
Whizkids_Ford.jpg

 ウィズキッズ達が取り組んだフォード社の立て直しは、まず会社自身の健康診断から入り、効率性向上のための組織改革や大幅な不採算部門のカットなど様々な取り組みがありますが、マクナマラ氏がエピソードとして話題に選んだのは、会社としての利益を生むのは自動車の販売なので、車種とその際の着意事項についてでした。すなわち、当初高級車志向だった主力車種をもっと一般大衆向けの大衆車志向へ転換するとともに、当時まだ注目されていなかったシートベルトの着用などの安全性の向上でした。

 マクナマラ氏は、フォード車が売れるヒントを得るために当時まだフォード車にはなかった市場調査チームを作り、一見冴えない車に見えるものの根強い売れ筋車であるフォルクスワーゲンに目をつけ、なぜ売れるのかを調べます。その調査の中で、オーナーがなんと弁護士や医者などの比較的裕福にして社会的地位のある人達であることに気づきます。購買者層が比較的裕福でありながらワーゲンに乗っている・・・。同氏は、当時の米の自動車産業自体がキャデラックなどの高級車志向でしたが、市場を読み違えていると判断し、思い切って一般大衆向けのお手頃価格でしかも安全な大衆車を開発します。

 この安全性向上のための取り組みが同氏らしいエピソードであり、今回の教訓6「数値的データに基づいて考えよ。」に至ります。
 マクナマラ氏は、戦後経済が伸び盛りで動き出した米国において交通事故が問題になってきたことに着目、なぜ事故が起きるのか?を調べます。すると、年間4万人もの死亡事故、100万人もの負傷の原因は人為的ミスと機械的な、すなわち自動車自体の問題、と分かります。自動車自体の機械的な問題があるのならそれは改善すべきである、と同氏は動き出します。しかし、更なるデータを求めますと、そもそもデータがないという問題に突き当たります。データがないなら自分たちでデータを取ればいい、とばかり調査と実証実験に取り掛かります。このバイタリティーがいかにもマクナマラ氏ですね。ある研究所の意見として、運転者はハンドルに、同乗者はフロントガラスやダッシュボードにぶつかって死傷している、ということは自動車の乗員の死傷の原因は乗員を包む自動車自体のパッケージではないか、との仮説の下、階段の上から様々にパッケージした頭蓋骨を落とすなど、実証実験でデータを積み上げます。そうした数値的データを積み上げて分析した結果、これまでの米国の(世界かも)自動車産業にはなかった安全性の向上策として、ハンドルやダッシュボードの改善、更にシートベルトの推奨を導入しました。束縛を嫌うアメリカ人のことですし、一般にシートベルトは抵抗感があったと思いますが、同氏はシートベルトを着用すれば死傷者は絶対減る、との信念で車社会のアメリカにこれらの安全性向上策を定着させるキッカケを作ったわけです。
 

 今回の教訓「数値的データに基づいて考えよ。Get the data. 」は、ウィズキッズ達がフォード社の会社立て直しに尽力した頃のエピソードで語られました。(ちなみに、ウィズキッズらの尽力でフォード社は大企業として息を吹き返し、中でもマクナマラ氏はその指導力を買われて、同族経営のフォード社で初めてのフォード家外出身の社長に指名されます。)同氏自身が元々統計学的手法で効率性を追求する専門家であったこともあり、売上向上のため市場調査した結果、高級車志向から大衆車志向に切り替えて成功したこと、また、自動車事故の人的被害局限を検討した際、実験データに基づく論理的帰結として「安全ベルト着用」を推奨するという先見の明のある施策をとったこと、という教訓でした。しかし、私見ながら、同氏が統計学的手法で効率性を追求する専門家であったことから、勤務先がどこであれ、第2次大戦中も、大学在勤中も、フォード社在勤中も、そして国防長官としても(更に国防長官辞任後の世界銀行総裁在任中も)、自分の職務遂行上のスタンスとして、常にデータに基づく効率化を追求をしていた、と言えましょう。国防長官の時もお抱えの「ウィズキッズ」チームを編成し、自分の状況判断に資するデータを収集・分析・評価させていましたから。
(了)

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