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2019/10/10

トルコのシリア国境侵攻の行方

  IS掃討が概ね終了した中東に新たな火種が生じ、波紋を呼んでいます。10月9日、トルコがシリア国境を越境してクルド人勢力に対する侵攻作戦を開始。10月6日トランプ米大統領と電話会談をしたトルコのエルドアン大統領は、IS掃討で米軍が友軍として支援したクルド人勢力の地域から米軍部隊が撤退する旨のトランプ大統領の言質を得て、その3日後の10月9日から侵攻を開始。この侵攻作戦により、IS勢力が再び息を吹き返すことが近隣各国や米国などから懸念されています。このトルコのシリア国境への侵攻作戦の行方について、VOAの2019年10月9日付記事「Turkey Faces Calls for Restraint in Syria Offensive」が報じていました。

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トルコ軍のシリア侵攻による砲爆撃から逃げるシリア北部の市民 Civilians flee amid Turkish bombardment on Syria's northeastern town of Ras al Ain in the Hasakeh province along the Turkish border, Oct. 9, 2019.

<状況>
① 10月9日(水)にクルド人勢力に対するシリア侵攻を開始したトルコは、西側同盟国やロシア・イランにも自制を強く促され、侵攻作戦を抑制せざるを得ない状況に直面している。

② IS掃討がひと段落ついて以降、米軍と組んでISと戦ってきたクルド勢力が主導するシリア民主軍=SDF(トルコから見れば、母体はトルコにとってテロリスト勢力であるYPG組織)に対して、トルコ軍はシリア国境に部隊を集中させて対峙してきた。米国はトルコに対して、ISが喜ぶだけだから侵攻すべからずと諌めてきた。にも拘らず侵攻した形。米国も業を煮やしている。
また、ロシアとイランは、ISとの戦いではシリア政府軍を支援しており、トルコとは違う軸からIS掃討戦を戦ってきた。ロシアとイランは、シリア国境はシリア政府軍をもって統治すべきものと認識しており、トルコ-シリア国境地域でのトルコ軍の勢力拡大、況や侵攻作戦など、ロシアやイランは許容しない。

③ 他方、トルコのエルドアン大統領は、シリア侵攻作戦への国民世論の強い追い風で板挟み状態に陥っている。トルコ世論は、この侵攻によりクルド勢力の掃討とIS拘留者の拘留施設、更にシリアからの難民をトルコからシリア領内に移設することを熱望している。エルドアン大統領にしてみれば、大統領の信任がかかっており、国民世論に背は向けられない。

④ 行き場を失うのがトルコからシリア側に拠点を移したクルド人武装勢力。トルコのシリア越境侵攻・クルド勢力の掃討戦により、さすがにNATO加盟国中でも第2の勢力を有するトルコ軍と戦うのでは勝ち目がない。クルド人武装勢力を母体としたシリア民主軍(SDF)の指揮官はシリア政府軍との協調態勢でトルコ軍と戦うことに方向転換する模様。シリア内戦前には、シリア政府軍にはさんざん抑圧されてきたのにもかかわらず、という辛い選択。

<私見ながら>
◯ 記事にあるように、トルコのエルドアン大統領は強い国民の支持と世論に背中を押されてシリア侵攻に踏み切ったものの、米国始めロシアやイランにも諌められ、引き返したいものの国民世論との板挟み状態。というところです。

○ シリアでのIS掃討戦では計3コの反IS の勢力が3軸でそれぞれISを追い詰めました。トルコ国内ではテロリスト集団と位置付けられていたクルド人武装勢力が米軍とタッグを組んで大活躍、シリア北部のトルコとの国境沿いの地域をクルド勢力が支配する地域としました。ロシアとイランはアサド政権のシリア政府軍を徹底的に支援し、政府軍も息を吹き返して今や国土の大半を掌握。そしてもう一つの軸がトルコ軍です。
   トルコにとってクルド人は歴史的に仇敵。トルコ国内では、クルド人勢力はテロ集団に位置付けられています。これが力をつけてシリア国境の向こう側にシリア国家を作るくらいの勢いで存在すると、トルコ国内の虐げられたクルド人を勇気づける形で刺激します。これがトルコ人には我慢ならないのです。「クルドはシリア国内の拠点ごと、潰してしまえ!」というのがトルコ世論。ついでに、「シリア内戦間にトルコに逃げてきたシリア難民をシリアに強制的に返したい!」というのも正直な世論。エルドアン大統領自身もそういう発言をしてきたことで国民の支持を得てきました。さぁ。退くに引けない。
   恐らくは、「侵攻作戦は一定の成果を得た」と位置付けて、早晩引き上げることでしょう。元々、領土的野心ではないので、クルド人武装勢力を叩いて、押し込んでから国境を固めて、トルコには入ってこれないようにすることで国民世論への落としどころを確保。早期の侵攻停止・撤退により米国はじめとする西側同盟国にも顔を立て、シリア領地を去りシリア政府軍とは対決しないことで、ロシアやイランにも配慮する形で、今回の勇み足には幕を引くのではないでしょうか。

○ そして可哀想なのがクルド人、国家を持てずに中東山岳地帯に広く分布する民です。シリア内戦で、やっと米軍と組んで活躍の場を得、自らの安住の地をシリア北部に掴みかけ、そして今また流浪する運命に・・・。トルコが侵攻停止・撤退しても、統治・君臨するのはアサド政権のシリア政府軍。クルドの民は、安住の地を見つけられるかどうかは分かりません。

○ この状態を招いたのが他ならぬトランプ米大統領です。以前、トランプ大統領を支える閣僚にマチス国防長官がいた頃、マチス国防長官がトランプ大統領に更迭されるまで徹底的に反対してきたのがこのシリアからの米軍撤退問題なのです。少数の米軍部隊でよいから、共に戦ったクルド人勢力の安全が確保(例えば、シリア北部にクルド人自治州ができる、など)されるまでこの地にいることで、米軍部隊自らがトルコの侵攻や航空攻撃や砲爆撃を抑止する人間の盾となっていました。トランプにはこれが我慢ならない。お金の無駄。そしてベトナムやアフガンのような泥沼の素に見えてならないのです。大統領選挙の間の討論でもろくに考えずに撤退を口走っていました。マチス国防長官にはそれが危なっかしくて仕方がなく見えたのです。しして、身を挺して止めて、その挙句に更迭されました。でもトランプにしてみれば昨年末のマチス更迭・米軍撤退決定発言以来、10ケ月以上遅らせただけでも上出来なのかもしれません。そして今回、やはりマチスの心配していたことが現実化しました。いやー、反トランプの人々にはトランプ攻撃の格好のネタを提供した形ですね。トランプ大統領はこの責めに耐えねばならないでしょう。
  よく、トランプ大統領は We’ll see. =まぁ、お手並み拝見と行こうか、 と言いますが、マチスさんはこう言っているでしょう。 バカ野郎、お前がこの現実(結果)をよく見ろ! Fuck you! Now, you have to see the reality.


(了)


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