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2019/10/24

トルコ停戦、米軍シリア撤退、クルド戦線異状なし

 10月17日にトルコが米国と交渉の上で5日間の停戦を決めて以来、細々とは事象は起きているものの、概ねトルコ-クルドの状況に異状は無い模様です。勿論、米軍のシリア領内クルド人地区からの撤退に際し、クルド人から腐ったイモを投げつけられたり、トルコ-クルド間で小さな衝突が起きたり、いろいろ起きてはいます。しかし、トルコ-クルド双方に大きな停戦合意違反があったり大きな軍事衝突に至るような事象は起きていません。 2019年10月21日付VOA記事「US Military Crosses Into Iraq From Syria 」及び同年同月21日付VOA記事「US Keeping Troops Near Syrian Oil Fields」の報道から、その状況を整理し、私見を述べさせていただきます。

<状況>
① 10月21日(月)、シリア領内クルド人地区に駐留していた米軍部隊の100両を超える車両縦隊が、シリアからイラクへと撤退。米軍部隊は米国へ帰国するわけではなくイラクに留まり、イラクのみならずシリアでのISのテロや復活抑止に従事する模様。

② トルコは、これまでの停戦期間に概ね停戦合意通りに矛を収めており、対するクルド人勢力側も概ね停戦合意を守って緩衝地帯以南に離脱している。

③ トランプ米大統領は、トルコの停戦合意違反が起こらないよう、違反した場合には直ちに経済制裁を課す旨発言。トルコのエルドアン大統領は、クルド側が停戦期間内に緩衝地帯以南に撤退しなければ再び戦闘を開始すると豪語。(ちなみに、VOA記事には言及がないものの、日本のマスコミ報道では、クルド民主防衛部隊側は撤退の意思を表明している。)

④ この間、小規模の停戦合意違反や軍事衝突は双方で発生した模様。また、クルド人による撤退する米軍部隊への抗議の意を込めた立ち塞がりや物を投げるなどの行為が散見された。しかし、いずれも大事に至らず。

⑤ 米国は、シリア領内クルド人地区の米軍約700名を撤退させた一方、シリア領内の油田地帯をクルド民主防衛部隊の要員とともに防護している旨、明らかにした。ここを防護しても、石油そのものはクルドでも米国でもなく、シリア政府の所有となる。

<私見ながら>
○ 見通しは「不透明」「混乱」?、私見ながら楽観視しています
日本のマスコミ報道には、停戦の行方に「不透明」、「早くも相互に隔たり」、「情勢は混乱へ」等の見方が多いようです。ジャーナリストっていうのは、不安をあおると言ったら言い過ぎかもしれませんが、不透明性・不確実性・不安定性をものの見方の尺度にしているようです。例えば、10月19日付の日経新聞「シリア停戦合意、米・トルコで解釈に隔たり」では、見出しの通りトルコと米国の不協和音を報じています。勿論事実に基づく報道なので、見方によってそう捉えてもおかしくはないと思いますが。しかしながら、私は、私見ながら楽観視しています。

○ 退くのも方便、クルドは死なず。必ずやまた立ち上がりますよ。
勿論、クルド人にとって今回の米軍撤退やトルコのシリア侵攻やクルド人勢力討伐は、憤懣やるかたなく悔しいと思います。共にIS打倒のために戦った米軍に裏切られたかのように傍から離れられ、国境を挟んで同じクルド人同志で半ば自由に行き来できるこの世の春を謳歌していたのにトルコに追い立てられ、それはそれは我慢の限界を超える悔しさの中で毎日を過ごしていると思います。しかし、だからと言ってトルコと徹底抗戦するしかないのか?というと、その道には地獄しか待っていない。トルコ軍とクルド民主防衛部隊の正規戦に勝ち目は全くない。だったら、停戦の間に追い立てられない緩衝地帯以南に移動して、シリア内で生活基盤を再設定する方がまし。可哀想だが、これが現実的な生き残りの道ではないでしょうか。シリアでの生活も、シリアのアサド政権は決して温かくはないでしょう。また弾圧されることも十分考えられます。
   でもですね、可哀想だが本当の話、クルド人はこれまでずっとその悔しさに耐えてこの地に生きてきた民族なのです。これまでの現実の歴史がそれを証明しています。(ヤジディの民も同様)よって、今回の悔しさも噛みしめながら耐える道を選ぶものと思います。それは、クルドが実は芯が強い戦う民族だから。シリアのダマスカスに銅像があるアラブやイスラムの英雄サラディーンはクルド人。十字軍の遠征からイスラムを、アラブを、そしてエルサレムを守り切った英雄です。私のブログの前々回の写真見ました?これがクルドの戦士の顔。

afp_sdf.jpg
Members of the Kurdish-led Syrian Democratic Forces (SDF) are pictured during preparations to join the front against Turkish forces, near the northern Syrian town of Hasakeh, Oct. 10, 2019.(2019年10月14日付VOA記事「Kurds Strike Deal with Syrian Army to Counter Turkey」より)

   見てくださいよ、この顔。彼らの顔は打ちひしがれた流浪の民のそれではなく、戦い続ける少数民族の侍たちの顔ですよ。偉いなと思うのは、荒んでない。アジアで言えばグルカ兵の顔ですね。見ていてください、彼らは、当面はシリアのアサド政権に従って、ロスケ(ロシア)にも取り入って、必ずや、シリア領内に辛うじて自治を勝ち取りますよ。クルドの老若男女に生計を立てる基盤を確保し、力をつけるでしょう。彼らがシリア内で力をつけることが、あちこちの国にいるクルドのコミニティの精神的支柱となるでしょう。世が世なら、共に戦いたいくらいですよ。それも面白いかもしれませんね。
   これまでも歴史的にこれに類したことが何度もあったのです。オスマントルコの崩壊で、西欧に人為的国境を作られ、羊や山羊とともに山岳地帯を放牧して歩く民だった戦闘民族クルドの民は、分断されて各国に住むようになり、各国の事情でクルドの言葉や文化を否定されたりする抑圧を受けながら生活してきました。戦闘民族クルドのことなのでその都度、抵抗しては弾圧されて。一方、したたかな一面もあるクルドは、ソ連に取り入って第二次大戦直後にイラン領内に国を持ったこともありました。しかし、庇護していたソ連軍が去った後にイランに攻め込まれて結局は幻に終わったことも。あれ?今回に似てませんか?彼らは不屈の魂で、多民族の圧政や弾圧に耐えながらも、ずっと頑強に抵抗し、時に徹底的なゲリラ戦やテロでその国を苦しめてきました。そんな素朴にして我慢強く、それでいてしたたかで不屈の頑強さを持つ戦闘民族、それがクルド。
   ・・・そんな読みをしているのは、私の感情移入でしょうか。しかし、クルドよ、ここは我慢のしどころ、退いた方がいい。力をつけて、また立ち上がろう!、という私の勝手な思いかもしれませんが。

○ クルド戦線異状なし、その心は「いろいろ小事はあっても、大事に至らず。それを軍事では『異状なし』と呼ぶ。」
   「西部戦線異状なし」というヘミングウェイの傑作がありますね。「異状なし」で片づけられる報告に、その裏ではいろんなドラマや悲劇があるわけです。それでも、国際情勢、国際紛争、安全保障や危機管理の現実論から言えば「異状なし」程度のことなのです。
   国際情勢、安全保障、危機管理を学ぶ若い皆様には、国際情勢の実相にウェットに感情移入する情熱と、それでいて客観的な現実論から俯瞰する視点の両方を持っていただきたい。そんなことを学ぶ上で、今回のクルド戦線は良い題材です。

(了)



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