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2023/10/21

ガザ紛争のアンダーでハマス~ヒズボラ~イラン~ロシアの紛争拡大画策リンケージ: 米軍は紛争拡大防止作戦 

バイデン大統領とハメネイ師
左:10月19日夜の大統領執務室からの演説でバイデン大統領はイランにガザ紛争に関与するなと警告、 右:イランの最高指導者ハメネイ師 (画像: 2023年10月19日付Newsweek記事「Biden Talks Tough on Iran in Clearest Break With Obama-Era Policy」より)

イエメンの反政府勢力フーシ派の発したミサイルを米海軍が紅海上で迎撃
 2023年10月19日、米国防総省は、紅海北部の米海軍誘導ミサイル駆逐艦がイエメンでイランが支援するフーシ派勢力によって発射された複数のミサイルとドローンを撃墜した、と発表しました。

 さて、これが何を意味するかというお話です。

米軍は中東・イスラエル周辺に米海軍艦艇を派遣し地域の紛争拡大防止のため作戦中
 結論から言うと、今回フーシ派はガザのハマスを支援するためイスラエル攻撃のためにミサイルやドローンを発射したものだが、紅海上で米海軍の迎撃ミサイルで撃破された、というものです。この意味するところは、ガザ地区のハマスは、初めから単独でイスラエルに勝てるとは思っておらず、イスラエル・ガザの紛争を火種に、イスラエル周辺の親パレスチナ・反イスラエルを標榜する各地の過激派と連携して、正規の軍事作戦ではなく非政府主体のテロ攻撃で対イスラエル攻撃を実施することで、地域紛争に拡大させようという腹なわけで、米国はそうはさせじと、米海軍の空母をはじめとした艦艇をイスラエル周辺海域に派遣するとともに、衛星情報をはじめ中東地域に張り巡らした情報網で地域の過激派等の動向を監視し、今回のイスラエル・ガザ紛争のこの地域への紛争拡大防止のために、アンダーで軍事作戦を展開している、ということなのです。

 要するに、テレビ・新聞等で見るガザの惨状、イスラエルの空爆の苛烈さ、被害を受けて逃げ惑うガザ市民、ケガをした子供を抱きかかえて病院に走る市民、・・・、という光景から見えていない背景の世界において、アンダーで、実は米軍が事前展開しており、周辺海域等で紛争を拡大しかねない周辺の過激派からの攻撃を未然に潰しているのです。米国側から言えば、「紛争の拡大防止」、ハマスから言えば「米軍が既に参戦し、イスラエルを防護する戦闘を実施中」という状態なのです。

イスラエル・ガザ紛争とウクライナ侵攻とのリンケージ
 この米軍の作戦の防止する目的にもなっている「地域紛争の拡大」というのはいったい何なのか? 

 点と線的に述べるため、まず、単に起きている事象を「点」として列挙しますと、
・ 2023年10月7日、パレスチナ・ガザ地区の過激派組織ハマスは、青天の霹靂的に越境してイスラエルを攻撃しました。これまでにない最悪の事態の幕開けとなりました。
・ これにイスラエルが報復のためにハマスを狙った空爆をしました。これまた史上最悪の被害(パレスチナの一般市民を巻き添えに)を出しています。イスラエル側は1,400人以上と報じ、ガザのハマス側は4,100人もの死亡者を出した模様です。
・ 今回のハマスのイスラエル攻撃のバックにいると言われているのが、レバノンを根拠地とするヒズボラです。ヒズボラはイスラエルと永く抗争しており、レバノンの民心も離れつつある状況です。ハマスに武器や資金を供給しており、今回のハマスのイスラエル攻撃でも、ヒズボラの関与が指摘され、またヒズボラ自体もハマス支援を公言しています。
・ 米国は、今回のイスラエル・ガザ紛争を踏まえ、イスラエル周辺海域に空母ほかの艦艇を派遣し、洋上で展開させています。
・ イエメンにおいて、元々この地域の過激派の一派であるフーシ派は、反政府勢力としてイエメン政府をはじめ周辺国にも攻撃しており、イエメンの内戦を激化させています。
・ イランは、核開発問題や人権問題で西側諸国はじめ国際社会から厳しい経済制裁を長年にわたって受けており、慶座疲弊が著しい状態です。他方、中東、アフリカ地域において、主としてイラン民族の信奉するイスラム教シーア派の同志の勢力を支持・支援しており、その担い手がイラン革命防衛隊であり、イラン革命防衛隊は前述のフーシ派やヒズボラを含めて、地域の過激派組織を支援し、軍事訓練や武器の供与をしています。特に、イエメンのフーシ派とコンビで、反米、反西側、反イスラエル、反サウジアラビアを標榜し、紅海、アデン湾、ペルシャ湾、アラビア海の海域でたびたびテロ攻撃を実施しています。また、ロシアを支援し、ミサイルやドローンをはじめとした武器・弾薬・装備品の主要な供給国となっています。
・ 他方、ヨーロッパ大陸において、ロシアはウクライナ侵攻を実施中。当初の支配地域拡大から一転、ウクライナの反転攻勢を受け、今や戦線は膠着しつつも押され気味状態で、西側はじめ国際社会からの経済制裁を受け、経済疲弊と物資不足、民心の離反等、厳しい状況を抱えながら戦争を継続しています。

 既述のそれぞれの点は線で結ばれるわけです。
 要するに、今回のハマスのイスラエル攻撃は、ヒズボラが支援し、そのヒズボラをイランがバックアップし、更にその背後にロシアがいて、イスラエルをめぐる新たな紛争の拡大を画策することで、パレスチナ問題の好転やイスラエルの弱体化、地域過激派の伸張、ひいてはウクライナ侵攻の最大の難敵である米国はじめ西側諸国のウクライナ支援の結束を崩そうという「ウクライナ侵攻の戦況打開」にリンケージしています。

リンケージを暗示する有力者の発言
 関連情報として、
 10月19日の米大統領の大統領執務室からの演説において、バイデン大統領はパレスチナ・ガザ地区のハマスやイエメンの反政府勢力フーシ派を支援するイランに対して、かなり強い言葉でイスラエル・ガザ紛争への関与に警告を発しています。バイデン大統領は、上記の件のフーシ派がイスラエルへの攻撃を行ったなどとは全く触れていませんが、米国防省の報道官の発表との時期的吻合から言って、間違いなく、フーシ派のバックにイランがいることを念頭に置いた発言です。また、バイデン大統領は、この際、バイデン大統領は、イスラエル・ガザ紛争を画策・関与・介入しようとしているイランに対して警告を発するとともに、ウクライナに侵攻するロシアに言及しています。暗に「ロシア」~「イラン」~「ヒズボラ・フーシ・ハマスなどの地域の過激派」のコネクションに対する警告です。
(参照: 2023年10月19日付Newsweek記事「Biden Compares Putin to Hamas as US Navy Takes Rare Action to Defend Israel」)

 また、イスラエル当局はロシア国営テレビにて、今回のハマスのイスラエル攻撃の背後にロシアのプーチン大統領あり、との論理で、プーチン大統領に警告を発しています。発言の主は、イスラエル与党リクード党の有力議員で、イスラエル政府当局として次のような発言をしています。

 「我々はこの戦争を早期に終わらせるつもりだ。我々は戦力優勢であり勝つだろう。そして、この後、ロシアは代償を払うことになる。ロシアはイスラエルの敵を支援している。我々は今回の攻撃を決して忘れない。我々はウクライナを支援し、その勝利を確実する。我々は、ロシアがしたことの代償を確実に支払わせるのだ。」
(参照: 2023年10月19日付Newsweek記事「Israeli Official Issues Warning to Putin on Russian State TV」)

私見ながら
 米国がこうした地域紛争拡大を防止するための取り組み・軍事作戦をアンダーで粛々と実施している、という事実については、日本のように自国の防衛しか眼中にない国からすれば、「お務めご苦労様です」という感じです。米国は結構悪党でロクでもないこともしますが、その一方、過去に言われた「世界の警察官」的な苦労貧乏のようなことを、アンダーでコツコツと果たしているのです。その辺は真に頭の下がる思いです。素直に称賛したいと思います。

 イスラエル・ガザ紛争の早期の停戦、沈静化を祈ります、
 いわんや、紛争拡大、更なる悲劇の拡大に至りませんように、
 本丸のロシアのウクライナ侵攻を早期に押し戻し、早期に停戦・沈静化しますように、
 頑張れ!ウクライナ

(了)

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2023/10/18

イスラエルのガザ攻撃前夜: 軟着陸説「比較的短期間でハマスを掃討、パレスチナ自治政府がガザ統治へ」

ガザ病院
イスラエルによるガザ病院への空爆の惨状 (画像: 2023年10月18日付BBC記事「Watch: Fire after Gaza City hospital blast」より)

地上侵攻前夜
 2023年10月初旬のパレスチナガザ地区のハマスによるイスラエルへの急襲に端を発して、双方の苛烈な報復に加えて、ガザ地区では既に3,000人の命が奪われ100万人以上が家を追われた状況で、10月18日現在、イスラエル軍がガザ地区を包囲する形で集結中であり、ガザ地区北部への地上侵攻が今や遅しと懸念される状況です。既にイスラエル政府が示したガザ地区北部からの退避勧告の期限は過ぎています。事態の鎮静化のため、米国のバイデン大統領がイスラエルを来訪し、イスラエルのネタニヤフ首相やパレスチナ自治政府のアッバース議長と会談を予定していましたが、10月17日のイスラエル軍によるガザ地区の病院に対する空爆で多くのパレスチナ市民の犠牲者が出たことで、来訪・会談は延期になりました。いよいよ事態は緊迫マックス、いつ何が起きてもおかしくない状況、さながら「地上侵攻前夜」の様相を呈しています。

ガザ地上侵攻の展望 (懸念編)
 前回のブログで、以下のような展望を述べました。

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 イスラエルは間違いなくガザ地区に対する地上侵攻を開始します。勿論、国際社会が懸念するように、避難できなかったパレスチナ市民が少なからず犠牲が出ます。イスラエルはそうした犠牲には全く目もくれず、ひたすら人質解放とハマスの根絶のための掃討戦を繰り広げるでしょう。勿論のこと、ハマスは報復として人質を惨たらしく殺害し、その映像が世界に拡散されるでしょう。それでもイスラエルは国際社会の様々な制止を求める声なんかには耳を貸しません。米国が仲介に入っても、中途半端には終わらせないでしょう。一方のハマスは、軍事的には全く勝負にならない戦いですが、非対称戦のゲリラ戦術で、ガザ地区に張り巡らされたトンネル網を駆使して、神出鬼没の攻撃を繰り返し、ガザ市街地の中でイスラエル軍部隊を泥沼の戦闘に引きずり込むでしょう。イスラエル軍は短期決戦で、一挙に軍事的制圧はできるでしょうが、肝心の人質とハマスの戦闘員たちがガザの市街にまみれて判別つかず、捜索できず。要するに、これがハマスの、否イラン、ロシアの腹だったわけですが、泥沼の長期戦に持ち込むわけですよ。イスラエルは、間違いなく米国から、「やるんだったら短期で(数日程度)ケリをつけてくれよ。長引かせるんじゃないぞ」と釘を刺されていると思います。しかし、そうはさせじと、ハマスは初めから人質も取って、市街地の泥沼の掃討戦対ゲリラ戦で長期化させるつもりなんですから。このイスラエル・ハマス間の紛争の長期化こそ、ロシアの思うつぼです。西側諸国の対ウクライナ軍事支援は、まず米国が賛否両論で分裂し、西側各国もそれぞれの思惑が違い、かくして足並みは乱れ、ウクライナへの軍事支援は減少化してしまう可能性が高いと思います。
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 先週末時点での上記の私の展望は、4・5日経過した今でも基本的には変わりません。
 ただ「地上侵攻が開始され、大変なことになるぞ」と言うだけでしたので、問題は、その後の地上侵攻の行方がどういう方向へ行くか、に触れていませんでいたので、私見を述べます。

ガザ地上侵攻の展望 (「軟着陸」説)
 地上侵攻が始まると、毎日惨たらしいニュース映像が画面に展開される日々が数日続くと思いますが、一番の懸念のヒズボラやイラン革命防衛隊の本格介入のようなことにはならないのではないか、案外にしてイスラエルが比較的短期間でハマス掃討を終え、比較的温厚派のパレスチナ暫定政府にガザ地区に復帰させる、という「軟着陸」をさせるのではないか、と推察します。

<地上侵攻は、イスラエル軍が「包囲環形成~圧縮~撃滅・掃討」で短期決戦>
 結論から言うと、イスラエル軍が戦車・装甲車・歩兵により数に物を言わせて、圧倒的な包囲間の形成、じ後、市街地を虱潰しにして包囲環を圧縮し、最終的に小区画にハマスを追い込んで、最後は撃滅・掃討戦で潰していくのであろう、と存じます。過去の同様の市街地での掃討戦でイスラエルはハマスに痛い目に遭っているので、今回は過去の教訓を活かして、我が被害を局限しつつ、住民とハマスを分離する策をとるものと推察します。残留住民は必ずいますが、手を挙げて出てきた時点で一人づつ拘留・収容し、後で時間をかけてハマスを割り出すでしょう。
 
 今回のガザ攻撃において、イスラエル軍はハマスの根拠地が集中しているガザ北部をターゲットにし、南北を丁度区画する形で走るワジ・ガザという谷を境に、住民混在を避けるために南部への避難を促しているわけです。この際、考慮すべき事項として、①ハマスは200名もの人質をとっていること、②南部への住民避難に便乗して、ハマスの一部も南部に逃れる、ということは大前提となります。仮に、ハマスの一定勢力が住民に紛れて南部に逃れたとしても、北部に集中していたハマスの戦闘員・部隊そのもの、根拠地、武器弾薬備蓄等を今回で完全に潰すことができれば、ハマスに致命的な打撃を与え、弱体化は免れません。

<地上侵攻の際にヒズボラやイラン革命防衛隊は本格介入しない>
 ハマスの今回のイスラエル攻撃のバックにヒズボラやその支援基盤であるイランがいるのは間違いないでしょう。しかし、当のヒズボラもイランも、持ち前の強硬路線が仇となって、経済的にも国内政治的にも厳しい状況です。特に、ヒズボラは、根拠地のレバノンで一定の勢力を誇っているものの、レバノン自体が国家として長年のイスラエルとの抗争や経済的な低迷でデフォルト状態です。国民のヒズボラに対する支持ももはや地に堕ちています。いかにイランが金銭的や軍事的な援助をしようとも、母国本土で「イスラエルとの紛争にレバノンを再び巻き込むな!」との反感がかなり高い状況です。実際、ヒズボラの根拠地レバノンからイスラエルに侵入するルート上の北の国境は、イスラエル軍の厳重な警戒があって、これまでのところ、ヒズボラが侵入している形跡はありません。いくつか国境を越える攻撃がありましたが、それらは対イスラエルの新たな戦線を形成するには至っていません。

 また、一方のイランは、もともと地域の一大勢力(regional power)として相当に国力があり、かつイラン民族のスタンドアローン的な団結と個性の強さは、イスラム世界でも他のアラブ諸国を敵にしても一歩も退かずにここまで戦ってきた台風の目です。しかし、2006年以来の20年近くに及ぶ核開発問題及び人権問題に伴う経済制裁で、相当の経済疲弊と民心の離反が根深い状態です。勿論、イラン革命防衛隊などのヒズボラと連携してイエメン等でも反政府勢力フーシ派を支援して紛争の台風の目であり続けている状況で、まだまだイケイケな活動をしていますが、確実に以前の勢いはなくなっています。勿論、ヒズボラ、イランの背後にロシアがいて、いろいろと謀っているわけでしょうが、ロシア自体がもはや沈没しつつある船であることは、イランの最高指導者の目にも見えているはずです。ガザの跳ねっ返り者=鉄砲玉ハマスのケツをどこまで拭く覚悟があるか、と言う話だと思います。
 勿論、国際社会が一番懸念しているのも、そこ。イスラエルのハマス掃討戦の渦中で、ヒズボラ、イラン革命防衛隊が本格介入して地域紛争化し、「第5次中東戦争」に拡大することです。しかし….、そうならないのではないかと思う根拠として、今回地続きの他のアラブ諸国のハマスの今回のイスラエル攻撃への賛同=大義について賛同が得られていないことです。国家ではないヒズボラがテロ的に暴れたにしても、イスラエル軍のような正規軍と軍事的には勝負にはなりません。イラン革命防衛隊は軍隊ですから、イラン軍が出てくると正規軍同志の一大紛争になります。しかし、この地続きではないという点は大きい。イランから部隊をイスラエルに派遣するということは、イランから部隊派遣にあたり、周辺国のイラク、シリア、サウジ、ヨルダンを地上通過させてもらう?無理ですね。では海上輸送でペルシャ湾からアデン湾、紅海を通ってイスラエル南部の紅海に面するエイラートに上陸?無理無理、イラン海軍に大部隊を海上輸送できる輸送艦・輸送艇はさほどありませんし、そもそも海上で撃破されるでしょう。勿論、小部隊の特殊部隊によるテロ的攻撃や、イラン本土からのミサイル攻撃などという手はありますが、イスラエルのミサイル防衛で迎撃されるでしょうし、イラン本土へのイスラエルの外科手術的空爆を招くだけです。また、イランにとって、もともとイスラム教シーア派でもないガザ地区のハマスという一勢力のために、「聖戦」をするつもりか?と考えると、その大義もないし、勝算も、紛争後に得られる国益もないですよね。いくらロシアに感謝されるにしても、そのために戦争をしますかね?否、と推察します。思惑として、この地域のイスラムの雄としてイランは振舞うでしょうが、紛争に本格介入することはないでしょう。

 これもイスラエルの掃討戦の長期化や住民殺戮などの国際問題化などの要因がからんでくると、いずれかの形でイランの加入は問題化しますが、この点、イスラエルは十分に考慮していて、腹が立つほど鮮やかに短期決戦を果たすのではないか、と推察します。奴らは、短期決戦達成のため、ハマス部隊、ハマス幹部、及び人質の居場所について必死の情報収集をしていると思います。当然、ハマスに反感を持つパレスチナ住民をスパイに使っているでしょう。

<ガザ地区復興の着地点としてパレスチナ西岸地区のパレスチナ自治政府に復帰させて統治へ>
 パレスチナは、西岸地区とガザ地区に分かれていますが、パレスチナ自治政府の力はガザには及ばず、というより、2007年にハマスによってガザ地区から追い出されたのです。そのパレスチナ政府がガザ地区に復帰して統治する、というのが、度の殻も文句の出ない着地点でしょう。パレスチナは比較的穏健なファタハのアッバース議長が主導しています。ファタハ自体はあまり人気はありませんが、正当な政府であることは一番の落としどころです。周辺国、エジプトやヨルダンにも親和性があります。よって、掃討戦の後、イスラエル軍はパレスチナ政府に比較的平和的に占領権を委譲し、米国はじめ国際社会が復興を支援する形でハッピーエンドを画策する、と推察します。この際、イスラエルとして絶対に一歩も退かない条件は、ガザ地区内のハマス残党の一掃です。おそらく、パレスチナ警察とイスラエルの特殊部隊が協調して、時間をかけて潰していくかたちをとるのではないか、と推察します。

 勿論、あまり人気のない、しかも一回ガザから追い出された自治政府がガザに復帰して統治するなんて、簡単な話ではなく、うまく行かない要因や問題は多々あります。しかし、ガザの住民達にとって、今回のハマスのイスラエル攻撃は賛同を得ていません。特に、これに起因してイスラエルの徹底的な報復空爆を受け、「何やってくれたんだ?」との反感から、ハマスから民心は離れつつあります。よって、地上侵攻・掃討戦が終了したら、とりあえずイスラエルの攻撃はこれで終了し、住民達の生活の復旧・復興に平和裏に邁進できるのであれば、空爆におびえ逃げ続ける日々よりはなんぼもましです。もう、住民達は疲れ切っているでしょうから。よって、イスラエルと交渉し、自治を復旧する自治政府には協力的に接するのではないか、と考えました。

 はやく元通りの生活が戻りますように。

(了)

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2023/10/14

イスラエル・ガザ紛争にロシアの陰: 新たな要支援ネタと複雑化で西側のウクライナ支援を脅かす

Zelenski Israel
イスラエルのネタ二エフ首相に電話を掛けた件を国民に説明するゼレンスキー大統領 (画像:2023年10月12日付Newsweek記事「Israel War Could Hinder Kyiv Aid in One Scenario: Ukraine's Intel Chief」より)

降って湧いたようなパレスチナのハマスによるイスラエルへの攻撃でイスラエルはガザ侵攻寸前に
 2023年10月8日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム過激派ハマスの戦闘員がイスラエルの街を急襲し、イスラエル住民に銃撃して死傷者を出すとともに、外国人を含む住民を拉致しガザ地区へ連れ去り、人質にしています。イスラエルは同日、すぐさま空爆により報復し、ガザ地区のパレスチナ住民に多くの死傷者が出ています。これに対しハマスは、9日再びイスラエルのあちらこちらの街に対し同様の攻撃で報復、これに対し再びイスラエル側が空爆で報復し、双方に数千名を超える死傷者が出ています。ハマスは、イスラエルの更なる攻撃や地上侵攻があれば、人質を殺すと宣言。イスラエル側は、「ハマスを全滅させる」と表明し、ガザの北側からの市民の避難を要求するとともに、ガザ周辺に地上侵攻準備のため部隊を集結させています。(参照: 2023年10月14日付BBC記事「Could an Israeli ground invasion of Gaza meet its aims?」ほか)
 私見ながら、イスラエルは必ず地上侵攻をし、ガザ地区のハマスの現指導者ヤヒヤ・シンワル氏をはじめハマスを根絶やしにするため、ガザの市街地で掃討作戦を展開するでしょう。

このハマスのイスラエル攻撃の陰にイラン、更にバックにロシアあり
 今回のハマスの対イスラエル攻撃について、米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙は8日付の紙面にて、イスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部の話として、イランの革命防衛隊が計画の立案及び実行に深く関与している旨の報道をしています。イラン政府は当然のようにハマスのイスラエル攻撃作戦への関与は全面否定していますが、他方でハマスの攻撃に対してはハマスの自衛手段として支持を表明しています。ハマスの後ろ盾にイランが関与していることは周知の事実ですけどね。

 他方、ロシアのウクライナ侵攻の戦況分析で定評のある米国の研究機関「戦争研究所(ISW)」の7日付の分析では、「ロシアは、米国をはじめとする西側諸国のウクライナ支援を弱体化させるため、今回のイスラエル・ハマスの紛争について我田引水の情報作戦を展開している」と評しています。実際、ロシア外務省のザハロワ報道官は「今回の紛争は、国連や安保理決議が無視されてきた結果である」と国連や西側を批判、更に、ロシア前大統領で安全保障会議副議長のメドベージェフ氏は米国はじめ西側諸国がウクライナに手厚く軍事支援をしてロシアを脅かし、その一方でパレスチナ問題など中東を軽視してきた結果である、と主張し、今回のハマスのイスラエル攻撃に端を発した紛争の激化を、米国をはじめとした西側諸国の責任と批判しています。要するに。情報作戦で揺さぶってきているわけです。

 では、情報作戦はともかくとして、ロシアは今回のハマスのイスラエル攻撃に関与しているのでしょうか?
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、今回のハマスのイスラエル攻撃に起因する紛争激化に伴い、イスラエルのネタニヤフ首相に電話をし、「我々両国が直面している脅威は関連しているのです(the threats to us are related)」と背景にロシアがいることを訴えています。また、ウクライナ国防情報局長のブダノフ少将は、今回のイスラエルとハマスの間の紛争激化が長引く場合、米国をはじめとする西側諸国のウクライナへの軍事支援は足並みが乱れ、減少化する可能性がある、と懸念を表明しています。実際、米国では今回のイスラエル・ハマス間の紛争激化について、ほぼ足並み揃えて対イスラエル軍事支援についてはコンセンサスが得られるものの、その分だけ米国の財政に負担が増えるわけですから、対ウクライナ支援に対する賛否については更に分裂してしまう傾向にあります。(参照: 2023年10月12日付Newsweek記事「「Israel War Could Hinder Kyiv Aid in One Scenario: Ukraine's Intel Chief」、同日付Newsweek記事「With Democrats Divided on Israel and GOP on Ukraine, What's Next for US?」)

 今回、ハマスに人質に取られている外国人には、フランスや英国などの西欧諸国の国民もいますので、対イスラエル支援ないし今回の紛争への関心は西側諸国にとって「我がこと」なのです。これに対して、まだまだ長引きそうなウクライナ戦争への軍事支援に関しては、ただでさえ西側諸国の「ウクライナ支援疲れ」が指摘されているわけですから、これは間違いなく各国の足並みが乱れます。

 私見ながら、この足並みの乱れこそ、ロシアにとってはまたとない好機。これは棚から落ちてきたボタモチではなく、初めからロシアが仕組んだのだ、ロシアが背景にいてイランを動かしてハマスに攻撃をさせたのだ、というのがゼレンスキー大統領やブダノフ国防情報局長の読みというわけです。

イスラエルのガザ地区への地上侵攻の対ウクライナ戦争への影響の展望
 現役自衛官時代、イスラエルを含む中東地域には少なからず縁がありました。その知見から推察して、イスラエルは間違いなくガザ地区に対する地上侵攻を開始します。勿論、国際社会が懸念するように、避難できなかったパレスチナ市民には少なからず犠牲が出ます。イスラエルはそうした犠牲には全く目もくれず、ひたすら人質解放とハマスの根絶のための掃討戦を繰り広げるでしょう。勿論のこと、ハマスは報復として人質を惨たらしく殺害し、その映像が世界に拡散されるでしょう。それでもイスラエルは国際社会の様々な制止を求める声なんかには耳を貸しません。米国が仲介に入っても、中途半端には終わらせないでしょう。一方のハマスは、軍事的には全く勝負にならない戦いですが、非対称戦のゲリラ戦術で、ガザ地区に張り巡らされたトンネル網を駆使して、神出鬼没の攻撃を繰り返し、ガザ市街地の中でイスラエル軍部隊を泥沼の戦闘に引きずり込むでしょう。イスラエル軍は短期決戦で、一挙に軍事的制圧はできるでしょうが、肝心の人質とハマスの戦闘員たちがガザの市街にまみれて判別つかず、捜索できず。要するに、これがハマスの、否イラン、ロシアの腹だったわけですが、泥沼の長期戦に持ち込むわけですよ。イスラエルは、間違いなく米国から、「やるんだったら短期で(数日程度)ケリをつけてくれよ。長引かせるんじゃないぞ」と釘を刺されていると思います。しかし、そうはさせじと、ハマスは初めから人質も取って、市街地の泥沼の掃討戦対ゲリラ戦で長期化させるつもりなんですから。このイスラエル・ハマス間の紛争の長期化こそ、ロシアの思うつぼです。西側諸国の対ウクライナ軍事支援は、まず米国が賛否両論で分裂し、西側各国もそれぞれの思惑が違い、かくして足並みは乱れ、ウクライナへの軍事支援は減少化してしまう可能性が高いと思います。

 しかし、イスラエルっていう国は、こと対パレスチナ戦闘に関しては徹底して一切の妥協をしない周到さとしつこさと冷血さと鉄壁の情報戦能力がありますから、地上戦闘が電撃的に短期決戦で勝負がつく可能性もあります。ミュンヘンオリンピック時のパレスチナゲリラによるイスラエル選手団人質事件を想起してください。電撃解決、しかもかかわったパレスチナゲリラは、情報機関モサドが十数年かかって一人ひとり暗殺し、最終的には全員殺害した国なんですよ、イスラエルは。ますは、電撃的にガザ地区全土を制圧し、指導者の首を取り、人質を解放し、その上でガザ地区を数年かけて実効支配してハマスを根絶やしするかもしれません。いかに国際社会から苦言を呈されようとも、国連決議で早期のガザ地区占領解除を勧告されようが、一切耳を貸さずに。そんな国ですから。


 ロシアも弱ってきている証拠だ!頑張れ!負けるなウクライナ!
 イスラエル・ハマスの紛争には目もくれず、ひたすらトクマク奪取を目指せ!

(了)

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2023/10/09

プーチン病気説の再来:国際会議で物忘れと辻褄合わない応答

Putin’s forgetfulness
10月5日、ヴァルダイ国際討論クラブでプーチン大統領の所作と発言に見られた異変 (Russian President Vladimir Putin gestures during his annual meeting with participants of the Valdai Discussion Club, October 5, 2023 in Sochi, Russia. President Putin is having a two-day) (画像: 2023年10月6日付Newsweek記事「Putin's Forgetfulness at Conference Raises Questions」より)


 プーチン大統領の病気の噂は、プーチン大統領の所作や発言などの異変がある度にまことしやかに報じられますが、そんな異変がまた報じられました。

国際会議で物忘れと辻褄合わない応答
 2023年10月5日にロシアのソチで実施された「ヴァルダイ国際討論クラブ」(世界各国から招いた各分野の専門家、政治家らとプーチン大統領が国際情勢、政治、経済等について討論、今年で20回目)にて、ホストのプーチン大統領が自身のスピーチや会議参加者との討議において、ことわざのド忘れや自身の指示で拘留した政治犯の名前を忘れたり、また質疑への応答で辻褄が合わないことを話したり、といった異変が見られ、ロシアのソーシャルメディアでもロシア人ネット民達が思わずザワついた模様です。

 具体的には、今懸案となっているナゴルノ=カラバフ問題について、「ロシアはアルメニアを見殺しにしたのでは?」との西側からの討論出席者からの厳しい問いに対し、「それは皆さんご存知のロシアのことわざと同じ話だ『モーと鳴く馬に対して誰の馬だ?と聞く奴は自分の馬は泣かないと思っている。』」("You know, our people say: 'Whose horse would moo, but yours would be silent,'")とプーチン大統領は回答しましたが、モーと鳴くのは「馬」ではなく「牛」の話で、明らかに言い間違えだったので、司会者が「牛ですよね」と訂正。プーチン大統領は「馬でも牛でも何だっていいんだよ」と取り繕ったそうです。プーチン大統領は、西側からそう言われることに対して「目クソ鼻クソを笑う的な話だろ」と返したつもりだった模様ですが、肝心の自国のことわざのキーワードをド忘れしたようです。
 また、「テロの正当化」容疑で現在拘留中の批評家について釈放を求められた際に、プーチン大統領は「その名前を聞いたことがない。後で書面で見せてくれ。回答するから」と回答しましたが、逮捕の際には大統領自らその批評家についてコメントしていたはずでした。これまたド忘れ。答えたくないからこう言って間合いを切ったのかも知れませんが。
 もう一つ、プーチン大統領は民間軍事会社についての応答では、初めは、ワグネル部隊に所属していた戦闘員数千名が国防省と契約を結んだ件を話し、その数分後には「ロシアには民間軍事会社など元々決して存在していなかった」と矛盾することをコメントしました。これにはさすがにロシアのソーシャルメディア上で多くのザワついたつぶやきが見られた模様です。ある者は「狂っちゃった("gone crazy")と言い、またある者は「意味不明だな("talking nonsense")」、「認知に問題があるんじゃないの(“he could have issues with his memory”)」と言う状況です。ロシア誌「コメルサント」は「指導者がワグネルは存在していなかったと言った」と記事にした程です。
(参照: 2023年10月6日付Newsweek記事「Putin's Forgetfulness at Conference Raises Questions」ほか)

これまでもプーチン病気説は度々噂になった
 これまでも、現在71歳のプーチン大統領の長期政権化に伴い、プーチン病気説は結構前からいろいろと噂がありましたあり。特に、今回同様のプーチンの所作や発言に異変が確認される度に喧伝され、ヘェーと一時的な注目を浴びては忘れられて来ました。

 ウクライナ侵攻後のこの2年足らずの間でも、病気説は幾つも出ました。
 昨年(2022年)4月下旬にはベラルーシのルカシェンコ大統領との会見で冒頭に抱擁するシーンでで手が震え足が不自由な姿が、また、マリウポリの戦況をショイグ国防相から聞くプーチン大統領が、天井を見ていてほとんど報告は聞いておらず、まるで椅子から滑り落ちるのを必死にこらえている姿が確認されました。

 昨年11月の異変では、ロシアがリリースしたプーチン大統領の賓客接遇のニュースの際に、大統領が握手の際に差し出した右手は震えが止まらず、しかも右手の甲に日常的な静脈注射と見られる注射痕?のようなものが見られ、騒然としました。ロシアはすぐにこの画像を修正し、右手の甲に肌色で修正をかけました。
注射痕
プーチン大統領の右手の甲に注射痕?(画像: 2022年11月2日付MetroNews記事「Putin ‘has Parkinson’s and cancer, leaked Kremlin spy documents claim’」より)

今年(2023年)1月には、ウクライナの情報機関のトップであるブダノフ少将の情報としてプーチン氏はガンで様々な治療と処方を受けている、と報じられました。

 また、今年の7月には、ロシア国内の某市の副市長との会談中に、相手の子供の年齢を聞いた直後に、全く違う年齢だと誤認している発言をし、相手も視聴者も皆が怪訝な顔になったことがあり、認知症が疑われました。

 他にも、枚挙に暇がありません。これらを通じて疑われているのは、症状としては、身体的には右手の震え(麻痺)、歩行困難、表情の硬直、発言的には認知症の疑い、言葉のロレツ回らず、など。これらの症状ゆえに、まことしやかに「甲状腺ガン」、「パーキンソン氏病」、「認知症」などで、それらの症状や治療による薬の副作用で顔がむくんでいるとか、手が震えるとか、認知症が出ている、などと言われ放題です。

こうした噂がすぐ出るのは…結局願望かも
 こうした噂がすぐ出るのは、結局は願望ではないかと推察します。
 プーチンは、たまにこうした「異変」を見せるものの、実際には悔しいくらい元気ですよね。もう71歳ですから、プーチンだって疲れるし、たまに具あの悪い時があるでしょう。プーチンウォッチャーや視聴者は、プーチン大統領のちょっとした異変を目ざとく見つけ、憶測と想像でいろいろと膨らませます。想像を膨らます理由は、やはりプーチンが強大でラスボス的なので、弱っているらしき異変を見つけては、それがプーチンが遂に滅びる前兆なのではないか、否、そうであってほしい、という願望なのだろうと推察します。プーチンが容体急変したら、ロシアのリーダーシップが交代し、ロシア軍が一転して停戦・撤収に向かう….なんてことになったらいいですよね。

 ところが、実在のプーチンは憎たらしいほど健在ですね。実際に病気説が本当であったとしても、ロシアを挙げた医療チームが支えているんでしょうね。私も、こうした異変が本当にプーチン病気の症状で、奴が遂に滅びる前兆であって欲しい、と心から思います。
 
 頑張れウクライナ! 
 反転攻勢の成果がじわじわ出ています。
 行け!トクマクへ!

(了)  

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2023/10/04

今後のウクライナ情勢は2024年米大統領選挙戦日程に先駆けて好転させることがキモ

ゼレンスキー国連演説
先月の国連での演説では以前ほどの共感や支持を受けなくなりつつあるゼレンスキー大統領。国連加盟国の関心はグローバルサウスに移ろいつつある模様 (画像: 2023年10月2日付BBC記事「Electoral politics begin to bite into Ukraine support」より)

「ウクライナ疲れ」で逆風が吹く中、米国は支え続ける構図: 米大統領選でウクライナ支援が焦点になる気配
 これまでウクライナ支援を続けてきたEU加盟国の中で、ウクライナ支援継続への疲弊や不満が高まり、ポーランド、スロヴァキア、ハンガリーらがウクライナ支援継続に公然と異を唱え始めました。いわゆる「ウクライナ疲れ」です。こうした中、米国バイデン政権は、国内にウクライナ支援継続反対派がいて議会も紛糾する中で追加支援を重ね、ウクライナ支援の継続を約束しています。ウクライナのゼレンスキー大統領にとっては力強いパートナーですが、来年には米大統領選挙があり、バイデン政権の明確なウクライナ支援は、来るべき大統領選挙戦で「ウクライナ支援継続」問題がヤリ玉に上がり、民主党内は勿論、返り咲きを狙う共和党トランプ前大統領やデサンティス州知事などに舌戦のネタを提供することになるでしょう。(参照: 2023年10月2日付BBC記事「Electoral politics begin to bite into Ukraine support」、同月3日付BBC記事「Biden vows to stand by Ukraine, despite budget fiasco」、Ukraine war: Russia warned EU not weary over war support」、同日付Newsweek記事「「Biden vows to stand by Ukraine, despite budget fiasco」、「Biden vows to stand by Ukraine, despite budget fiasco」、同日付Newsweek記事「Pro-Russian Win In Slovakia Elections a Red Flag for Ukraine」、同月1日付Newsweek記事「Ukraine Gets Bad News From Two NATO Allies」、同日付Newsweek記事「Putin gets good news from European election」、ほか)

西側諸国からのウクライナ支援が下降するとウクライナの命運も下降する
 ロシアのウクライナ侵攻は何が何でも失敗に終わらせ、ウクライナに失地を回復させねばなりません。その観点からは、西側諸国のウクライナ支援の継続は命脈を握っており、これが下降線をたどればウクライナの命運も下降線をたどります。最悪、ロシアのウクライナ侵攻が達成してしまうとか、停戦協議がもたれその当時の接触線が国境になってしまいロシアが有利な形で停戦となるなど、そんなことがあってはなりません。隣国への侵攻など力による国境の書き換えが成り立ってしまっては、国際秩序な崩れます。
 何とか、西側諸国のウクライナ支援が継続し、その間にウクライナ軍がロシア軍を突破し、トクマクやメリトポリなどの枢要な地線まで確保し、もはやロシアが撤退せざるを得ない戦況に追い込みたいところです。

今後のウクライナ情勢は2024年米大統領選挙戦日程に先駆けて好転させることがキモ
 となると、2024年の米大統領選挙との追いかけっこになるかもしれませんね。現在のような膠着状態(一部でロシア第一線陣地を突破したものの、鳥瞰すると「膠着」と言わざるを得ません)のままでは、前述したように、大統領選挙戦ではバイデン現大統領を責める格好のヤリ玉ネタです。そうなると、大統領選の舌戦の中で、指摘や公約が挑発的になってしまい、ウクライナ支援どころか「即時停戦」などの強硬な路線が現地の心情や戦場の現実とは全くかけ離れた米国の選挙戦舌戦の中で命運が決まってしまいます。
 ウクライナがこれをうまくかわすには、米大統領選挙戦の日程に先駆けて、戦況を好転させ、そもそも大統領選挙戦の舌戦ネタにならないよう、作戦テンポを早めねばならない、と推察します。

 2024年の米大統領選挙日程は以下の通りです。
・ 1月15日: 共和党党員集会(アイオワ州から)
・ 2月3日:  民主党予備選挙(サウスカロライナ州から)
・ 3月5日:  スーパー・チューズデー(予備選挙・党員集会が集中する日)
・ 7月15日-18日: 共和党全国大会(共和党大統領候補決定)
・ 8月19日-22日: 民主党全国大会(民主党大統領候補決定)
・ 11月5日: 一般有権者投開票(事実上の大統領選挙結果が判明)
・ 12月16日: 選挙人による投票
(参照: Wikipedia「2024年アメリカ合衆国大統領選挙」に筆者が加筆)

 ということは、今年中の早期の戦況好転を目指すのは勿論ですが、3月のスーパーチューズデーまでには好転させたいですね。スーパーチューズデー以降まで膠着が長引くと、前述のようにバイデン大統領の進めるウクライナ支援は必ずヤリ玉にあがります。「米国民にとっては、米国から遠い対岸の火事への莫大な税金投入は共感・支持を得られず、むしろ国境を渡って入ってくる不法移民の流入問題などの国内問題の方が選挙では受けが良いネタです。選挙戦の中でウクライナ支援の継続について期限や上限額などの各種条件を譲歩させられるかもしれませんし、対立候補が当選した場合は、ウクライナ支援は根底から覆されるでしょう。
 そうならないためには、努めて早く、選挙戦の推移に先駆けて戦況を好転させて、ウクライナ支援問題を選挙戦の焦点にさせないことが何よりの「転ばぬ先の杖」です。

 つい最新のニュースで拾った朗報では、10月3日付VOA記事によれば、ウクライナ、ポーランド、リトアニアは、ウクライナの穀物輸出を促進する計画に合意したと当局者は10月3日に発表、アフリカ・中東・南米などの貧しい国々へ穀物が届くようになる模様です。つい先日、ウクライナの穀物がロシアが握る黒海経由では海上輸送できないため、ヨーロッパ経由の陸路で運ばれることになりますが、経由国のポーランドが自国の農民への配慮から穀物禁輸措置をとり、ウクライナともめているところです。しかし、今回の合意では、ポーランドを経由するが穀物貨車を封印して素通りし、リトアニアの港湾から海外へ運ばれるというものです。知恵ですネ。ポーランドのウクライナ支援への難色は、ポーランドの総選挙に関連した国内の不満への配慮から来たものです。こうした知恵で、問題点がスルー出来れば、ポーランドも対ロシア脅威感は骨身にしみた防衛問題ですから、ウクライナ支援への回帰が十分に期待できます。(参照: 2023年10月3日付VOA記事「Deal to Expedite Grain Exports Has Been Reached Between Ukraine, Poland and Lithuania」)
 またもう一つの朗報は、ウクライナもロシアもドローンが大きな戦力となる中、ウクライナに提供されているトルコのバイラクタル社の優秀なドローン、バイラクタルTB2の後継ドローンが開発され、巡航ミサイルも発射可能となり、これが提供されれば、先日のクリミアの黒海艦隊の根拠地セバストポリ軍港に壊滅的打撃を与えたような攻撃が可能になり、使い道によってゲームチェンジャーになる可能性もあります。(参照: 2023年10月3日付Newsweek記事 「Ukraine Eyes Cruise Missile Upgrade on Turkey's Bayraktar Drones」)

 このような知恵で政治的懸案をスルーしつつ、肝心の戦場での結果を出して、西側諸国のウクライナ支援継続の懸念を払しょくするクリーンヒットを打ってもらいたいものです。

 頑張れウクライナ!
 目指せトクマクの奪取!
 米大統領選挙戦に先駆けて結果を出すべし!
 夜明けはもうそこまで来ている!

(了)

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