ガザ紛争のアンダーでハマス~ヒズボラ~イラン~ロシアの紛争拡大画策リンケージ: 米軍は紛争拡大防止作戦

左:10月19日夜の大統領執務室からの演説でバイデン大統領はイランにガザ紛争に関与するなと警告、 右:イランの最高指導者ハメネイ師 (画像: 2023年10月19日付Newsweek記事「Biden Talks Tough on Iran in Clearest Break With Obama-Era Policy」より)
イエメンの反政府勢力フーシ派の発したミサイルを米海軍が紅海上で迎撃
2023年10月19日、米国防総省は、紅海北部の米海軍誘導ミサイル駆逐艦がイエメンでイランが支援するフーシ派勢力によって発射された複数のミサイルとドローンを撃墜した、と発表しました。
さて、これが何を意味するかというお話です。
米軍は中東・イスラエル周辺に米海軍艦艇を派遣し地域の紛争拡大防止のため作戦中
結論から言うと、今回フーシ派はガザのハマスを支援するためイスラエル攻撃のためにミサイルやドローンを発射したものだが、紅海上で米海軍の迎撃ミサイルで撃破された、というものです。この意味するところは、ガザ地区のハマスは、初めから単独でイスラエルに勝てるとは思っておらず、イスラエル・ガザの紛争を火種に、イスラエル周辺の親パレスチナ・反イスラエルを標榜する各地の過激派と連携して、正規の軍事作戦ではなく非政府主体のテロ攻撃で対イスラエル攻撃を実施することで、地域紛争に拡大させようという腹なわけで、米国はそうはさせじと、米海軍の空母をはじめとした艦艇をイスラエル周辺海域に派遣するとともに、衛星情報をはじめ中東地域に張り巡らした情報網で地域の過激派等の動向を監視し、今回のイスラエル・ガザ紛争のこの地域への紛争拡大防止のために、アンダーで軍事作戦を展開している、ということなのです。
要するに、テレビ・新聞等で見るガザの惨状、イスラエルの空爆の苛烈さ、被害を受けて逃げ惑うガザ市民、ケガをした子供を抱きかかえて病院に走る市民、・・・、という光景から見えていない背景の世界において、アンダーで、実は米軍が事前展開しており、周辺海域等で紛争を拡大しかねない周辺の過激派からの攻撃を未然に潰しているのです。米国側から言えば、「紛争の拡大防止」、ハマスから言えば「米軍が既に参戦し、イスラエルを防護する戦闘を実施中」という状態なのです。
イスラエル・ガザ紛争とウクライナ侵攻とのリンケージ
この米軍の作戦の防止する目的にもなっている「地域紛争の拡大」というのはいったい何なのか?
点と線的に述べるため、まず、単に起きている事象を「点」として列挙しますと、
・ 2023年10月7日、パレスチナ・ガザ地区の過激派組織ハマスは、青天の霹靂的に越境してイスラエルを攻撃しました。これまでにない最悪の事態の幕開けとなりました。
・ これにイスラエルが報復のためにハマスを狙った空爆をしました。これまた史上最悪の被害(パレスチナの一般市民を巻き添えに)を出しています。イスラエル側は1,400人以上と報じ、ガザのハマス側は4,100人もの死亡者を出した模様です。
・ 今回のハマスのイスラエル攻撃のバックにいると言われているのが、レバノンを根拠地とするヒズボラです。ヒズボラはイスラエルと永く抗争しており、レバノンの民心も離れつつある状況です。ハマスに武器や資金を供給しており、今回のハマスのイスラエル攻撃でも、ヒズボラの関与が指摘され、またヒズボラ自体もハマス支援を公言しています。
・ 米国は、今回のイスラエル・ガザ紛争を踏まえ、イスラエル周辺海域に空母ほかの艦艇を派遣し、洋上で展開させています。
・ イエメンにおいて、元々この地域の過激派の一派であるフーシ派は、反政府勢力としてイエメン政府をはじめ周辺国にも攻撃しており、イエメンの内戦を激化させています。
・ イランは、核開発問題や人権問題で西側諸国はじめ国際社会から厳しい経済制裁を長年にわたって受けており、慶座疲弊が著しい状態です。他方、中東、アフリカ地域において、主としてイラン民族の信奉するイスラム教シーア派の同志の勢力を支持・支援しており、その担い手がイラン革命防衛隊であり、イラン革命防衛隊は前述のフーシ派やヒズボラを含めて、地域の過激派組織を支援し、軍事訓練や武器の供与をしています。特に、イエメンのフーシ派とコンビで、反米、反西側、反イスラエル、反サウジアラビアを標榜し、紅海、アデン湾、ペルシャ湾、アラビア海の海域でたびたびテロ攻撃を実施しています。また、ロシアを支援し、ミサイルやドローンをはじめとした武器・弾薬・装備品の主要な供給国となっています。
・ 他方、ヨーロッパ大陸において、ロシアはウクライナ侵攻を実施中。当初の支配地域拡大から一転、ウクライナの反転攻勢を受け、今や戦線は膠着しつつも押され気味状態で、西側はじめ国際社会からの経済制裁を受け、経済疲弊と物資不足、民心の離反等、厳しい状況を抱えながら戦争を継続しています。
既述のそれぞれの点は線で結ばれるわけです。
要するに、今回のハマスのイスラエル攻撃は、ヒズボラが支援し、そのヒズボラをイランがバックアップし、更にその背後にロシアがいて、イスラエルをめぐる新たな紛争の拡大を画策することで、パレスチナ問題の好転やイスラエルの弱体化、地域過激派の伸張、ひいてはウクライナ侵攻の最大の難敵である米国はじめ西側諸国のウクライナ支援の結束を崩そうという「ウクライナ侵攻の戦況打開」にリンケージしています。
リンケージを暗示する有力者の発言
関連情報として、
10月19日の米大統領の大統領執務室からの演説において、バイデン大統領はパレスチナ・ガザ地区のハマスやイエメンの反政府勢力フーシ派を支援するイランに対して、かなり強い言葉でイスラエル・ガザ紛争への関与に警告を発しています。バイデン大統領は、上記の件のフーシ派がイスラエルへの攻撃を行ったなどとは全く触れていませんが、米国防省の報道官の発表との時期的吻合から言って、間違いなく、フーシ派のバックにイランがいることを念頭に置いた発言です。また、バイデン大統領は、この際、バイデン大統領は、イスラエル・ガザ紛争を画策・関与・介入しようとしているイランに対して警告を発するとともに、ウクライナに侵攻するロシアに言及しています。暗に「ロシア」~「イラン」~「ヒズボラ・フーシ・ハマスなどの地域の過激派」のコネクションに対する警告です。
(参照: 2023年10月19日付Newsweek記事「Biden Compares Putin to Hamas as US Navy Takes Rare Action to Defend Israel」)
また、イスラエル当局はロシア国営テレビにて、今回のハマスのイスラエル攻撃の背後にロシアのプーチン大統領あり、との論理で、プーチン大統領に警告を発しています。発言の主は、イスラエル与党リクード党の有力議員で、イスラエル政府当局として次のような発言をしています。
「我々はこの戦争を早期に終わらせるつもりだ。我々は戦力優勢であり勝つだろう。そして、この後、ロシアは代償を払うことになる。ロシアはイスラエルの敵を支援している。我々は今回の攻撃を決して忘れない。我々はウクライナを支援し、その勝利を確実する。我々は、ロシアがしたことの代償を確実に支払わせるのだ。」
(参照: 2023年10月19日付Newsweek記事「Israeli Official Issues Warning to Putin on Russian State TV」)
私見ながら
米国がこうした地域紛争拡大を防止するための取り組み・軍事作戦をアンダーで粛々と実施している、という事実については、日本のように自国の防衛しか眼中にない国からすれば、「お務めご苦労様です」という感じです。米国は結構悪党でロクでもないこともしますが、その一方、過去に言われた「世界の警察官」的な苦労貧乏のようなことを、アンダーでコツコツと果たしているのです。その辺は真に頭の下がる思いです。素直に称賛したいと思います。
イスラエル・ガザ紛争の早期の停戦、沈静化を祈ります、
いわんや、紛争拡大、更なる悲劇の拡大に至りませんように、
本丸のロシアのウクライナ侵攻を早期に押し戻し、早期に停戦・沈静化しますように、
頑張れ!ウクライナ
(了)


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